HEADWAY(ヘッドウェイ)のアコギについて[記事公開日]2016年9月13日
[最終更新日]2017年11月30日

headway-yozakura-head Custom Shop HF-Yozakura のヘッド

「ヘッドウェイ(HEADWAY)」は、長野県松本市「株式会社ディバイザー」が保有するアコースティックギター&ウクレレ専門のブランドで、1977年の立ち上げ以来、多くのプレイヤーに愛用されています。グレードの高いものはディバイザーに併設されている「飛鳥工場」で、比較的安価なものはフィリピンの自社工場やアジア諸国の工場で作られており、入門向けの手に入りやすいものから熟練工がつきっきりで仕上げた最高級品まで、極めて幅の広いラインナップを誇っています。ここではそのヘッドウェイに注目し、製品の特徴や魅力を追跡してみましょう。

様々なブランドで提唱する新しい価値:ディバイザー訪問インタビュー – エレキギター博士

headway:前進、進歩、(船・列車の時間の)間隔
出展:weblio英和辞典

「アコギの最高峰」と謳われたヘッドウェイの沿革

ヘッドウェイは、マスタービルダー百瀬恭夫氏(ももせやすお。平成27年度卓越技能者知事表彰いわゆる「信州の名工」を受章)がブランド立ち上げ時より生産に携わっています。ヘッドウェイの歴史は、百瀬氏の歴史でもあります。ヘッドウェイの立ち上げから現在までを、ざっと見てみましょう。

HEADWAY40周年パネル 2017サウンドメッセでのHEADWAYブース:40周年を記念したパネルが掲げられていた

百瀬氏は20歳まで家具職人をしていましたが、1964年に「富士弦楽器製造株式会社(現在のフジゲン)」に入社してギター職人へと転身。1969年に入社した「有限会社林ギター」で作っていたギターが、卸売業者「株式会社クロス楽器」の八塚恵氏(ディバイザー現会長)の目にとまります。百瀬氏の技術と情熱に惚れ込んだ八塚氏は「日本で最高品質のギターを作る」ことを目指し、1977年に百瀬氏を含む数名で「株式会社ヘッドウェイ」を立ち上げます。

ヘッドウェイ立ち上げ準備で、当時100万円したと言われるマーチン(Martin)のD-28を分解し、1年がかりで解析したと言われています。ここで得たノウハウとプラスアルファを注いで完成したドレッドノート「HD-115」は、安定感のある頑丈な作りと美しい音色から「アコギの最高峰」と言われました。

しかし1983年に2度に渡り火災にあい木材も工具も失ってしまい、ヘッドウェイの生産体制は瓦解します。ヘッドウェイは社名を「ディバイザー」に変更、比較的製造のしやすいエレキギターの工場として再スタートを切ります。エレキギター/ベースブランド「バッカス(Bacchus)」は好評を博しますが、かつてのファンからの熱い要望に応えるかたちで1999年からアコギの生産ラインを再構築します。災禍を逃れたストック木材が発見された幸運もあり、再生産されたHD-115は当時をしのぐクオリティでした。

復活したヘッドウェイは、国内生産の上位機種と海外生産の安価な機種という幅広いラインナップを展開していく中、「カスタムショップ」に次ぐ高級ライン「飛鳥チームビルド(ATB)」を2011年に設立します。通常モデルよりクオリティが高く、かつカスタムショップほど高額でないATBは市場に受け入れられ、小ロット生産にもかかわらず2016年初頭には通算生産台数1,000本に到達します。記念すべき1,000本目として、サドルとナットに「象牙」を使用するなどまことに贅沢な仕様の記念モデルが作られました。

The 1000th ヘッドウェイ「The 1000th」
マスタービルダーの百瀬氏は70歳を超える高齢となりましたが、後進の育成にも余念がありませんでした。ATBのチーフである安井雅人氏は「百瀬氏の後継者」として頭角を現してきており、現在では百瀬氏と同じく製品に自らの名を冠するギターを生産しています。

ヘッドウェイ製品の特徴

ボディへのこだわり

ヘッドウェイのギターはオーソドックスなボディが多いですが、その設計には並々ならぬ工夫が込められています。その一部を垣間見てみましょう。

鳴りと強度を両立するボディトップ

ボディトップを薄くすれば良く鳴りますが、厚くしないと強度が不足します。この「鳴りと強度の両立」のため、ヘッドウェイでは「中央から外側に向けて徐々に薄くなる」独自の設計を採用しています。まず、平均的なトップ材(2.8mm)より厚い3.2mmの厚さでトップを成形し、特にブリッジの取り付け部分にしっかりとした強度を持たせておきます。そこから外周がコンマ数ミリ薄くなっていくように仕上げていくことで、振動も強度も十分なボディトップができあがります。

