代表機種D-28に見るMartin(マーチン)ギターの特徴[記事公開日]2015年6月14日
[最終更新日]2022年03月31日

martind28

モデル名「D-28」の秘密

マーチンギターのモデル名は000-18やD-45のように二つの記号で構成されますが、これは「ボディ形状」-「スタイル」の組み合わせを表しています。「スタイル」はトップ/サイド/バックのマテリアルやロゼッタ(サウンドホールの装飾)などの組み合わせを記号化したものなので、一般的には「スペック」のことだと思って良いでしょう。

ボディ形状と特徴

martin-size 左から:1-28, 0-28, 00-28, 000-28, OM-28, D-28
引用:C.F. Martin Guitar Sizes

マーチンI世の時代に設定されたボディサイズは最小の「5」から最大の「0」までの6段階でした。この時代の5〜1は現代のギターとしては小さすぎるため廃盤になっており、現代ではボディ幅13.5インチの古典的な「0(シングルオー)」をスタート地点とし、ボディ幅16インチの「J」までのボディサイズが設定され、ボディ厚は4インチから約4.9インチまで小幅に推移していますが、シェイプにもそれぞれに個性があり、弦長にも違いが設けられていてサウンドのキャラクターに反映されています。

・ボディ幅順ボディ形状(「”」は「インチ」の意味です)

  • 0 :ボディ幅13 5″:マニアからは「究極の美」とも。
  • 00:ボディ幅14 5/16″:ダブルオー。グランド・コンサートとも。フォーク、ブルース、ラグタイムに最適。
  • 000:ボディ幅15″:トリプルオー。繊細なトーンと立ち上がりの良さが人気。エリック・クラプトン氏のシグネイチャーモデルはこの000。
  • D:ボディ幅15 5/8″:ドレッドノート。低音が豊かな迫力のあるサウンド。
  • GP:ボディ幅15 3/4″グランドパフォーマンス。
  • 0000:ボディ幅16″:クアドラオー。グランドオーディトリアム(M)とも。アーチトップギターのサイズ。
  • J:ボディ幅16″:ジャンボ。0000よりボディ厚がある。パワフルなサウンド。

Dは中堅辺りのちょうどいい位置にいますが、他のモデルに比べてボディのくびれがゆるやかなので、0000よりも大型な印象を受けます。弦長は000が分水嶺で、0、00、000がギブソンに近い弦長24.9インチでマイルドな張りと繊細なサウンドを持ち、000と同じボディシェイプのオーディトリアムモデル(0M)以降はフェンダーに近い弦長25.4インチで、弦の張りが強くなりパワフルなサウンドを際立たせます。

スタイル

martin-d18-45 左から:D15、D18、D28、D42、D45

スタイルはマーチン設立から一貫して使用されている2桁の数字で表現されますが、現代では15から45までが使用され、数字が上がっていくにつれて工程の多い豪華な仕様になっていきます。

  • 15:オールマホガニーボディ、ローズ指板&ブリッジ。装飾のない「弾き倒し用ギター」
  • 18:スプルーストップ/マホガニーサイド&バック、ローズ指板&ブリッジ。バインディングなど簡素な装飾を持つスタンダード仕様。

この18以降、全てスプルーストップになります。

  • 21:ローズサイド&バック。指板&ブリッジはローズ又はエボニー。
  • 28:ローズサイド&バックで指板&ブリッジはエボニー。バインディングが豪華に。
  • 35:28のバック材が3ピースに。
  • 42:28を基調に象牙調のバインディング、アバロンインレイなど豪華仕様。
  • 45:42に施すインレイを増やして更に豪華に。

35は28を作るための充分な幅を持つローズウッドが手に入りにくくなってきたことから考案された仕様であり、40番台は装飾がポイントなので、「28が楽器として最も優れている」と考えるプレイヤーが多くいます。

我らがD-28に見る、マーチンギターの特徴

「D」は1916年からしばらく特注のギターとして作られ、1931年にD-18とD-28がレギュラーのラインナップに加わり、1934年に14フレット接続となって完成しました。この型番は英国海軍が誇る当時最大級の戦艦「ドレッドノート」を由来としていますが、それまでになかったくびれを抑えたでっぷりしたシェイプ、当時としては最大級のボディが発する迫力のある音量は戦艦ドレッドノートのイメージとマッチしていました。

dreadnought Wikipediaより:戦艦ドレッドノート

時代や流行の求めに対して常に積極的な攻めの姿勢をとり続けるマーチンが、さらなる大音量化の求めに対してオリジナルシェイプを開発せずに15年も前の設計図を引っ張りだしてきたのは、当時のアメリカが世界恐慌から端を発する長期的な不景気の渦中にあったからで、とても新規開発に回す予算など得られなかったからであろうと考えられます。不景気も災いし、最初の3年間はD-18とD-28合わせて30本しか売れなかったと記録されていますが、音量と伸びがあり低音が豊かに響くDはボーカルの伴奏に真価を発揮することが認知されていき、当時の流行であったカントリーやブルーグラスなどのジャンルでは必須の存在になっていきました。

