YAMAHA(ヤマハ)のフォークギターについて
1963年に「ダイナミックギター(=鉄弦仕様のクラシックギター)」を開発したヤマハは、1966年には「国産フォークギター第一号」となった名機「FG-180」及び「FG-150」を発表、南こうせつ氏、伊勢正三氏、さだまさし氏らが一世を風靡した日本のフォークブームを支えました。以来その歴史は現在まで脈々と受け継がれ、今日まで国内外の多くのプレーヤーが手にしているギターブランドです。
YAMAHAのエレキギター – エレキギター博士
ヤマハのフォークギターの特徴
ヤマハのフォークギターには
- 1)戦前から続いている、長い歴史で蓄積したノウハウ
- 2)大企業ならではの開発力と独自の新技術
この二つが共存しています。ヤマハは歴史が長く材木業者とのパイプが太いため、グレードの高いマテリアルを安定的に仕入れることが出来ます。また加工精度も高く、価格を抑えたモデルであってもしっかり作られています。それゆえ本来個体差のある木材という材料を使用していながら、同じモデルならどれもほぼ同じサウンドが得られます。これはヤマハの技術の高さを物語っており、「個体差」やいわゆる「ハズレ」を気にしなくて良いという安心感をユーザーに与えてくれます。
2016楽器フェアでは、“女性の部屋”をコンセプトにしたブースを展開
ヤマハフォークギター、サウンドの傾向
ヤマハのフォークギターは、フォーク/カントリーからブルース/ロックまで、どんな音楽でも使用できるサウンドを持っています。半世紀に及ぶ歴史の中で、いろんなジャンルで広く受け入れられてきた実績のある、フォークギターのサウンドイメージを一般に定着させてきた楽器である、と言えるでしょう。汎用性の高さから「特徴が無い」と言われることすらありますが、それだけバランスのよいサウンドだという意味でもあり、プレイヤーの個性を素直に表現することができます。
ヤマハのサウンドは、ライブや録音の現場でも重宝されます。マイク録りにおいしいポイントが広く取られているので、マイクのセッティングが迅速に決まると言われます。「ヤマハだと録音がスムーズにできる」ため、レコーディングエンジニアに喜ばれる傾向にあります。またボーカルや他の楽器とのアンサンブルでも、他のパートを押しのけて前に出てきたり、逆に引っ込んで聞こえなくなってしまったりということがなく、調和のとれた聞こえ方をします。
響きを良くする「ARE」
ARE:引用 http://jp.yamaha.com/products/musical-instruments/guitars-basses/ac-guitars/l_series/lj6_are/?mode=model
ヤマハ独自の技術「ARE」は「Acoustic Resonance Enhancement(=生の響きを増大させる)」の略で、温度/湿度/気圧の操作により短期間で木材を熟成させ、ヴィンテージと同じ状態にさせる技術です。現在ではLシリーズ全モデルのトップ材に採用されているほか、ヴァイオリンや音楽ホールの木材にも使用されています。木材を物質的に変化させて音響性能を向上させるのは、マーチンの「VTS」と同じ方向性だと思われますが、詳細については企業秘密になっています。
ピックガードのこだわり
Lシリーズのピックガード
ピックガードの形状にも、ヤマハのこだわりが反映されています。特にLシリーズとFG/FSシリーズのピックガードのデザインは他社に例がなく、サウンドホール部の写真だけでヤマハだと判ります。
寸分の狂いも無くロゼッタ(=サウンドホールの装飾)に沿わせ、ネックにぴっちり接する設計には、ピックガードの加工と貼り合わせにおける高精度の製造技術が必要です。ヤマハは敢えてこの設計に固執し、高精度の加工技術を誇示しています。
Lシリーズ
ヤマハのLシリーズは、FGの高級手工モデルとして1974年にデビューし、40年を経てなおヤマハのフラッグシップとして認知されています。モデル名の「L」は「Luxury(=ラグジュアリー/高級品)」に由来し、その名の通りの美しさと音の良さを持っています。ヤマハは素直なサウンドの製品を作ることを矜持としていましたが、近年のLシリーズでは「良いアコギのサウンドとは?」というQに対するヤマハなりの回答が反映されており、くっきりとしたトレブルを残しながら中低域が主張するサウンドを持っています。
ARE処理したイングルマンスプルースを全モデルのトップ材に採用
マーチンのギターに採用されているシトカ・スプルースは、輪郭がくっきりとした明るく心地よい鳴り方をすると言われます。それに対してイングルマンスプルースは、奥行きを感じさせる雄大な鳴り方をします。イングルマンスプルースは鳴りすぎて輪郭がぼやけてしまうことがあり、材の個性を殺さずにきちんとギターを作ることは難しいと言われています。
Lシリーズのトップ材は、このイングルマンスプルースで統一されています。全モデルAREの施された単板で、接着面を広くとったネックジョイント法や独自のブレーシングにより、迫力ある中低域と明瞭な高音域を共存させています。
5層の「積層強化ネック」を全モデルに採用
Lシリーズのネックグリップは、安心して演奏に集中できる握り具合を目指し、エッジ部分は丸く、厚みを若干押さえた形状になっています。
「1ピースネックの高級感」よりも、「環境変化や弦の張力に負けない安定感」を重視し、Lシリーズは全モデル5プライのネックを採用。反りやねじれが発生しにくく、弾きやすい調整が長期的に維持できます。トラスロッドは順ぞり/逆ぞり両方に効きますので、シビアな調整もしっかりできます。
