ヤマハの「THR30IIA Wireless(以下、THR30IIA)」は、弾き語りにも便利な高性能アコースティックアンプです。先行してリリースされたエレキギター用「THR-II」シリーズにも、アコースティックギターは使えました。しかしTHR30IIAはその性能を受け継ぎながらも、アコギ&弾き語りに振り切ったコンセプトで再設計されています。一台あれば弾き語りが良い音でできて、気軽に「弾いてみた」動画を作成でき、屋外での使用や音楽制作もできます。今回は、この「THR30IIA Wireless」に注目していきましょう。
THRの弾き語りアンプ登場!!YAMAHA THR30IIAWireless マイク端子付きアコースティックアンプ。いい音で簡単に演奏動画のSNS投稿も可能!
エレアコは便利だけど、ピックアップの音は生の音と違って聞こえるのが普通です。これに対してTHR30IIAには、エレアコのドライな音を生音っぽく聴かせる機能が付いています。EQやエフェクターなどいろいろな機能もあり、このアンプだけでプロのレコーディングのような「完成された音」を作ることができます。
THR30IIAは、「トーンセレクト(TONE SELECT)」でキャラクターを選び、「トーンブレンド(TONE BLEND)」で素の音と混ぜることで、
この二つがうまく配合された、上質なアコースティックサウンドを作ることができます。
「トーンセレクト」は、ギターにマイクを向けた「マイク録り(エアー録り)」の音を選ぶことができます。これによりマイク録り特有の、倍音が豊かで生々しい胴鳴り感や弦鳴り感のある、立体的なアコースティックサウンドが得られます。THR30IIAのトーンセレクトに5つ用意されたキャラクターは、3種のマイクシミュレーション、ナイロン弦に特化したシミュレーション、そして素のままの音です。
エレアコのピックアップにも、ピエゾ、マグネット、コンタクトマイク、コンデンサーマイク、またその組み合わせなどさまざまあり、サウンドもいろいろです。トーンセレクトはこうした多様化するピックアップに対し、「どのようなタイプのピックアップでもサウンドが破綻せず、ナチュラルな音色で出力できる」ということにこだわって作られています。ユーザーは細かいところに心配することなく、安心して使うことができるわけです。
トーンセレクトのサウンドを作るのに使われたモデリング技術「VCM(Virtual Circuitry Modeling)」は、世界初のモデリングシンセサイザー「YAMAHA VL1(1993)」に始まる、30年近い積み上げを誇るヤマハの独自技術です。自然の音響現象や電子回路の挙動をデジタルモデリングするもので、これまでヤマハのPA機器、シンセサイザー、電子ピアノ、ギターアンプ、VSTプラグインエフェクトなど、さまざまな製品の開発で活用されています。
「トーンブレンド」は、ギターから送られるそのままの音(DRY)とトーンセレクトで選んだ音のキャラクター(WET)の、ブレンド具合を調節することができます(「FLAT」選択時はWET方向で音量ブースト)。
アンダーサドルピックアップのライン音のような硬質な音は、生の音に比べて「平面的」と言われます。しかし鋭く力強いアタック感があり、バンドアンサンブルに埋もれてしまわない突破力を持っています。いっぽうマイク録りの柔らかい音は、倍音の豊かな「立体的」な音です。しかしバンドアンサンブルに溶け込むあまり、存在感を失ってしまうことがあります。「トーンブレンド」の操作で、アタック感と倍音感とのバランスをうまく調節することで、バンド編成や曲のイメージにマッチしたサウンドを作ることができるわけです。
またこうした「ラインとエアーの同時録り」は、実際のレコーディングでも使用されるテクニックです。
「ステレオイメージャー」は、ギターの音像を左右に広げる装置です。設定は3段階あり、「ノーマル(NORMAL)」ではギターの音がアンプ中央から真っすぐ、「ワイド(WIDE)」では左右に広がったように、「ワイダー(WIDER)」では最大限に広がったように聴こえます。これはシンプルに「ギターの広がり感を作る」というエフェクターの一つと考えることもできますが、ギターの音像を左右に広げることでボーカルをより際立たせることができ、弾き語りに最適な機能と言えます。
THR30IIAには、トレブル(TREBLE)、ミドル(MIDDLE)、ベース(BASS)の3バンドイコライザーと、コーラス/ディレイ、長短のリバーブという2系統のエフェクターが備わっています。エフェクターは本体ツマミの操作で簡単に操作できるほか、専用アプリ「THR Remote(リモート)」と連携することで細かく追い込んだ設定ができ、またアプリでのみコンプレッサーが使えます。
こうして完成させたサウンドは、5つの「ユーザーメモリー(USER MEMORY)」に保存させることができます。音を作ったらユーザーメモリーのスイッチを長押しして保存、ポチっと押すと呼び出しができます。本体への保存は5つまでですが、専用アプリ「THR Remote」を使用すれば、スマートデバイスの容量が許す範囲で無限に保存できます。
