ギブソン(ギブソン・ギターコーポレーション)は、創始者オーヴィル・ヘンリー・ギブソン氏(Orville Henry Gibson。1856-1918)が19世紀末に立ち上げた楽器工房からスタートし、その時から現在に至る100年以上に渡ってギターのトップブランドとして君臨しています。
などといったエレキギター、
そしてJ-45やJ-200、ハミングバードといった定番のアコギというように、エレクトリック/アコースティック両面で世界的な地位を築いているブランドは他にはありません。
移りゆく時代のニーズを見つめ、またライバル企業に対抗していく中で、ギブソンは常にその先をゆく新しいものを提案しています。現在定番機とされているものの多くはギブソンが初めて発表したものであり、それ以前の世の中にはありませんでした。ギブソンのアコギはこうした流れの中で生まれ、多くのプレイヤーに愛されてきました。現在では定番機の伝統を大事にしながらも時代を見つめ、シーンを見据えたマイナーチェンジを施したモデル展開をしています。
ここでは歴史、楽器の特徴、ラインナップという観点から、ギブソンのアコギが持つ魅力を追いかけてみましょう。
ギブソンのエレキギター – エレキギター博士
Xブレーシング
ギブソンの創始者オーヴィル・ヘンリー・ギブソン氏(1856-1918)がニューヨークに生まれる6年前(1850年)、同じニューヨークに移住して開業していたマーチンの創始者クリスチャン・フレデリック・マーチン氏(1796-1867)は、マーチンギター最大の特徴にしてすべてのアコギに不可欠な構造「Xブレーシング」を発明します。ギブソン氏がカラマズーを拠点とする(1881年)前に、マーチンはOO(ダブルオー)を発表しています(1877年)。
ギブソン氏が10平方メートルの楽器工房を開業した1896年の時点で、マーチンは創業から60年以上経過していました。しかし1902年販売会社(ギブソン社)が設立されると、マーチンはギブソンギターの音量に対抗すべくOOO(トリプルオー)を開発します。開業から10年も経ずして、アコギの先駆者だったマーチンにライバル視されるほどになったギブソンのアコギとは、どんなものだったのでしょうか。
ギターと木工が趣味だったギブソン氏は、本業の空き時間を見つけてはヴァイオリンやマンドリン、ギターを作り、演奏して楽しんでいたそうです。この楽器のクオリティが評判になり、売って欲しいという声が多くなっていき、ギブソン氏は遂に独立して工房を開きます。
ギブソン氏は趣味の延長で誰に習うでもなく楽器を作っていたようで、ヴァイオリン製作で学んだ工法を応用して独自のギターやマンドリンを作っていました。当時すでに板材を曲げる加工技術は確立されていましたが、「曲げた木材にはストレスがかかっている。削り出しの方が音響特性は優れている」という信念から、ボディのトップ/バック/サイドを削り出す工法にこだわっていたといいます。ボディだけでなくネックにまで空洞を設けた斬新な設計は、ギター製作を習うことがなかったから実現できたのだと言われます。こうして作られたギターやマンドリンは円形のサウンドホールを持ち、やわらかな曲面を描く美しさと豊かな音量を両立させていました。
ギブソンの歴史に名を残す名工ロイド・ロアー氏(1886-1943)が在籍したのはギブソン氏が亡くなった翌年からの5年間でしたが、ネックジョイントの変更、Fホールの採用など、ギブソンのギター/マンドリンの工法に大きな影響を及ぼしました(アーチトップ、Fホールのアコギは「ピックギター」と呼ばれます)。
氏の製作したマンドリンは「一台一台振動特性を測定して作られた」という逸品で、ヴィンテージ市場では何千万円という価格が付けられます。氏はマンドリンだけでなくジャズギターの金字塔となったL5も開発し、1920年代から1930年代にかけてギブソンがアーチトップギターの、特にジャズバンドで鳴らすギターとしてトップに君臨するきっかけを作りました。
マーチンへの対抗と生産効率のよさから、ギブソンは1926年よりフラットトップの製造を開始します。ギターが巧すぎて「悪魔に魂を売った」とまで言われたロバート・ジョンソン氏は、このとき作られた「L-1」を愛用していたといわれます。1928年には人気アーティストのニック・ルーカス氏モデルを発表。それまでアーティストモデルという概念はなく、世界初でした。
Robert Johnson – Robert Johnson’s Cross Road Blues
「どんな曲でも弾ける」と言われたロバート・ジョンソン氏ですが、タイトなノリの音楽に慣れきった耳には、とてもマトモに弾いているとは思えないかもしれません。しかしそこがいい。世界的に希有な、酒が旨くなる音楽です(お酒は二十歳になってから)。