ヘッドとネックが一体化しており、またボディとのジョイント部は接合する面積が大きく取られ、振動を伝達するという重要な役割もしっかり果たされています。
石粉目止めラッカー塗装
36以上のグレードでは、「石粉目止めラッカー塗装」が施されています。塗装において木材の導管を埋めて平らにする処理を「目止め」と言い、通常は砥の粉(細かい土)や胡粉(=こふん。白い顔料)が使われます。ここで目止めに石の粉を使用することで立ち上がりが向上し、ダイナミックスレンジが格段に向上(=強弱がしっかり出る)します。
Lシリーズにはサイズの異なる3つのボディシェイプが用意されており、体格や好みに合わせて選択できるようになっています。
- LL:マーチンで言うところの「ドレッドノート」で、くびれが少なく大型。低音と高音が豊かに響き音量があるため、特にコードストロークに好まれます。
- LS:マーチンで言うところの「000(=トリプルオー)」に相当する、LLに比べてやや小さめでくびれがあり、中音域が豊かに際立つ繊細なサウンドを特徴とします。指弾きやリードプレイに好まれます。
- LJ:LSのくびれを残しながらサイズをLLに近づけた、特に座って演奏する時のフィット感が良い形状です。バランスが良くストロークでもアルペジオでもリードでも良好で、色々なスタイルの演奏をするプレイヤーに好まれます。
Lシリーズのラインナップ
Lシリーズのモデル名は、「LS26」、「LL16」のように、「ボディ形状(LL/LS/LJ)」+「グレードを表す二桁の数字」で構成されています。ボディ形状については既に紹介しているので、ここではグレードに注目して紹介をしていきます。
86/56シリーズ
田中彬博(たなかあきひろ)氏によるデモ演奏
「LL86 Custom ARE」は受注生産のためなかなか市場でも見ることの出来ない、150万円という価格を誇る貴重なフラッグシップモデルです。サイド&バックに貴重なハカランダを単板で使用、接合部分やネックのエッジを彩るウッドバインディング、ヘッドやロゼッタに配置されたアバロン貝のインレイなど、工芸品としても大変美しい逸品です。
56シリーズはこの86をベースに、装飾を若干押さえ、サイド&バックをインドローズ単板に仕様変更したモデルです。これも受注生産品ですが、価格は50万円にまで抑えられています。
LL86 を…
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LL56 を…
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36シリーズ
56シリーズの装飾を抑えたモデルで、レギュラーラインではトップグレードになります。この36まではネックにウッドバインディングがあり、石粉目止めラッカー塗装が施されています。
L36シリーズを…
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26シリーズ
ボディのウッドバインディングは残しながら、ネックとヘッドには敢えてバインディング無し、ペグはオープンタイプ(=ギアが露出している)で、クラシカルな雰囲気が演出されています。この26以降はウレタン塗装、ローズウッド単板サイド&バックという仕様になります。
L26シリーズを…
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16/6シリーズ
AREを施したイングルマンスプルーストップ、ローズウッド単板サイド&バックをいう仕様を残しながらコストパフォーマンスに挑んだモデルですが、ナチュラルカラーのみのLシリーズのラインナップにおいて、このグレードだけカラーバリエーションが用意されています。また、ピックアップが内蔵されており、エレアコとして使用することも出来ます。
L16シリーズを…
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Lシリーズの愛用者
吉川忠英
「涙そうそう」夏川りみ ギター吉川忠英
石川鷹彦氏と並び賞されるアコースティックプレイヤーの草分け的存在で、福山雅治氏、中島みゆき女史、松任谷由実女史、加山雄三氏など、数多くのプロジェクトに参加しています。また、最初に覚えたコードが「F」だったという伝説を持っています(本人談)。
吉川氏のシグネイチャーモデルはLJをベースにカッタウェイを設け、サイド&バックはマホガニー寄りの個性を持つ「セドロ」に変更、更にエレアコ化するなど大規模なカスタマイズが施されていました。
南こうせつ
かぐや姫解散後ソロとして活動。。日本人アーティストとして初めて日本武道館にてワンマン公演を行なっています。代表曲「神田川」は余りにも有名。神田川は二つ目のコードが「B7」のため、初心者ギタリストの悩みの種でした。何千回と歌ってきたという神田川ですが、この曲を聴きたくて来場したファンのために「一文字たりとも歌詞を間違えてはならない」との責任感から、常に譜面台を立てて演奏すると言います。
南氏のシグネイチャーモデルは56シリーズをベースにオリジナルボディシェイプを採用、桜のモチーフをちりばめた可愛らしい印象になっています。
南こうせつ氏による「神田川」ライブ動画 – Youtube
FG/FSシリーズ
ヤマハのFGは、マーチンのギターを分解し解析した結果をもとに開発された、「国内初のフォークギター」です。日本人にマッチさせたサイズ、求めやすい価格、はっきりとしたサウンドで人気機種となりました。FGは「日本で最も普及したフォークギター」とも言われ、今なお多くのプレイヤーに愛されています。両親や親戚の愛用していた古いFGを譲り受けた、という方も多いことでしょう。
合板で出来た安いギター?