「ヘッドウェイの音」を作るブレーシング

ブレーシングは「力木」とも云われ、ボディが弦の張力に耐えるための骨格の役割を果たします。このブレーシングの形状や配置がサウンドに影響することから、ヘッドウェイでもアコギの伝統を踏まえながら、独自のブレーシングを採用しています。

上位機種を中心に、ヘッドウェイの多くのモデルでは「フォアードシフト(forward shift:前方に移す)」が採用されています。Xブレーシングが交差している箇所は、最も強度が高くて鳴りにくくなっています。ここを前方に移し(=サウンドホールに近づけ)ブリッジから遠ざけることで、柔らかく暖かみのあるサウンドに方向付けします。しかしフォアードシフトは強度が犠牲になる恐れがあり、どんなギターにも採用できるわけではありません。

ヘッドウェイの標準的なブレーシングは、このフォアードシフトと一般的なXブレーシングの中間にあたるポイントにX部分を配置した「セミフォワードXブレイシング」となっています。一般的なXブレーシングによる「芯があって力強い」音色とフォアードシフトによる「柔らかくて暖かい」音色を配合させた「ヘッドウェイの音」を作る重要な設計です。

さまざまな工夫

ブレーシングの肉を削いで鳴りを強化したり方向づけしたりする「スキャロップ加工(scallop:ホタテの貝殻のように波打った状態))」や、接着面の塗装をきれいに剥がしてから行う「ブリッジ取り付け」など、音と強度の両立を目指した工夫がいたるところに込められています。

こうして作られたヘッドウェイのアコギはいわゆる「ヘッドウェイの音」がすると言われ、ファンに愛されています。


わたなべゆう – Baby you- 活動10周年記念ライブ in Arukasホール~
モーリス主催の「フィンガーピッキングデイ」2006年最優秀賞を受賞。2010年ころからこのHDCカスタムモデル一本で演奏/録音をしているのだとか。

ネックへのこだわり

百瀬氏はヘッドウェイのギターで、「20年30年という長期間の使用に耐えること」を目指していると言われています。製品にはその思想が反映され、「ネックがしっかりしている」ことで知られています。ネックのどんなところにこだわって作っているのでしょうか。

強固なジョイント

第一のこだわりは強固な接合部分を持つ「アリ溝(英名「ダヴテイル」)」ジョイントで、従来のギターよりもネック接合部分が大きく、また高い精度できっちりと加工するなどの工夫が込められています。またトラスロッドの仕込み方も工夫されており、埋め木の挿し方を操作することでロッドが効くポイントをおいしいところに移動させています。

またヘッドウェイは、ボディとネックに塗装を施してからジョイントする「後仕込み」を敢えて採用しています。「後仕込み」は後から塗料で埋めてしまうことができず、ごまかしが効きません。キッチリと組まれたジョイント部は、いかに高い精度で作られているかを言葉よりも饒舌に物語ります。

ワンピース・ネック

カスタムショップのギターは全て、またスタンダードシリーズ以上のグレードの多くに「ワンピース(1P)ネック」が採用されます。ヘッドウェイのワンピースネックはネック部分だけでなく、ヘッドからヒールまでを一本の角材から削り出します。木材のロスが多くなる贅沢な工法ですが、ヘッドとヒールを貼りつける一般的な工法に比べ、木材の収縮率の違いに起因する「ねじれ/ゆがみ」に強い、信頼性の高いネックが出来上がります。

日本人向けの感触

また、ネックグリップは欧米人よりも体格で劣る日本人の手にフィットするように仕上げられています。ネックの安定度も手伝って弦高をかなり下げて弾きやすく調整することができるので、日頃アコギの堅い弦に触れていないエレキギターのプレイヤーにもお勧めすることができます。

ヘッドウェイ製品の主要タイプ

ヘッドウェイのラインナップは5つのタイプを軸としており、「HD-115」などモデル名の頭の2文字で記号化しています。各タイプにマッチした弦長(スケール)が設定されており、これだけでボディシェイプと弦長が分かるようになっています。

記号 弦長(mm) 特徴
HD 645 マーチンの「D(ドレッドノート)」に相当するシェイプ
HF 628 マーチンの「000(トリプルオー)」に相当するシェイプ
OM 645 HFボディで弦長を延長。カスタムショップ限定
HJ 628 ギブソン「J-45」に近い「ラウンドショルダー」タイプ
HN 628 マーチンの「00(ダブルオー)」に相当するシェイプ
その他 各種 上記以外のボディシェイプやミニギターなど

ヘッドウェイの主なボディシェイプと弦長

現在では特にHD、HF、HJが主流となっており、ラインナップの大半を占めています。

ヘッドウェイのラインナップ

それではこれからヘッドウェイの膨大なラインナップのうちいくつかをピックアップしてみましょう。ヘッドウェイのラインナップは上述した5つのタイプ、またこれから紹介する5つのグレードの組み合わせを軸としています。