1930年代に入り、マーチンが開発した「ドレッドノート」シリーズが支持を集めていきます。薄い木材で大きなボディを作り、またサウンドホールを大きくしたため、これまでにない大音量が得られました。マーチンD-28を代表とするドレッドノートはピックギターを音量で凌駕し、当時のトレンドだったカントリーやブルーグラスといったジャンルで不動の人気を築きます。
ギブソンのピックギターは、ピックアップを取付けた「ES-150(1936年)」をきっかけにフルアコへと進化していきます。これ以後ギブソンのアコギは、アーチトップからフラットトップへと転換していきます。
スタンダード化していくドレッドノートに対抗し、ギブソンは1934年からJ(ジャンボ)シリーズを生産します。1937年には「SJ-200(のちのJ-200)」が映画俳優レイ・ウィットリー氏のために作られ「キングオブ・フラットトップ」と呼ばれるほどの人気となり、エルヴィス・プレスリー氏を筆頭に多くの愛用者が生まれました。
Pete Townshend – I’m One (Live At Bush Hall, 2011)
年老いてなお健在なピート・タウンゼンド氏。J-200はどんな演奏でも良好ですが、このようにガンガン弾くスタイルが最も映えます。
もう一つの定番機種「J-45」がリリースされたのは1942年で、翌年には最高グレードの「サザンジャンボ」も誕生します。肩が張っているように見えるドレッドノートに対して、J-45はなで肩のようなスタイルになっており「ラウンドショルダー」と言われます。1954年にはこれにマグネットピックアップをマウントした「J-160E」が発表され、ジョン・レノン氏(ザ・ビートルズ)が愛用した事で人気を博しました。
ギブソンのアコギには、どのモデルにも共通して「ギブソンの音」があるといわれます。それは特に低音弦の鳴り方に現れ、低音が整理されたゴリゴリ感があり、パワフルなストロークプレイに特に良好です。「爪弾くギター」として進化していったマーチンと異なり、「ジャズバンドでリズムを打ち出すギター」として名を馳せたギブソンの到達点が、ココだったわけです。
一般に「クセが強い音」ともいわれますが、好きな人の心を捕らえて放さない吸引力があります。またコンデンサマイクで録音することを念頭に置いた設計をしており、録音した音はバランスがよくミックスしやすいというありがたい特徴があります。
現在の生産拠点は、モンタナ州ボーズマンのアコースティックギター専門工場です。ロッキー山脈のすそ野に位置し、低湿度で木材の管理に有利だと考えられています。ここには約120名のスタッフがいて、一日80本のペースでギターが手作りされています。
ギブソンのアコギはマーチンも採用している伝統的な「ダヴテイル(Dovetail)」ネックジョイントで、仕込み角3度で「にかわ接着」されます。ダヴテイルとは鳩(dove)の尾(tail)のように、先端に向かって広がっている形状のことをいいます。ネック側の接合部分が末広がりに成形され、これを受け止めるボディ側はその形状に合わせて彫られ、これを組み合わせると非常に抜けにくくなります。
にかわ(ハイドグルー)はヨーロッパでは4000年以上の歴史を持つ接着剤で、
というように、楽器用の接着剤として大変理想的な特徴を持っています。ただしその融点は70度近辺なので、真夏日に車内に放置するとにかわが溶けてしまう恐れがあります。
多くのブランドがポリエステルやポリウレタンの塗装を採用していく中、ギブソンでは昔ながらの「ニトロセルロースラッカー」を使用しています。乾燥に時間がかかるため塗装の工程には一週間ほどかかりますが、この間にカラーとクリアで合計10〜13層吹き付けます。
ラッカーは時間の経過によって風合いが変化していく、たいへん味わい深い塗装です。ヴィンテージ風のルックスを持つ「V.O.S.(ヴィンテージ・オリジナルスペック)」も同様の工程ですが、塗装面に粗い研磨剤でキズをつけています。
ギブソンのアコギはフラットトップながら、真っ平らではありません。
という緩やかなアーチを描くように製造されます。「R」は半径で、1フィートは約30センチです。この方式によりボディに常時ちょうどいいテンションがかかることから、強度が増してトップ/バックが変形しにくくなるほか、ボディ中央にうまく音がはね返るようになり、音響特性が向上します。
ボディトップ/バックに貼られるブレーシングは力木とも言われ、ボディの補強をメインの目的にしています。貼られた部位の鳴りが制限されるのを巧く利用し、その配置を操作してトーンアレンジも行なわれます。ギブソンでは職人の手でブレーシングを削る(スキャロップド・カーブドXブレーシング)ことで、振動しやすくしています。
古典的な復刻版などでは、その時代で扱われた「アドバンスド・ワイドXブレーシング」が採用されています。スキャロップ加工されていながら幅が広く、ミディアムゲージにも余裕で耐えられる剛性が特徴です。
J-160Eなど敢えて合板をセレクトしている一部のモデルを除き、ギブソンのアコギはすべて単板(無垢材)で作られます。材木の確保が困難となっている現代では単板は高価ですが、軽さと鳴りやすさにおいて合板に勝ります。
