生音にエフェクトがかかる!YAMAHA「トランスアコースティック」シリーズ[記事公開日]2019年5月6日
[最終更新日]2022年03月31日

YAMAHA トランスアコースティックギター

YAMAHAは圧倒的な開発技術を誇り、とくに「音」に対する追求と研究において、他の追随を許さない独走態勢にあるといえます。これまで、

  • A.R.E. (Acoustic Resonance Enhancement):木材を改質し、熟成された温かみのあるサウンドを作り上げる技術。楽器だけでなく、ARE処理材でコンサートホールを作ったこともある。
  • I.R.A. (Initial response Acceleration):塗料や接着剤などのストレスを軽減し、楽器の振動を促進させる技術。エレキギターやベースで採用される。
  • サウンドチューニング:ヤマハ発動機株式会社の持つ技術で、自動車の排気音をスーパーカーのようなアツいサウンドにする。
  • PIV(Particle Image Velocimetry):リコーダー内の空気の流れを可視化して計測する技術。

などなど、独自技術は枚挙にいとまがありません。今回注目する「トランスアコースティック(TransAcoustic。以下TA)」もその一つで、第一に「アコースティックピアノの音量調節」をやってのけ、世界を驚愕させました。そしてアコースティックギターにおけるTAでは、なんと「ギター本体からエフェクト音が出る」というのです。ギターアンプが内蔵されているわけでも、エフェクターが内蔵されているわけでもありません。いったい何がどうなっているのかわからない、「アコースティックの向こう側」へ私たちを連れて行ってくれる「トランスアコースティック」に、今回は注目していきましょう。

【Trans-~】
意味:「~を横断して」「~の向こう側へ」
用例:trans-Asian railway(アジア横断鉄道)


Yamaha TransAcoustic Guitar – LL-TA/LS-TA
「アンプにもエフェクターにもつないでいません(No External Amplification、No External Effects.)」という言葉に嘘偽りはなく、本当にこの楽器本体だけで、リバーブやコーラスがかかるんです。自宅で気軽に演奏するのにこのリッチなサウンドが得られるのは、他では得られない大きなメリットだと言えるでしょう。しかもこのエフェクト音は理論上「楽器本体の音」なので、エフェクト音が加わっていてもこれは「生音」です。こりゃあすごい。

代表機種「LL-TA」に見る、「トランスアコースティック」の特徴

ではさっそく、代表機種「LL-TA」をピックアップして、「トランスアコースティック(TA)」とは何か、チェックしていきましょう。

楽器本体だけで、リヴァーブとコーラスを使用できる

トランスアコースティックギターの操作

TAシリーズで使用できるエフェクトは

の2つで、どちらかだけでも、両方でも使用できます。レコーディングされた音源では、こうしたエフェクトがそれとなくかけられているのがほとんどです。しかし実際の演奏でこうした効果を得ようとすると、アンプやエフェクターなど機材につなぐか、響きのよい空間に移動するしかありませんでした。TAは特別な機材がいらず、自宅から出ずに、手元から出てくる生の音にリヴァーブ/コーラスをかけられる世界初のギターです。LL-TAは「総単板」のボディで楽器本来の音が良く、これにエフェクト音が追加されると全体の音量が増して、とても気持ちよく演奏できます。

またエレアコとして使用するときにもこのエフェクトは有効ですから、ライブ会場に持っていく荷物を減らすことができます。

シンプルな操作系

トランスアコースティックギター:コントロール

操作系は「ボディサイドにジョグダイヤル3つ」という極めてシンプルなものです。

  • リバーブ量:残響音の量を操作する。「12時」を境に「Room」と「Hall」に切り替わる。
  • ラインアウトボリューム:エレアコ時の音量操作。生音演奏時には、長押しでTA機能が起動される。
  • コーラス量:目一杯上げると十分なシュワシュワ感が味わえる。

以上3つを操作します。二つのエフェクトの操作は「量だけ」なのでとっつきやすく、気軽に使用できます。エレアコとしては、唯一ボリュームがいじれるのみのシンプル操作です。


Yamaha FG-TA TransAcoustic Dreadnought Acoustic-Electric Guitar
遂に登場した、YAMAHA定番機種委「FG」のトランスアコースティック。この動画では2種類のリバーブを、コーラスの有無も含めて聞き比べることができます。ザクザクいうFG特有の感触はそのままに、リバーブとコーラスがサウンドを一段押し上げています。

夢と基盤の詰まったボディ

LL-TA:サウンドホール 一見するとわからないが…

サウンドホールから中をのぞくと、ちょっと見慣れないサイズの大きな基盤が確認できます。この回路内で私たちをわくわくさせる何かが起こって、エフェクト音が出るわけです。ちなみに

