写真提供:(株)ヤイリギター
「ヤイリギター」は、1970年代から今日に至るまで「高品質より我ら生きる道なし」の社訓を掲げ、昔ながらの職人の手作りに深くこだわった高品位なギター製造を続けています。
K.Yairi(Kヤイリ)のアコギについて
以前こちらを訪れた時には、リペア担当の松尾さんとカスタムショップの小池さんをピックアップした取材をさせていただきました。
【訪問インタビュー】淀みの無い作業と温かい雰囲気に、ヤイリのクラフトマンシップを見た
再び訪れた今回は、ファクトリー・コーディネイター/クラフトマンの森幸久(もりゆきひさ)さんに工場内をご案内いただきながら、いわゆるレギュラーラインのギターについて、さまざまなことを伺いました。さっそく案内して頂きましょう。
今回の工場見学は、一般的な工場見学のルートをなぞりながら、ちょっとコースアウトしているところもあったようです。運ばれてきた木材がギターになっていく過程を、森さんに案内して頂きました。それではどうぞ。
(株)ヤイリギター森幸久(以下、森):ヤイリギターで一番に紹介したいものは、「自然乾燥させている材料」です。自然の風に当てながら、じっくりと乾燥させていくんです。弊社の立地は小高い丘になっておりますから、風通しが良くて木材の自然乾燥に適しています。しかしトップ材など厚みのないものについては雨風が当たりにくいところに保管しないといけませんから、やはり保管の方法は木材それぞれに合わせています。
ここには指板材が積んでありますが、弊社が保管している指板材はだいたい10年分近くあります。弊社では最低でも2~3年、長いものでは5年10年という自然乾燥を行いますから、これだけの量が必要になるんです。
エボニーが積んでありますね。真っ黒なものは「マグロ」と呼ばれます。
「桟(サン)」を間にかませて通気を良くしています。割れてしまうこともありますから、全てが予定通り利用できるというわけでもありません。奥にも山積みになっていますね。ここだけでなく、保管場所はあちこちにあります。大きな「フリッチ材」のまま保管する場所もあります。
──これほどの木材を保管しているところは、他にはないのではないでしょうか。
森 そうかもしれませんね。純粋にビジネスとして考えると、10年分のストックがあるというのは「眠っている資材が多いから、良くない」とも言われます。保管する場所と時間というものをお金に換算すると、かなり大きなものになってしまいますから。
森 今は人工乾燥機も進歩していますから、大手の工場では人工乾燥を基本とすることで回転率を上げ、何カ月分、長くても半年や一年分ほどの在庫に抑えるのが一般的ですね。現在では、木材内部の「ねじれや反りの元になる力」を抜きながら乾燥させる、なんていうことができる人工乾燥機まで開発されていて、そのような新しい技術を使った新しい木材を使う、というメーカーさんも登場しています。
しかしヤイリギターでは、今のところこうした新しい手法を採用するつもりはありません。確かに最新鋭の人工乾燥によって均一な木材を作ることができるかもしれませんが、それでは材料の持っている「持ち味」を失くしてしまうと考えているのです。「木の良さを活かすものづくり」のために、時間をかけて無理なく乾燥させ、木材それぞれの個性/持ち味というものを活かそうとしています。とはいえ人工乾燥も、最低限やることはやります。自然乾燥では含水率を15%ほどまでしか落とせないんですが、製品として扱うとなると安定度の高い8%あたりまで落とす必要があるんです。
こちらにはネック材が積んであります。ヤイリではスカーフジョイントは行わず、「への字」に切り出します。
──・・・地震が心配ではありませんか?
森 地震対策として最低限の備えはしていますから、積み上げた木材が崩れてしまうことはよほどありません。しかしこれをまた積み上げるのなんて、考えたくもありません(笑)。
森 こちらは社員の食堂ですが、ステージがあってちょっとしたライブができるようになっています。いらっしゃったアーティストさんが演奏していくことも、ギター教室の発表会が行われることもありますよ。
ここに大きなスプルースの丸太がありますね。これは樹齢380年ほどで特に大きな木材ですが、通常でも直径で1.5m程度はないと、ギターの材料にしにくいんです。同じ幅をとるにしても、太い木からとるのか細い木からとるのかで、ずいぶんと違います。ブックマッチをするので半分の幅があればギター用の木材になるんですが、芯の部分や皮に近い部分は使用しません。ですから樹齢が若くなればなるほど幅が取れなくなっていきます。ギターに理想的な「細かい目で安定した真っすぐの木目の部分」となると、それなりに太い丸太からでも、本当に一部の限られた部位になります。
ギターで欲しい幅になるためには、180年から200年ほど必要だ、ということが記されています。
近年「材料が無い」と言われるのは、このような高樹齢の木材が無くなっているわけです。世界中で植林もされていますから、建材に使われる30年から80年くらいのものは安定して供給されています。しかしギター用としては、180年から200年というのが最低限欲しいところです。ですから現在、ギター用としては、植林のサイクルから外れたものしか使用することができないんです。
こうした特別なものを使うからには、しっかりとしたものを作らなければなりません。また、長く使っていただけるものでなければなりません。この考え方は、ヤイリの基本となっています。「高樹齢の木材を使わせていただいているのだから、しっかりとしたものを作りなさい」というのが先代(矢入一男氏)の教えでした。
海外生産の比較的低価格なギターであっても、少なくとも100年以上の木材を普通に使用しています。ですから、どんどん作って使い捨てのように消費する、というのもどうかな、と思います。私たちは木に触れる仕事をしておりますから、なおさら強く感じます。もったいない、無駄にしてはいけない、と思っています。
この部屋の片隅には、とても古いものが陳列されています。戦前のものも、ヤイリギターを立ち上げた70年代のものもありました。
こちらには昔の写真が掲示してありますが、小池(小池健司氏。現マスタービルダー)の若い頃の写真もあります(右下写真)。このときには伝統的な「ダブテイル」ジョイントを採用しているなど、今と違う所もあります(中央下写真)。しかしヤイリは基本的に昔と変わらない作り方をしており、写真の機械もまだバリバリの現役です。
先代は民族楽器が大好きでして、行く先々でこうした珍しいものを買ってきては、あちこちにディズプレイしています。