前編「【寺田楽器訪問インタビュー】「提案するOEM」エレキギター編」では、
というテーマで、寺田楽器で営業/生産管理を担当している石塚亮さんにお話をお伺いしています。本稿はその続きで、アコースティックギターをテーマに引き続きお話を伺っています。
自身もギターボーカルとして、京都と名古屋で月に数本のライブをこなすバンドマンの石塚さん。メインギターはグレッチのホワイトファルコンだそう
──引き続き宜しくお願い致します。セットアップ(出荷時の調整)はどういう基準で施しますか?
石塚亮 特に細かい指定がない場合は弊社独自の基準に準じますが、弦高/ネックの反り具合/ピックアップの高さなどの「工場基準」は一つではなく、製品がターゲットとするユーザー層に向けたセットアップを提案しています。例えばアコギなら、ローコードをガンガン弾く人もいれば、ハイポジションまで幅広く使う人もいますが、この楽器はローコードをガンガ弾く人が持ちそうだとか、この楽器はリードプレイやソロギターを演奏する人が持ちそうだとか、仕様やカラーリングの違いでどんな人が持つかのイメージがあるんです。そういったイメージをもとに、この楽器はどんな人が使うのかを考え、セッティングを決めていきます。こちらで最後までセットアップすることも、納品後にクライアント様で調整をすることも、クライアント側の職人さんがこちらにいらして調整後に出荷、ということもあります。
──これは大変だった、という思い出はありますか?
石塚亮 山のようにありますw。最近だと本格的な「マカフェリ(ジャンゴ・ラインハルトが愛用したフランスのギター)」の開発には本当に苦労しました。マカフェリはそれ以外のギターの概念と全く違う構造で、パーツの形状からブレーシング、貼り合わせの方法まで全く異なる独特の楽器です。ジプシージャズの本場フランスには手工家がたくさんいるんですが、「彼らが作るものに負けないものを作りたい」というオーダーがありました。しかし、ジプシージャズのプレイヤーがマカフェリに求める「萌えポイント」というのが、私たちの知っているギターとは全く違っていたんです。
参考動画:Best of Django Reinhardt (full album)
──確かに独特なサウンドですね。
石塚亮 アーチトップであれ、フラットトップであれ、ソリッドであれ、いろんなスタイルのプレイヤーがいても、一般的なギターに求められるものはだいたい似通ってくるものです。ジャンルというより、国ごとに違いが出ます。アメリカ人は新品であってもキズやクラックを全く気にしない反面、意外な調整に深いこだわりを持っていることが多いですね。それに対して日本人はプレイアビリティに無頓着な人が多い傾向にありますが、全くキズのないものを求めてくる、という具合です。
一方マカフェリのユーザーが求めてくるポイントというのは、それらとはかけ離れていました。楽器のキズをほとんど気にしないというのはアメリカ人と同じですが、そもそもの演奏方法が違うので、音の良好な鳴り方に対しての基準が全く違います。コードを弾く時に「バシャッバシャッ」といったビビり音のような鳴り方をしながら、それでいて爆音でなければならないんです。その「バシャッ」に低音がしっかり含まれていなければならないわけです。私たちの経験からでは矛盾しているとしか考えられず、構造の理解に苦しみました。
見本となるサンプルはたくさんありますし、図面も多くあるので再現してみました。完全に再現しているはずなのに、寸法を真似しているだけでは最後の塩加減みたいなところがどうしても届かないんです。それでも欲しい音に対してどうすれば良いのかというアイディアを、いろんな経験や知識から引っ張りだしてきて、元の図面から微調整を繰り返してようやく完成させることができました。
──ブランド名の由来は何で、またVGとはどういうコンセプトのブランドなのでしょうか?
