《アコギ弦の元祖》「D’Addario(ダダリオ)」の弦について[記事公開日]2022年10月4日
[最終更新日]2022年10月4日

ダダリオのアコギ弦

「ダダリオ(D’Addario)」は多くのギターメーカーが出荷用の弦に採用している、弦の王道と言えるブランドです。ダダリオ社はダダリオ家の家族経営でありながら世界最大級の弦メーカーであり、ニューヨークに世界本社を置くほかイギリス、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、オーストラリア、中国など世界中にオフィスを構え、製品は100カ国以上で流通されています。弦以外にもストラップやカポタストなどのグッズ、近年ではフェイスシールドまで作っています。

ここではダダリオがリリースするアコギ用スチール弦に注目し、特徴を探っていきましょう。


The D’Addario Factory Tour: A Guide to the Inner Workings of the Guitar String
一日に50万本以上の弦を生産します。世界中の需要に応えるべく多くの工程が自動化される中、パッケージングは手作業の割合が多いようですね。

ダダリオの長い歴史

ダダリオと弦との関わりは約350年前、17世紀のイタリアまでさかのぼることができます。ダダリオの長い歴史をざっと見していきましょう。

17世紀《先祖代々、農村で弦を作る》

ダダリオ家が最初に楽器の弦を作り始めたのは、1680 年頃だと伝えられています。現在で言うイタリア共和国アブルッツォ州は酪農が盛んで、その延長で羊や豚の腸からハープやリュートなどのガット弦が作られていました。ダダリオ家は代々この地方のサッレという村に住み、弦製造を続けました。

20世紀前半《渡米し起業、法人化する》

1905年の地震でサッレが被災したことを受け、チャールズ・ダダリオ氏がニューヨークに移住します。氏の父ジョヴァンニ・ダダリオ氏がサッレで製造した弦をNYで売っていましたが、やがてNYでも製造を開始します。その甲斐あって1930年頃には「C. D’Addario & Co.」として法人化し、好調な売り上げを記録します。

ギター弦にイノベーションを起こす

チャールズ氏は商売よりも家庭を優先したため、会社の拡大には消極的でした。しかし後継ぎのジョン・ダダリオ氏は違っていました。ジョン氏の進言により新しいギター弦の開発が始まり、1930年代のうちに80/20ブロンズ弦を開発します。1938年に発表された新素材「ナイロン」を使った弦は、戦後に完成します。

戦後《多角化への、新会社設立》

製品が好調な売れ行きを見せる中、ジョン氏はロックンロールの台頭を見るや、エレキギター用スチール弦に次なるチャンスを見出します。しかし父親の賛同が得られず、ジョン氏は1954年に別会社「Archaic Strings」を設立、エレキ弦の製造に着手します。製品は1年もしないうちにエルヴィス・プレスリー氏に愛用され、知名度も売り上げも急上昇します。

弦メーカー「Darco」設立(1960年代)

1962年、チャールズ・ダダリオ氏は引退し、会社の経営権を息子のジョン・ダダリオ氏に譲りました。そこでジョン氏はC. D’Addario & Co.と Archaic Stringsを合併し、「Darco Music Strings, Inc. (ダルコ)」を設立します。ダルコはギター市場の活況に乗じ、次々と新製品をヒットさせます。企業買収が流行だった時代でもあり、充分に企業価値を上げた状態で1968年、ダルコはマーチンの買収を受けて同社の一部門に収まり、1974年にフォスファーブロンズ弦を開発します。

1970年代~《新たなる会社設立からの、多角化》

ジョン氏はマーチン傘下となったダルコを統括していましたが、1974年、親会社マーチンの経営陣と揉めて退社します。翌1975年にジョン氏は二人の倅、ジョンJr.&ジム兄弟との3人で新会社「J. D’Addario & Co.」を設立、同社は数年で大きな工場へ移転するほどに売り上げを延ばし、現在のダダリオ社の母体となりました。

同社は「業務の垂直統合」をコンセプトに効率と品質の両方を向上させつつ、1995年にEvans(ドラムヘッド)、1998年にPlanet Waves(ギターストラップ)など、いろいろな企業を買収して多角化していきます。

1980年代には巻弦の工程を自動化し、生産量を倍増させました。1990年代には、弦の世界市場の3割を占めるまでに成長します。

ダダリオ弦の特徴

張りのある明瞭なトーン

ヘックス・コア 6角形の芯線「ヘックス・コア」は、ダダリオの発明。この構造により巻き線が芯線に喰いつき、安定性や耐久性が向上する。

ダダリオ弦のサウンドは、バランスよく響く、張りのある明瞭な音色が特徴です。コーティング弦が発明される前から弦の寿命にはこだわりがあり、通常の弦でさえ新品の音質が比較的長続きします。

色分けされたボールエンド

ボールエンド 6本が一袋に収められていても、色分けされているのでごっちゃになることは、ほぼない。

カラフルに色分けされたボールエンドは、見ただけでダダリオだと分かる特徴です。6弦なら金、5弦なら赤といった色分けは判別しやすく、弦交換がスムーズです。

材料やコーティングにも選択肢のある、豊かなラインナップ

ダダリオのラインナップ ダダリオ製品をキャラクターごとに並べた図。このうち「EXP」は生産終了。ダダリオでは「ブロンズ弦が最もブライトに響く」と解釈している。フォスファー・ブロンズの超高音域はブライトさよりむしろ音抜けの成分と捉え、低音域をメロウ成分と解釈しているらしい。

