ヤイリ工房内、ネックの取り付けを待っているギター。どんな姿に仕上がるのでしょうか。
使用する木材やパーツ、弾き心地やサウンド、カラーリングやインレイなど装飾まで理想通りに、ギターをオーダーする。ギター好きならば一度は思い描く夢ではないでしょうか。
「でもそれ、すっごく高いんでしょ?」と思うかもしれませんが、レギュラーモデルをベースにちょこっと仕様変更する「セミオーダー」ならば、比較的リーズナブルにオーダーができます。カラーリングやネックグリップを指定できるし、必要な弦やパーツで最初からビシっとセットアップされます。後からパーツ交換や調整をしなくて済むから、オーダーの方がむしろ安上がりかもしれません。「セミオーダー」という選択は、なかなか合理的なんです。
そんなわけで、今回我々Supernice!スタッフは、ギターブランド VINCENT にオーダーを依頼する依頼主さんのご同意をいただいて、セミオーダーの様子を取材させていただきました。「オーダーメイドってどんなもの?」と気になっている人は是非参考にしてください。
フルオーダー:本体の設計から何から何までオーダーする。
セミオーダー:既存モデルの仕様を変更する。カスタムメイド、単にカスタムとも。
国内の大メーカーならば、アストリアス、タカミネ、ヘッドウェイ、モーリス、ヤイリ、ヤマハらがオーダーを受け付けており、全国の代理店でオーダーできます。オーダーの方法は各社さまざまで、用意された選択肢から好きな仕様を選んでいったり、スタッフさんと対面で打ち合わせたりします。
今回、依頼主さんがオーダー先をVINCENT(ヴィンセント)に決定したのは、ギターの魅力に加え「住まいから事務所が近く、直接やり取りしやすいから」ということでした。カーディーラーで新車を買うのと同じ感覚でしょうか、「調整などで今後もお世話になるなら近くがいい」という判断だそうです。
セミオーダーの依頼では何をするのか、やはりメーカーそれぞれではあります。しかしフルオーダーと違って既存のギターを出発点にしますから、「どんなギター本体を作るのか」というそもそも論はありません。そのぶん打ち合わせ所要時間は30分から1時間程度と、短く抑えることができます。
依頼から受け渡しまでは、
だいたいこのようなプロセスで、今回のオーダーもこれに従っています。
VINCENTは、ヤイリでギター職人/アーティスト担当としてキャリアを積んだ、小川浩司(おがわ・こうじ)さんが独立して立ち上げたブランドです。プロデュースしたギターをヤイリが製作する二人三脚、という珍しいスタイルで「K.Yairi VINCENT」と併記されることもあります。こうしたことから、VINCENTでのオーダーはヤイリにオーダーするのとほぼ同じ手順で進められます。
岐阜県可児市、依頼主さんの「好きなネック探し」のため訪れたヤイリギターのショールーム。ここは誰でも予約なく入場できます。
VINCENTは自社で製品を企画し、製造をヤイリに依頼するブランドです。だからヤイリにオーダーするときと同様、ショールームのサンプルから好きなネックを指定したら、その通りに作ってくれます。2019年6月某日、依頼主さんは打ち合わせの前にヤイリを訪れ、ずらりと並ぶサンプルをすべてチェックし、「好きなネック探し」を行いました。コレだ、というギターの品番をメモして、岐阜県美濃加茂市にあるVINCENTの事務所へ向かいます。
「サンプルと同じギター」は作れるの?
『全く同じモノを求めるのは難しいと思います。しかし同じ所を狙って作るので、それほどの差はありません。むしろもっといい物ができる可能性もあります。サンプルを触っているお客さんが気に入ったポイントをフォーカスするんです。またその人のギターとの関わりをお聞きして、読み取ります。
これは例えば料理と一緒ではないでしょうか。塩加減や水加減などありますから、厳密には全く同じ味にはなりませんよね。しかし腕のいい料理人ならば、「いつもの味」をちゃんと出すし、お客さんが欲しい味を出すこともできます。ヤイリの工房も同じで、そのクオリティを保つことができるんです。なので、あまり心配はありません。(小川浩司氏談。)』
VINCENTのショールーム。依頼主さんは確認のため他のモデルと改めて弾き比べ、「VL-5」をオーダーのベースにすることにしました。
打ち合わせは「注文の内容を確認する」のが目的で、オーダーするギターの各部について、対面で確認をしていきます。「用紙を埋めて、提出したら終わり」とはいきません。メーカーは受けた注文通りに作ったのに、「思っていたのと違う」なんてこともないわけではないんです。
そんなわけで今回のオーダーは「VL-5」をベースに、ピックガードボディトップのカラーリングを指定した上で、
といった内容を依頼しました。
ボディトップとピックガードの色は固まっていたようですが、決めかねているところについては、小川さんの知恵を借ります。
VINCENT代表、小川さんと対面での打ち合わせ。ピックガードの色調も、意外と選択肢が多いんです。
「オーダーだから値上げする」ということはありません。しかし工程や部品が増える注文には、追加料金が必要です。グリップの指定は、通常なら追加料金なし。しかし今回指定したネックはVL-5より幅広で、本来とは違うネックを挿すので若干のアップチャージが必要でした。カッタウェイを付けるのも、アップチャージ対象です。
ピックアップは、VINCENTショールーム内のサンプルで実際に音を出して検討。定番ピックアップに落ち着いたようです。
打ち合わせの内容をメモし、改めて正式なオーダーシートを作成します。