石塚亮 もともとは、70年代に東京テイハツの「ヴェスタ・ グラハム」というブランドがありまして、弊社でアーチトップを作っていましたが、「ハイランダー(アコギ用ピックアップ)」を輸入する際、当時はピックアップ後付けが一般的ではない時代でしたから、コレを搭載したアコギを作ろうということになりました。ヴェスタ・グラハムがエレキ専門のブランドなので、頭文字を取った「VG」をアコギ専門ブランドとして新設した訳です。東京テイハツが倒産する際に、このブランドを寺田楽器が買い取りました。買い取る以前からこちらでOEM生産しておりましたから、VGは全て寺田楽器製です。最近ではアルフィーの坂崎幸之助さんにご愛用頂いております。
VGのサイトやカタログはなく、そもそもレギュラー品を作っていません。寺田楽器はOEMメーカーですから、VGを積極的にプッシュする必要性が無いんです。VGは毎年秋の「サウンドメッセ大阪」の出展に向け、職人たちによってギターを開発するブランドです。日頃OEM生産に従事する職人たちに、「年に一回、好きなように作らせる」ことをコンセプトにしています。好きなようにと言っても会社で保有している材料を使いますから、「シェフのきまぐれサラダ」みたいなもんですw。そういうわけですから、アーティストさんから製品のオファーを頂いても、そのためにわざわざ改めて作るということはしていません。
ある程度人気が出たものについては継続的に生産することもありますが、OEM生産のようにカタログ通りのものを量産することはしません。毎年のサウンドメッセに向けて社内コンペのような形で企画を集めるブランドですから、基本的には年に一回生産し、1年間で売り切ります。展示用に1本だけ作ったり、販売するために10本ほど作ったり、そういった判断は営業部の仕事になります。好きなように作ると言っても、プレイヤーにとってどうでもいいところばかりこだわって、価格だけ上がってしまうようなギターは没にします。
VG-Rose:全てがローズウッド製の贅沢仕様で、パワフルながらスッキリとした澄んだ音
石塚亮 このドレッドノートは、オールローズです。ボディのトップ/サイド/バック、ネック/指板、ブリッジピンに至るまで全部ローズでできています。派生モデルとして、「オールハカランダ」もやったことがありますよw。さすがにネックはローズウッドでしたが、ボディ/指板/ブリッジ/ブリッジピン、全部ハカランダ単板で、限定2本が即売り切れました。
マーチンD-28に代表されるドレッドノートはスプルーストップのため低音が「ズドン」と来る感触がありますが、このVG-Roseは線の細めなクリアな音をハッキリとプッシュするキャラクターで、低音が整理されています。こういったキャラクターの方がバンドアンサンブルには馴染みやすいですね。
左:VG-Padauk。硬質なパドックによる澄んだ音は、バンドアンサンブルやソロギターに特に良好
右:VG-Ovangkol。同じボディ形状でもこちらからは深い低音が。弾語りに気持ちよいトーン
こちらの2本は同じシェイプで、トップ材は「ルッツ・スプルース」です。ルッツ・スプルースはイングルマン・スプルースとシトカ・スプルースが自然交配したもので、カナダのごく狭い範囲でのみ産出されるものです。イングルマンの白さとシトカの粘り強さを持ち合わせています。
この二本は材料に違いがあります。ナチュラル塗装の方はサイド/バックがパドックでできています。パドックは日本で言う花梨(かりん)の仲間で、エボニーに近い特性があります。硬質であることから木琴に使われることが多いですが、90年代にはヌーノ・ベッテンコートが自分のギターに使いましたね。澄んだ音で低音がすっきりしているのは先ほどのVG-Roseと近い個性ですが、こちらの方が音に丸さがあります。粒立ちが良くてきらびやかなトーンでアンサンブルで使いやすい音になっていますが、そういう楽器のイメージってナチュラル系だと思っています。
サンバーストの方は「オバンコール」サイド/バックです。オバンコールはマホガニーに近い特性を持っていて、深い所から鳴っているような低音があります。マホガニー系の甘い中低域を持つ、弾語りなどでとくに気持ちよいトーンになっています。このような音のギターが好きな人は衣装も渋みがあることが多く、ギブソンのイメージに近くなるため、カラーを渋みのあるサンバーストにしています。
ネットでの情報となると通販サイトの製品情報くらいしかヒットしませんが、VGを卸している「DCT Japan」では紹介されています。
VGーHRP:引用元 http://dctjapan.net/others/vghrp-bk.html