ステージで大音量で鳴らすことが前提のJ-160Eは、ハウリング防止のために合板が採用されています。
ギブソン・アコースティックギターのラインナップは、名機の伝統を継承したさまざまなバリエーションで構成されています。
ここでは、
というようにボディシェイプに注目し、それぞれの特徴を見てみましょう。
「J(ジャンボ)」シリーズは、大型化により大音量化したマーチンの「ドレッドノート」に対抗する形で開発されました。名機としてロック系を中心とした多くのアーティストに愛用される「J-45」は、大型ボディによる迫力のサウンドが持ち味です。ドレッドノートと比べて丸い肩になっていることから、「ラウンドショルダー」と呼ばれますが、これによりドレッドノートには「スクエア(四角い)ショルダー」という呼び名が加わりました。
J-45 Standard
装飾を抑えた基本モデル「J-45 Standard」は、
を基本スペックとし、
2016年モデルには、
といった特徴があります。
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Gibson 2016 J-45 Progressive Slope Shoulder Dreadnought
Acoustic-Electric Guitar, Autumn Burst
左から:J-29、J-45 Custom、J-45 Progressive
ラウンドショルダーのラインナップは、J-45の伝統的なスタイルを基調として、
といったバリエーションが豊富に揃えられているほか、
上から:J-35、J-15
J-35、J-15といった価格を抑えたモデルもリリースされています。
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Jシリーズをさらに大型化させた「SJ-200」は、そのサイズと豊かな鳴りにより「キングオブ・フラットトップ」と呼ばれます。
というサイズはフルアコの最高峰「L-5」と同じで、ルックス的にも音量的にも存在感があります。かのエルヴィス・プレスリーが最も気に入っていたアコギとしても有名で、主演映画にたびたび登場しています。
力強いストロークが映える迫力あるサウンド、繊細な指弾きに良好な反応の良さと充分な音の伸びを持ち、巨体のイメージとは裏腹に高いレベルでオールマイティーなギターです。どんなジャンルでも良好ですが、特にフォーク/カントリーといったジャンルで重宝されています。
SJ-200は、
というスペックを基本として、さまざまなバリエーションを展開しています。
では、基本モデルとなる「SJ-200 Standard」をチェックしてみましょう。
Gibson 2016 SJ-200 Standard Super Jumbo Acoustic-Electric Guitar,
Vintage Sunburst
「SJ-200 Standard」基本モデルながら、J-45の上位機種よりも高いグレードという位置づけです。トップのシトカスプルースはJシリーズより1ランク上、搭載されるピックアップシステム「Anthem(L.R.Baggs)」もJシリーズに採用されている「Element VTC(L.R.Baggs)」より上位のグレードです。
カラーバリエーションにナチュラルとサンバーストがあるほか、
などが限定生産されています。
また、2016年モデルの特徴である
が採用されています。
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レギュラーラインのバリエーションとしては、高級機として
があるほか、
J-185
求めやすいグレードとして
があります。
Jシリーズと同サイズで肩を張ったようなボディシェイプを、「スクエア(四角い)ショルダー」と呼びます。ギブソンのスクエアショルダーは
というように、鳥をテーマに据えた異なる2モデルが有名です。これら伝統的な代表機の他に、「現代のアコギ」というコンセプトで「ソングライター」というシリーズができています。
Gibson 2016 Hummingbird Square Shoulder Dreadnought Acoustic-Electric Guitar
「ハミングバード」はピックガードに描かれるハチドリ(Hummingbird)が目印のギターで、1960年にリリースされました。チェリー系のカラーが印象的ですが、ギターのカラーとして赤をモチーフにするのは当時としては常識を覆す画期的な発想でした。J-45とやマーチンD-18と同じマテリアルであってもサウンドの印象は大きく違い、独特のジャキジャキ感のある音は「ハニートーン」と呼ばれます。ネックがアコギとしてはスリムに仕上げられており、そのためロックギタリストに愛用される事が多いようです。