  • TA起動中は内部基盤の緑LEDが
  • エレアコとしてテプリアンプを起動しているときは赤LEDが

それぞれ点灯し、バッテリー残量も確認できます。ちょっと本体が重たく感じるほどメカが組み込まれているとはいえ、楽器本来の鳴りに影響しにくいところに設置しているので、生音が制限される印象はほとんど感じられません。

エフェクト音を生む「アクチュエーター」

内蔵ピックアップが拾った弦振動は、TA専用プリアンプ回路に送られてエフェクト音に加工され、ボディ内に仕込まれた「加振機(アクチュエーター)」へ送られて振動となり、この振動がギター本体に伝えられて、エフェクト音としてアウトプットされます。「楽器本体を振動させることで、エフェクト音をシミュレートする」とも言い換えられます。

新デザインのバッテリーボックス

バッテリーボックスは、カートリッジに電池を二つ収め、ボディエンドに差し込む形式のものです。エンドピンジャック近くに設置されており、生鳴りに影響しにくくなっています。乾電池は単三を2本使用します。通常使用される四角い乾電池はコンビニで売っていないことも多い、世界全体で見たらなかなかの少数派なんです。その点、単三乾電池はたいがいどこでも手に入れられますから、いざというときにもスムーズに復帰できます。

シールドを挿すと、エフェクトもON

これはTA回路(システム70)の仕様ですが、ジャックにシールドを挿すと、プリアンプと同時にエフェクトも起動します。ボリュームつまみ長押しで「生音のエフェクトはON/OFFできる」のですが、シールドを介して送られるギターサウンドにはエフェクトがかかりっぱなしになるので、いらない時にはつまみを「0」にセットしておく必要があります。

通常のエフェクターのように、スイッチを入れた瞬間にエフェクトがかかる、という使い方は想定していないので、ライブ中のエフェクト切り替えはエフェクト量の調整で行います。


Yamaha CG-TA Classical TransAcoustic Nylon String Guitar | Demo
ライン(エレアコのクリアな硬い音)とエアー(マイクで拾う生の柔らかい音)をバランスよくブレンドすると、とても良好なサウンドを録音できます。それにしても、クラギのリードやアルペジオには、深いリヴァーブがよく似合います。しかもこの音を出すために「エフェクターボードを持っていかなくてもよい」というのは大きなメリットです。

楽器本体は既存モデルを踏襲

LL-TA:ボディバック LL-TA:ボディバック

LL-TAの楽器本体は、YAMAHAの上位機種「Lシリーズ」の「LL16 ARE」です。中国製ながらYAMAHAの自社工場で生産される、日本のユーザーが求める高い出荷基準をクリアした、しっかりとした作りの上位機種です。なお、鉄弦モデルでは通常版にはないカラーリングがあったり、ピックガードがクリアになっていたりと、TAは外観で区別できます。

  • トップのイングルマンスプルース単板に「R.E.」を施す。低域の伸びと高域のアタック感が向上するとともに、耳障りな高域成分がより短時間で減衰する。
  • サイド&バックはローズウッド単板で、反応の早い明るい音色がしっかり響く。
  • 最新の解析技術と職人芸によってさらに改良された「ノンスキャロップ・Xブレイシング」で、豊かな中低域の鳴りを得る。
  • 強固な多層ネックはバインディングの研磨にまで追求し、安心の剛性と高い演奏性を得る。
  • パッシブタイプの高性能ピックアップ搭載。


Yamaha CSF-TA TransAcoustic Parlor Acoustic Electric Guitar | Demo
持ち運びにも演奏にも良好なパーラーギター。やはりドレッドノートや000が主流派のアコギ業界ですが、このとっつきやすいサイズ感には、たまらない魅力があります。

トランスアコースティック・シリーズのラインナップ

では、TAのラインナップをチェックしていきましょう。現在のTAは全6モデルあり、総じて既存モデルにTA回路(システム70)を搭載、もともとピックアップのついていなかったモデルにはピックアップも増設し、ピックガードはクリアに変更しています。

LL-TA / LS-TA

TA上位機種の「LL-TA」および「LS-TA」は、「LL16 ARE」および「LS16 ARE」をベースにしたギターです。YAMAHAが誇る上位モデル「Lシリーズ」は、戦後のピアノ製造より培ってきた製造技術と最新の開発技術、新旧の技術によってバランスのとれた音質、高い演奏性、幅広いダイナミックスレンジを実現した「プレイヤーの要求を上回る」ギターを目指しています。

ボディは総単板、トップにARE処理、5Pの強固なネック、高品位ピックアップなどが仕様の特徴で、TAの効果を最大限に引き出します。

LL-TA

YAMAHA LL-TA

「LL」はYAMAHA伝統のボディスタイルで、大きなボディによる豊かな音量と幅広いダイナミックレンジを誇ります。また、世界中のアーティストにより洗練され完成した、バランスに優れ美しく透明感のあるサウンドを持っています。