THR30IIAには、専用プリアンプを備えたボーカルマイクの入力端子も備わっています。アコースティックアンプでありながら、優秀なボーカルアンプとしても機能するわけです。
THR30IIAのマイク入力端子は、2011年から続くTHR史上、初めての採用です。標準のフォーンプラグとXLRプラグの両方が使用でき、スイッチの切り替えで楽器を挿すことも出来るので、マイク以外でもキーボードのようなライン入力やもう1本ギターを入れてツインギター用として使用することも可能です。
このマイク入力には、高品位な録音のために開発されたマイクプリアンプ「D-PRE(Dプリ)」が内蔵されています。このプリアンプは自然な中低域が美しく響くように設計されており、アコギの音になじむ、それでいてうまく住み分けた、高音質のボーカルサウンドが自動的に手に入ります。
ギター用とは別に、独立したボーカル用リバーブが備わっているのもうれしいポイントです。ツマミの操作でリバーブの深さを増減できます。
専用アプリ「THR Remote」を使用すると、ボーカル用の3バンドイコライザーを操作することができます。これもやはりギター用とは別の回路となっており、ギターもボーカルもそれぞれ好きなサウンドに設定することができます。またボーカル用に、「HPF(ハイパスフィルター)」が備わっています。こちらを起動させると低域が絞られ、ボーカルの音抜け感を持ち上げることができます。
THR30IIAはワイヤレスに関する機能が充実しており、ケーブルのわずらわしさから解放されます。日ごろの練習でも本番でも、ケーブルの束縛から解き放たれる無上の開放感が得られます。
この機能については、こちらの記事を参照してください。ワイヤレス機能のほか、基本操作やオーディオ性能、クロマチック・チューナー、各種の接続端子について、またDTMでの活用など、THR30IIAと共通するところが多く紹介されています。
《進化を遂げたデスクトップアンプ》YAMAHA「THR-II」レビュー! – エレキギター博士
THR30IIAでは、自由度の高いサウンドメイクができる「THR Remote」、良い音で演奏動画を作成、SNSなど動画投稿サイトに投稿できる「Rec’n’ Share」、二つの無料アプリが利用できます。
追い込んだサウンドメイクができるアプリ「THR Remote」については、上述のTHR-IIレビュー記事を参照してください。アプリでしかできない細かいセッティングができるほか、THR30IIAではボーカルのサウンドメイキングまでできます。
「THR Remote」は、エレキギター用「THR-II」シリーズとアコースティックギター用「THR30IIA」の両方を操作することができます。スマートデバイスとペアリングすると、アプリが相手を識別して自動的にアコースティック用に切り替わります。どちらのアンプも同じアプリで操作できますが、プリセットデータは別のものとして管理されています。THR-IIで作った音は、THR30IIAで使えないようになっています。
iOSアプリ「レックンシェア(Rec’n’Share)」は、THRアンプで作った良い音をそのまま録音、スマートデバイスで撮影した映像と合わせ、高音質な演奏動画を作り、そのままSNS投稿まで簡単にできてしまいます(※THR-Ⅱと組み合わせた使用はiOSデバイスのみ対応)。デバイスに保存している音楽を流しながら、またアプリでメトロノームを鳴らしながらの撮影も可能で、音量調整や簡単なトリミングなどの編集もできます。
通常ならば、音源制作、動画撮影、動画編集それぞれの作業で、異なる機材やアプリが必要になるところです。レックンシェアを利用すればスマホとTHRアンプだけで、音の良い「弾いてみた動画」を作ることができるのです。
なおアプリの仕様上、弾き語りではギターとボーカルが同じトラックに録音されます。後からギターとボーカルのバランスを調整するような綿密なミックスが必要なら、付属のSteinberg社製DAWソフト「キューベース(Cubase)AI」が便利です。これで仕上げた音楽を流しながらレックンシェアで映像を撮影すれば、さらにクオリティの高い動画を作ることができます。
以上、ヤマハの弾き語りもできるアコースティックギターアンプ「THR30IIA Wireless」の特徴をチェックしていきました。目的に合わせたサウンドメイキングができ、自宅での演奏から屋外でのライブ、SNS用の演奏動画作成やレコーディング、音楽制作、様々なシーンで使用できる、大変便利なアンプです。
ライブでは現場のPAさんに任せっきりという人もいるでしょう。しかし、THR30IIAを使えば、自分の出したい音をそのまま会場に響かせることができます。また、スマホを向けただけより遥かにクオリティの高い演奏動画が作れるのは、現代のミュージシャンにとって不可欠なスキルだと言えるでしょう。「音にこだわりたい」という演奏者の想いに、THR30IIAは「コンパクトで気軽」というオマケ付きで応えてくれるのです。
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