ダダリオは80/20ブロンズ弦もフォスファーブロンズ弦も開発した歴史があり、今なお根本的に新しい弦の開発に積極的です。ブロンズとフォスファーブロンズの中間にあたる「アメリカンブロンズ」、また新しい響き方を提唱する「ニッケルブロンズ」の二つが象徴的です。

コーティング弦においては、コーティングした巻き線を巻き付ける「XT」、完成した弦をコーティングする「XS」という、製法の異なる2モデルで展開しています。

ダダリオ・アコギ弦のラインナップ

では、ダダリオ弦のラインナップを見ていきましょう。さまざまなモデルがリリースされていますが、ほとんどの弦でエクストラライト(10-47)、カスタムライト(11-52)、ライト(12-53)、ミディアム(13-56)の「主要4ゲージ」があり、このほかモデルごとにこだわりのゲージも見られます。種類があまりに多いので、カテゴリー別に見ていきましょう。

《王道スタンダード》80/20 BRONZE、PHOSPHOR BRONZE

現代アコギ弦の王道を二分するブロンズとフォスファーブロンズ、その両方をダダリオは開発しています。ダダリオの解釈では、ブロンズ弦の音は非常にブライトで、フォスファーブロンズ弦は甘い音、となっていますが、こればっかりは聴く人の感性に左右されるところです。フォスファーブロンズの超高域をブライトと解釈する人も、ブロンズの中高域を甘く響く音と解釈する人もいます。王道ゆえに価格はお手頃なので、どっちも試してみて自分なりの解釈を構築してみてください。

80/20 BRONZE

ブロンズ弦のパッケージは、構えている感じのギターの接写が目印。画像の「ブルーグラス」ゲージは、他のモデルでも「Light Top/Med Bottom」として市民権を得ている。高音側がライト、低音側がミディアムだが、3弦はライト(24)とミディアム(26)の中間である「25」になっているところがポイント。

ブロンズ弦は1930年代からアコギ業界を支えてきた、ブライトで切れのあるサウンドが持ち味です。押し出しの強さもあるため、元気にバリバリ弾く人に特にお勧めです。主要4ゲージのほか、ブルーグラス(12-56)と12弦ライト(10-47)があります。

PHOSPHOR BRONZE

フォスファーブロンズ弦のパッケージは、仰向けになっている感じのギターの接写が目印。総勢13モデルという幅広さで、12弦のゲージにも選択肢が4つある。

1974年に開発されたフォスファーブロンズ弦は、きらめく超高域と太い低音域の良好なバランスが魅力で、瞬く間にアコギ弦のスタンダードになりました。ダダリオでは13モデルという圧倒的なラインナップで、主要4ゲージのほかブルーグラス(12-56)とヘヴィ(14-59)があり、12弦用には4種類ものゲージがあります。このほかDADGADチューニング向け(13-56)、ナッシュビルチューニング向け(10-27)、リゾネーター(ドブロ)向け(16-56)と、目的別のゲージも揃っています。

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《素材の違いで個性を主張》85/15 AMERICAN BRONZE、NICKEL BRONZE

ダダリオには歴史上、現代のスタンダードとなったブロンズ弦とフォスファーブロンズ弦の両方を開発した実績があります。それゆえ次世代のスタンダードや新しい選択肢になるような、新しい素材にも積極的です。

85/15 AMERICAN BRONZE

アメリカンブロンズ弦のパッケージは、6弦側から見たきらめくサウンドホールの接写が目印。ゲージ名の扱いが他のモデルと異なっているので、注意が必要。

「アメリカンブロンズ」は、銅85%と亜鉛15%を混ぜた合金で、この配合はブロンズとフォスファーブロンズのだいたい中間にあたります。サウンドにおいても、高音のきらめきと低音のふくよかさがブロンズとフォスファーブロンズの間を埋めるような、両者の特徴をうまくブレンドしたキャラクターになっています。

このモデルだけの独特なゲージが採用されており、エクストラライト(10-50)、ライト(11-52)、ミディアムライト(12-54)、ミディアム(13-56)12弦ライト(10-50)があります。

NICKEL BRONZE

大胆な「NB」のロゴが目印。ゲージも多く、このモデルに対するダダリオの気合の入り方が感じられる。「バランスド・テンション」は、各弦の硬さが均一になるように整えられた、ダダリオのオリジナルゲージ。

「ニッケルブロンズ」は、銅と亜鉛、そしてニッケルを主成分とする合金です。ニッケルシルバーと呼ばれることもあり、フレットの材料として知られています。ニッケルブロンズ弦は、整った倍音の独特の響き方によってギター自体のキャラクターを前に押し出すようなサウンドが特徴です。芯線にダダリオ独自の高炭素カーボン「NY STEEL」を使っているプレミアムなモデルで、チューニングの安定度や弦の強度が従来の弦より向上しています。