LL-TAを…
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LS-TA

YAMAHA LS-TA

「LS」はやや小ぶりながら充分な音量を持ち、またバランスに優れた柔らかく明るい響きは、特にフィンガーピッキングを得意とするギタリストに向いています。

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FG-TA / FS-TA

YAMAHAの「FGシリーズ」は、ヤマハ初の国産フォークギターとして半世紀以上の歴史を誇る名機です。サイド&バック合板を基本とした力強い、それでいて引き締まったサウンドを持ち味とし、音が良く頑丈でありながら手に入れやすい低価格を実現しました。「ケースが付属しない」ことに注意は必要ですが、逆にこれは「ケースが選べる」というメリットでもあります。

FG-TA

YAMAHA FG-TA

「FG-TA」のボディはスプルース単板トップにローズウッド合板サイド&バックという組み合わせで、サスティンの豊かな、芯のある明瞭な音を持っています。

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FS-TA

YAMAHA FS-TA

こちらもスプルース単板トップ、ローズウッド合板サイド&バックという組み合わせですが、ボディはやや小さめ、弦長もやや短めで抱えやすく弾きやすく、かつサウンドに繊細なニュアンスが加わります。

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CSF-TA

YAMAHA CSF-TA

書斎やベッドルームに置きたくなる、場所をとらないギターが人気を集めています。「CSF」シリーズはクラシックギターより一回り小型なボディにショートスケールのネックという組み合わせで、肩の力を抜いて演奏するのに向いています。小型ですがYAMAHA独自の音響解析技術が活かされ、音量はふつうサイズ並みにあります。

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CG-TA

YAMAHA CG-TA

YAMAHAの伝統と言えば、ナイロン弦も鉄弦に負けていません。「CG-TA」はスペインの伝統技術とヤマハの最新技術とのコラボで作られたギターで、オバンコール独特の杢と響きを楽しむことができます。

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TA 6モデル仕様比較

以上6モデルを見て行きましたが、ここで主要な仕様を並べて比較してみましょう。木材や寸法にそれぞれ違いがあるのが分かりますね。「ビンテージティント」がTAシリーズを象徴するカラーリングですが、「FG-TAとFS-TAは既存モデルと色が被っていない」というのが面白いところです。

LL-TA LS-TA FG-TA FS-TA CSF-TA CG-TA
定価 ¥150,000 ¥150,000 ¥80,000 ¥80,000 ¥95,000 ¥85,000
ベースモデル LL16 ARE LS16 ARE FG830 FS830 CSF1M CG162S
シェイプ ドレッドノート的なオリジナル 「000」に近いフォークタイプ 伝統的なFGスタイル 「000」に近いフォークタイプ 「0」に近いパーラータイプ クラシック
弦長 650mm 650mm 650mm 634mm 600mm 650mm
ボディ最大幅 415mm 380mm 412mm 380mm 340mm 370mm
トップ材 イングルマンスプルース単板(A.R.E.) イングルマンスプルース単板(A.R.E.) スプルース単板 スプルース単板 シトカスプルース単板 スプルース単板
サイド&バック ローズウッド単板 ローズウッド単板 マホガニー マホガニー マホガニー オバンコール
ネック マホガニー+ローズウッド5P マホガニー+ローズウッド5P ナトー ナトー ナトー ナトー
指板&ブリッジ エボニー エボニー ローズウッド ローズウッド ローズウッド ローズウッド
TAオリジナルカラー ビンテージティント ビンテージティント ビンテージティント、ブラウンサンバースト、ブラック ビンテージティント、ブラウンサンバースト、ルビーレッド
ベースモデルにもあるカラー ブラウンサンバースト ブラウンサンバースト ビンテージナチュラル ナチュラル
ケース 有り 有り なし なし >有り なし

表:TA各モデルの比較(価格は2019/5/6時点)


Yamaha FS-TA TransAcoustic Small Body Acoustic-Electric Guitar
FGよりやや小型のFS。プレイヤーに寄り添う優しいサイズ感とともに弦長もやや短く、軽くて柔らかい個性を持っています。


以上、YAMAHAが生み出した「トランスアコースティック」ギターをチェックしていきました。YAMAHAはかねてより、プロミュージシャンばかりでなく「生活の中で楽器演奏を楽しむ人」に向けた製品開発を続けてきました。このTAは「生音にエフェクトをかけて気持ち良く弾く」ことが最大のポイントですが、これこそまさに自宅で弾いて楽しいギターだと言えるでしょう。ショップや展示会などで、ぜひこのTAを体験してみてください。