以上で打ち合わせは完了。
VINCENTのサンプル確認からここまでで、だいたい30~40分くらいでした。
実際に送られたオーダーシート。依頼主さんは意向がすべて反映されていることを確認し、製作の開始を正式に依頼しました。小川さん曰く、今回は「注文が多いほう」とのことでした。
後日、小川さんから仕様書(オーダーシート)と見積書が送られました。これに間違いがないことを確認し、製作開始を正式に依頼します。さて、どんなギターができるんでしょうか。
VINCENTでは、ギターが出来上がっていく経過を送ってもらえます。少しずつ完成に近づいていく「夢のギター」。そのわくわくを分けてもらいましょう。
10月初旬。ネックの取り付けを待っている状態。指定したカラーリングに合わせ、まだら模様のあるスプルースを選定しています。
11月中旬。ネックグリップを確認する「ネック合わせ」。ヤイリのオーダー同様、依頼主がこれに立ち会って自ら確認することもできたんですが、タイミングを合わせることができず小川さんに依頼。
12月初旬。塗装工程に入りました。
こちらは背面。VL-5はメイプル材のサイド&バックですが、ネックのマホガニーと同じ色ですね。
2019年12月某日、出来上がったギターの受け渡しのため、依頼主さんは再びVINCENTのショールームを訪れました。出来上がったギターが、これです。
指定したカラーは、トップがシースルーホワイト、ピックガードは赤べっ甲柄、サイド&バックはネックと同じ色です。そのほかバインディングやポジションマークなどは基本モデルと同じです。
ロックピンも注文通り。ストラップピンとアウトプットジャックを分ける設計は、近年ほかのメーカーでも散見します。
ヘッドには「K.Yairi」と「VINCENT」のロゴが。書体もインレイの材料も違う、面白い組み合わせです。
6弦ペグは、ヒップショットのDチューナーです。レバーを引くとペグ自体が回転し、チューニングをDにドロップしてくれます。1~5弦はゴトー製ペグ(日本製)、6弦だけヒップショット製ペグ(米国製)ということで、6弦だけツマミが適合しなかったのをうまいこと加工したそうです。おかげで総てのツマミが同じ、統一感のあるルックスです。
内部のラベル。モデル名は「VL-5c CTM」です。
シースルーホワイトは、光の加減でクリームっぽくもピンクっぽくも見える、不思議なカラーです。まだら模様のあるトップ材を選んだのは、逆にきれいなスプルースでシースルーカラーを吹くと、安っぽい印象になってしまうからなのだとか。
木目がうっすらと確認できます。ご存じの通り、トップのスプルースは黄色い木材です。ホワイトを薄く塗ると地の黄色が浮き出てしまう、かといって厚く塗ると木目を消してしまう、ということで塗装の前に他の木材で何度かリハーサルをしたのだとか。ヤイリの職人気質、恐れ入ります。
イメージはあったんですが、予想以上に美しいギターでびっくりしました。そしてなんとも「思った通りすぎる」弾きやすさです。
ドロップDでも6弦がくっきりと立つサウンドは、まさに求めていた音そのものでした。できたばかりのギターなのに、想像以上の音量です。エレアコとしても、音量のバランスが整っている、たいへん良好なサウンドです。
小川さんとヤイリの職人さんは私の意向を汲んで、いろいろなところに気遣いのある仕事をしてくれました。ありがとうございます。大切にバリバリ弾きます。
カラーに合わせてトップ材を選定する、加工までしてペグボタンを統一する、指定弦に合わせ、ピエゾの音量バランスを調整する…こうした作業は、依頼主さんの想定にありませんでした。良いギターが欲しいという依頼主さんの気持ちに、良いギターを作りたいというメーカーが応え、このギターは作られたのです。
以上、VINCENTでセミオーダーした模様をお伝えしました。
VINCENTにおけるオーダーのポイントをまとめてみました。
オーダーとはいわば製品企画であり、これに立ち会うのは非常にクリエイティブな体験でした。基本設計が決まっているとはいえ、オーダーできる内容は予想以上にフレキシブルです。メーカーさんは注文を真摯に、また興味深く聞いており、依頼主さんは納得できるまで打ち合わせができた様子でした。完成品は注文通りで、かつ予想を上回っていて、出来栄えに感服しました。
今回は事務所を訪問しましたが、メーカーによって電話やネット、また各地の代理店でオーダーすることもできます。自分だけのために作られたギターを弾くのは、この上ない幸せです。あなたはどんなギターが欲しいでしょうか。ぜひオーダーも検討してみてください。
今回お世話になりましたヤイリギターさん、VINCENTさんより、読者の皆さんにプレゼントをいただきました!
A) K.YAIRI 10cm定規:3名様
B) VINCENT ワイピングクロス:3名様(色はお任せください)
C) VINCENT カジュアル軍手(メンズサイズ):1名様
プレゼントをご希望の方は、当サイトのお問い合わせページから、
お名前とメールアドレス、住所を記入の上、「その他」をチェック、
メッセージ本文を「アコースティックギター博士 プレゼント応募」で始め、
をご明記のうえ、送信してください。
応募の締め切りは2020年2月29日です。
当選者の発表は発送をもって代えさせていただきますが、当選した人は、ぜひご自分のSNSで盛大に自慢してください。ご応募、お待ちしております!
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