ここで紹介されている「VG-HRP/BK」は、ラウンド・ショルダーのギブソン的なボディシェイプに、マーチンの弦長のネックを合わせています。サイド/バックのホンジュラスローズ(ハカランダの代替材)、トップのシトカスプルースを敢えて黒に塗りつぶしています。派手な木目ばかりが重宝される傾向ってあるじゃないですか。でもその木目でギターの善し悪しを判断されるくらいなら、いっそのこと塗りつぶしてしまって本体の良さで勝負したい、というコンセプトです。タキシード、ピアノ、レスポールカスタムのように、ブラックは高級感があります。またブリッジに採用したパドックの赤さとの対比がイイですよね。
ホンジュラスの治安が悪いのは有名です。買い付けに命の危険が伴うような国から苦労して持って来たのに、木目が美しくないから使われないなんていうかわいそうな材木に光を当ててやりたい、という意図もあります。またそういう材料なので、価格を落とすことが出来ます。ホンジュラスローズ単板を使って、アバロンインレイを施して、というスペックで定価28万円はほぼありえません。
DGTのサイトは「VG ギター」で検索しても中々ヒットしませんが、このサイトが有名になっていろんな量販店で扱われるようになっても、それはそれで困るんです。人気のあるモデルの注文がたくさん入ってくるようになると、「職人が作りたいものを作る」という本来のコンセプトが崩れてしまいます。それでも直接卸している店舗がありますから、日本各地で手に入れることが出来ます。いろんなアーティストさんに使って頂いておりますが、ウォルター(ベッカー。スティーリー・ダン)にも気に入ってもらっていて、本人サイト(http://walterbecker.com/)のトップ画像で使われています
Steely Dan – Kid Charlemagne (Live)
いろんなアーティストさんに使ってもらっていて驚くことが多いんですが、それでも量産はしませんし、そいう流れにはほとんど乗っかりません。こういう仕様のギターの需要はゼロではないな、という狭い所を狙っていますが、それでも例えば30も無いだろう、という読み方をしているからです。やる以上は会社にマイナスにならないようにしますが、商売よりも作り手側の遊び心を優先しているブランドなんです。
──クラフトマンを目指す人へのアドバイスとして、寺田楽器はどんな人材を求めていると言えますか?
石塚亮 一般的な話とあまり変わりませんが、楽器が好きでありながら、ビジネスはビジネスで割り切れる、作る側の「プロになれる」人です。作業をすることでお金を生み出し、お金をもらうことができるということは、作業に対してお金を支払う人がいるということで、喜んで払ってもらえるだけの作業をする必要があります。ギターが好きなだけならお客様として買ってくれれば良いわけで、作るのが好きなだけならご自分でどうぞ、という話なんです。そこをキチンと割り切った上で、楽しく仕事ができる人がいいですね。
道具から自分で作るのは、日本の工場では伝統のようなもので、弊社の職人が自分の工具や刃物を作るのも珍しくはありません。また言われた通りの作業を繰り返すだけでは技術が向上しませんし、そもそも工程にマニュアルがありません。後世に伝えるべきノウハウの文書化は進めていますが、細かい所は職人の裁量に委ねています。会社が求めるのは、作業時間と仕上がりの品質だけです。
RozeoやVGの企画会議については、1年目の研修生からベテランまで60人の職人全員が自由参加なんです。会議は夕方6時からですけど、会議室でお菓子やジュースを並べてわいわいやります。好きなことをやり、作りたいものを作る自由参加の集まりです。毎回集まるメンバーは決まってきますが、ここに参加するような職人は普段の業務だけ見ても高い評価を受けています。プロフェッショナルとしての仕事と遊び、これを両立する術を持っているわけです。こういう人と仕事をするのは楽しいので、そういう人に来て欲しいです。
──ありがとうございました。
石塚亮 ありがとうございました。
OEMはブランドを持つ企業からの注文によって製造するのが前提ですが、寺田楽器では細かな仕様などについてクライアントに提案することで、より追い込んだ設計の高品位なギターを作っているという事が分かりました。クライアントに言われるまま製造する、というわけではないんですね。
また、RozeoとVGがブランドのサイトも広告もないまま狭いマーケティングにこだわっているのには、「会社自身がOEMをメイとしているから、たくさん売るつもりはない」という明確なコンセプトがありました。むしろOEMがメインであるがゆえに、「職人が作りたいものを作る」「ありそうでなかったものを作る」「何人かは、欲しい人がいるものを作る」といったコンセプトのギター開発ができており、ブランドの魅力になっています。
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