主要4ゲージのほかLight Top/Med Bottom(12ー56)、リゾネーター(ドブロ)向け(16-56)、12弦ライト(10-47)があります。また各弦の太さを微調整して張力の差を抑えた「バランスド・テンション」として、ライト(12-52)とミディアム(13-56)がリリースされています。

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《コーティング弦》XS、XT

今や当たり前のように各社がリリースしているコーティング弦ですが、ダダリオではコーティング法の異なる2モデルで展開しています。2モデルとも芯線にNY STEELを採用し、また新たに採用したFusion Twistテクノロジーの採用でボールエンドの取り付け法を刷新しており、チューニングの安定性と耐ブレーク性にも優れます。

XS PHOSPHOR BRONZE


DS XS Benefits StrengthStability 16×9

「XS」シリーズは、完成した弦にコーティングを施すタイプです。巻弦には超極薄のフィルムコーティング、プレーン弦には独自のポリマーコーティング処理を施して、弦をしっかり保護します。コーティングの寿命はかなり長く、XTより遥かに長いというレビューもあります。サウンドには、従来のフォスファーブロンズ弦と変わらないナチュラル感があります。

海外ではブロンズ弦もありますが、日本では今のところフォスファーブロンズ弦が流通しています。ゲージは主要4ゲージと12弦ライト(10-47)です。

XT 80/20 BRONZE/XT PHOSPHOR BRONZE

バリトンギター用の極太ゲージ(16-70)は、XTフォスファーブロンズでのみ手に入れられる。

「XT」シリーズは、コーティングした巻き線で巻弦を作るタイプです。完成した弦を覆ってしまうタイプのコーティング弦よりも、被膜が弦の屈曲や振動に干渉しにくいのがメリットで、非コーティング弦と変わらないナチュラルかつダイナミックな響きが得られます。なお、プレーンスチール弦にもコーティングが施されます。

ラインナップは多く、80/20ブロンズでは主要4ゲージとLight Top/Med Bottom(12ー56)、12弦ライト(10-47)があり、フォスファーブロンズでは更にリゾネーター(ドブロ)向け(16-56)とバリトン用(16-70)があります。

《設計に由来する甘い音》FLAT TOPS、SILK & STEEL

設計の工夫によって、柔らかなタッチや甘いトーンといったレトロな雰囲気が得られる弦は、2タイプリリースされています。

FLAT TOPS PHOSPHOR BRONZE

ブラウンのカラーはドブロ用の目印。ダダリオではドブロ用のラインナップも充実している。

「フラットトップ」は、巻き上がった弦を3回研磨することで、フラットワウンド弦のような滑らかかつノイズのないタッチとラウンドワウンド弦のダイナミックなサウンドの両立を達成した弦です。指に振れるところは研磨されて平らですが、芯線に巻きついているところは丸いまま、というわけです。工程が多い分だけお値段は高めですが、他にはない独特のモデルです。ゲージはエクストラライト、レギュラーライト、ミディアム、リゾフォニック、の4種です。

SILK & STEEL

まさかの12弦仕様も。シルク&スチール弦で12弦モデルはかなり珍しい。

「シルク&スチール」は、絹を巻きつけた芯線に銀メッキした導線を巻きつけて作る弦です。タッチが柔らかく押弦がラクで、フィンガリングノイズの少ない甘いサウンドが得られます。パーラーギターなど小型のギターに特に良好ですが、普通のギターにも盛んに利用されます。ゲージにバリエーションはありませんが、6弦用と12弦用があります。


以上、ダダリオの歴史、またアコギ用スチール弦をフォーカスしていきました。ダダリオと並んでスタンダードに君臨するマーチン弦が、ダダリオの会社を買収したところから製造を開始したというのは感慨深いポイントではないでしょうか。

金属やコーティング法まで選べる選択肢の多さ、また特殊なチューニングにまで対応できる豊富なゲージがありますから、きっと納得のいく弦を見つけることができるでしょう。

本記事の内容について、ポイントは以下のような感じです。

  • マーチン弦の出発点だった「ダルコ」も、もともとはダダリオ。
  • ブロンズ弦とフォスファーブロンズ弦は、ダダリオの発明。
  • ボールエンドは弦ごとに色分けされる。
  • 「80/20ブロンズ」と「フォスファーブロンズ」にあるブルーグラス(12-56)ゲージは、「Light Top/Med Bottom(12ー56)」としていろいろなモデルから出ている。
  • 「フォスファーブロンズ」には、12弦のゲージが4つもある。
  • 「アメリカンブロンズ」のゲージ名は、他モデルとちょっと違う意味を持つ。
  • 「ニッケルブロンズ」には、「バランスド・テンション」のゲージがある。
  • 「XS」はフォスファーブロンズのみ、「XT」は80/20ブロンズとフォスファーブロンズの両面で展開。
  • バリトンギター用の弦は、「XTフォスファーブロンズ」。
  • ほぼ全てのモデルに、12弦用がある。

参考資料:
D’Addario(EN)Wikipedia(EN)Funding UniverseMakingMusicThe New York TimesForbes