現在のラインナップはボディトップが「スプルース単板」に統一されていますが、サイド&バックについては「単板」と言われていません。ヤマハに限らず現代のギターでは、スペックに「単板」もしくは「Solid」と表記されていないものは、薄板を貼り合わせた「合板」を意味します。手に入りにくくプレミアム感のある単板に対して、合板は安いイメージがどうしてもつきまといます。
しかし、
・合板は強度のため木材の繊維方向を交差させて貼り合わせている
・振動は繊維方向に速く伝わる
以上のことから合板のギターは振動伝達の効率がよく、アタックの立ち上がりに優れる傾向があります。ガツンとアタックが立つFGのキャラクターは、こういう所にも由来しています。
ナトー材について
FGのネックやサイド&バック材に使われている「ナトー」は、枯渇寸前となっているマホガニーの代替材として積極的に採用されています。木目の感じや音響特性がマホガニーに近く、プレミアム感以外のデメリットは確認されていません。ヤマハの使用が目立ちますが、タカミネなど他のブランドでも使用例があります。
FG/FSシリーズのラインナップ
FG/FSシリーズは、マーチンでいうドレッドノートタイプのFGシリーズ、000タイプのFSシリーズで展開されています。はっきりとしたサウンドに求めやすい価格帯と相まって、これからギターを始める人にお勧めできるギターになっています。
型番末尾に付けられている「S」は、トップ材が単板(=Solid)であることを意味しています。
The FG
ヴィンテージ市場で人気のある「赤ラベル」を継承したアップグレード版で、オール単板ボディの高級品です。中低域が豊かな胴鳴りは、ジャキっとしたアタック感よりもリッチな艶やかさが引き立っています。
The FG を…
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FG750S / FG730S/FG720S(SL/S-12) / FG700S
左から:FG750S、FG730S、FG720S、FG700S
迫力ある音量が得られるドレッドノートタイプのボディ、サイド&バック合板による鋭い立ち上がり、この二つの特徴により、FGは特にコードストロークが映える名機とされています。
FGシリーズのラインナップはサイド&バック材に違いが設けられており、
750:フレイムメイプル
730:ローズウッド
720&700:ナトー又はオクメ(=マホガニーの代替材)
価格に差が設けられていますが、それぞれにマテリアルごとのキャラクターがあり、選ぶ楽しさがあります。720と700は同一仕様ですが、700はネックのバインディングを排し、かつカラーバリエーションをナチュラルに限定することで、もう一歩価格を落としています。
FG750 を…
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FS730S / FS720S
くびれがあり若干スリムなFSは、小柄なプレイヤーにも抱えやすく、FGに拮抗する人気を持っています。FGの弦長650mmに対して若干短い弦長634mmは弦の張りが抑えられ女性にも弾きやすく、繊細なニュアンスのあるトーンはアルペジオやリードプレイにも好まれます。
FG同様730はサイド&バックがローズウッド、720はナトーまたはオクメになっています。
FS730S を…
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FG-Junior
FGを5分の4にダウンサイジングした「FGジュニア」は、低価格ながら楽器本体のマテリアルが全て天然で、小さな子どもが弾く、あるいは大人が趣味や遊びで持つための理想的なミニギターです。
合板ボディの基本モデル「JR2」とトップを単板にアップグレードした「JR2S」があり、カラーもナチュラルとサンバーストの2種類があります。
ヘッドやボディの形状、加工技術を誇示するピックガード、そして明瞭なサウンドといったFGの設計をしっかり継承していますが、それだけではありません。FGジュニアは「子どもの習い事」、「大人の趣味」この二つの目的を重要視しており、ギグバッグも大きなポケットと両肩で背負えるストラップを装備した、便利でしっかりしたものになっています。特にファスナーにYKK製のものが採用されており、マニアの間で密かな話題になりました。YKKは耐久性に優れ、バッグや靴、ジャケットなどの分野では、高級品のファスナーには必ず採用されます。これまでギターのケースに採用された例はなく、ヤマハの攻めた姿勢をはっきりと伺うことが出来るとともに、子どもの荒っぽい扱いに余裕で耐え、またグッズのスペックにこだわる大人がニヤリとするポイントになっています。
FG-Junior を…
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- カテゴリ: アコースティックギター・メーカー , [最終更新日]2017/11/30