基本モデルとなる「ハミングバード・スタンダード」はチェリーが退色した状態を再現しており、J-45同様のピックアップシステム「エレメントTVC(L.R. Baggs)」が搭載されます。
上位モデルとなる「ハミングバード・ヴィンテージ」は、熱処理によりトップの色合いがさらにシックになっておりヴィンテージ感満載な印象です。ペグが旧式のクルーソンタイプになっており、ピックアップは付けられていません。
Hummingbirdを…
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ハミングバードと対をなすダヴは、ところどころに飛び交う鳩(Dove)のインレイが美しい高級機として限定生産されています。グレードの高いシトカスプルーストップ、メイプルネック/サイド/バック、ローズウッド指板/ブリッジというマテリアル、及び弦長25.5インチという仕様はSJ-200と同じスペックですが、ボディ形状の違いから高音とアタックの際立つ歯切れの良いサウンドになります。
Doves in Flightを…
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Gibson Songwriter Deluxe Studio Acoustic-Electric Cutaway Guitar,
demo’d by Don Ruffatto
「ソングライター」は、ギブソンが伝統に乗っかるだけのブランドではないことが分かる、モダンテイストのアコギです。基本モデルの「スタジオ」に対し、「デラックス・スタジオEC」はカッタウェイモデルになっています。「EC」は「エレクトリック・カッタウェイ」の略ですが、両モデルともエレメントTVCを備えるエレアコになっています。
楽器本体はシトカスプルーストップ、ローズウッドサイド/バック、マホガニーネックというマテリアルで、くっきりとした素直なトーンが持ち味です。このモデル専用のブリッジ/ピックガードのデザインにより、新しいけれどギブソンらしい顔つきになっています。
Songwriterを…
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ドレッドノートがアコギ業界を席巻する前は、アコギのボディはもっと小さいものでした。1902年以来アーチトップモデルとして生産され1926年にフラットトップにモデルチェンジしたLシリーズは、そんな小さめボディ(でも、当時としては大きい)のギターです。音量競争に追いつけずに廃盤になっていましたが、伝説となっているロバート・ジョンソン氏が愛用したこともあり、復活を望むユーザーの声に答える形で再生産されています。
「J-45の音がする小さいギター」という触れ込みで現代に復活したモデルです。ボディ幅は13.5インチで、16インチのJ-45と比べるとふた周りほど違う印象ですが、シトカスプルーストップ、マホガニーネック/サイド/バックというマテリアルとL.R.Baggs製ピックアップシステム、そして弦長(24.75インチ)が共通しており、かなり近いキャラクターになっています。細めの「スリム・テーパー」ネックグリップは、繊細なプレイをそれとなくサポートします。
上位機種には、雄大な鳴りを特徴とするアディロンダックスプルースをトップに採用した「1932 L-00 Vintage」があります。ヴィンテージギターを再現したものなので、こちらにはピックアップは付いていません。
L-00 Standardを…
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かのロバート・ジョンソン氏が愛用したと伝えられる「L-1」のスタイルを現代に甦らせたギターです。
という高級仕様のマテリアルに、
という旧式の仕様が相まって、時代を感じさせる風貌になっています。
これにL.R.Baggs製ピックアップシステムが内蔵され、現代の音楽シーンで大活躍できるギターに仕上がっていますが、このL-1をベースとしたブルースマン「Keb’ Mo’(ケブ・モ)」氏のシグネイチャーモデルがリリースされています。
L-1 Blues Tributeを…
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Keb’ Mo’ Life Is Beautiful @ Infinity Hall
ケブ・モ氏はこれまでグラミー賞を3度受賞したブルースマンで、ロバート・ジョンソン氏が牽引したデルタブルースの継承者と見られています。しかしケブ・モ氏はひとつのジャンルに収まる事なく、ソウルやロックなどさまざまな音楽の要素を貪欲に取り入れ、伝統を継承しながら現代的なサウンドを出しています。
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