ギターの構造に革命を起こしたXブレーシング

Xブレーシング
Xブレーシング

「ブレーシング」はボディの補強と響きを調整する二つの役割がありますが、マーチンギターのボディトップ裏には全て「Xブレーシング」が採用されています。2本のブレーシングがサウンドホールのすぐ下で交差する構造は、スチール弦の張力に耐えうる強度をボディトップにもたらし、なおかつトップを均一に振動させる優れた性能を持っています。この剛性と音響性能により、それ以後のアコギを変えてしまった革命的な設計です。

D-28には標準的なXブレーシングが施してありますが、上位機種では

1)ブレーシングを弓状にえぐった「スキャロップド・ブレーシング」(HD-28、D-28 Authentic 1931など)
2)交差するポイントをサウンドホールに近づけた「フォワードシフト」(D-28 Marquis、HD-28Vなど)

が採用されることがあります。2)は1)とセットになります。
これらは新品からでも豊かで迫力ある音量の得られる仕様ですが、ギターの弦がガットからスチールへと切り替わっていく歴史の過程で、ボディ剛性を稼ぐために一旦廃止になった仕様でもあります。そのため管理方法によってはスチール弦の張力でブリッジ部が盛り上がってしまったり、あるいはトップにうねりが出てしまったりすることがあります。ですからこのような仕様は、十分な経験に裏付けられた自己判断か、もしくは信頼のおけるリペアマンの指導の下できちんと管理する必要がある上級者向けだと言えます。

ネック

D-28ネック

D-28に採用されている「ロープロフィール」ネックグリップは、現代的なやや薄めの形状であり、親指を出して握ることを想定した適度な細さでストレスなく演奏することができます。その他「D-28 Authentic 1931」など復刻版では昔ながらのやや太いグリップが再現され、また「HD-28VS」の様に数字の次にVが来るモデルはVシェイプのグリップが採用されています。

マホガニーネックがマーチンの基本仕様でしたが、現代のD-28のネック材は「Select Hardwood(=厳選された堅い木)」とされています。100万円を超える上位機種「D-28 Authentic 1941」でも「Solid Genuine Mahogany(=マホガニーの無垢材であることに間違いはない)」とされていますが、これは決していい加減な表示をしているのではありません。品質の高いネック材が慢性的に不足しており、世界中に流通させるだけの十分な量を確保できなくなっているからです。「Select Hardwood」ならば、マホガニーばかりではなくサペリなど近い性質の木材も使われているが、マーチンのネックとして十分な品質があるという意味で、「Solid Genuine Mahogany」ならば、ホンジュラス産かもしれないしアフリカ産かもしれないけれど、間違いなくマホガニーが使われているという意味で、色々な方面からネック材を工面しているマーチンの苦悩が伺えます。

マテリアルの産地や品種にユーザーがこだわるのはマーチンも痛い程承知しているのですが、だからといってアフリカンマホガニー、サペリ、アマゾンマホガニー、チャイニーズマホガニー、フィリピンマホガニーなどいちいち区別していては、そのためにいちいち異なるモデル名を設定しなければならず、市場の混乱を招いてしまいます。よって「マテリアルの詳細が表示できないのは申し訳ないが、間違いのないクオリティのギターを作るので、マーチンを信用して下さい」と言うわけです。この表示が物議をかもしたこともありましたが、生産されるギターのクオリティがしっかり保たれていることから、現在では市場からも受け入れられています。

ヘッド裏

Martin D-28:ヘッド裏

マーチンギターはヘッド裏までネックの延長が真っすぐ届いており、ヘッドとネックの境目に盛り上がりを作っています。鋭角な形状から、これを「ダイアモンド・ボリュート」と言います。マーチンは本来、別々に作ったネックとヘッドを貼り合わせる作り方をしており、このダイアモンドボリュートはその接着面を稼ぐのが主目的でした。現在の設計ではヘッドからネックまで1ピースで成形するので、これは必要ないとも言えますが、マーチンの伝統的な設計の名残として残されています。強度が上がるのでヘッド折れを防ぐと言う効果も期待できますが、折れる時は折れるので油断は禁物です。

ブリッジ

ベリー(Belly:膨らんでいる)ブリッジ

1930年代以前に採用されていた長方形のブリッジに、ボディエンド方向に膨らみを持たせたことから「ベリー(Belly:膨らんでいる)ブリッジ」と称されます。この膨らみは、スチール弦を固定するブリッジピンを受け止める部分の補強になっています。
サドルはブリッジの竪穴に収まっていますが、「D-28 Authentic 1941」など年代ごとの復刻版では当時の「ロングサドル」になっています。ロングサドルはクラシックギターのブリッジを踏襲した構造で、ブリッジの盛り上がり部分にノコギリを当てることで溝を作るので、生産のしやすい構造でした。しかし個体によっては張りの強い弦に溝が耐えられないことがあり、標準仕様では竪穴を空ける工法に変更されています。

ヘリンボーン

ヘリンボーン

V字が連結しているルックスがニシン(Herring)の骨(Bone)に似ていることから「ヘリンボーン」と名づけられている模様は、戦前の「28」でバインディングに採用されていました。材料をドイツから輸入していたのですが、戦争の影響もあり戦後には品質が不安定になり廃止されます。しかしヴィンテージファンからの要求が高まり、1970年代に復活してレギュラーラインに加わることとなりました。通常のD-28には普通のバインディングが施されていますが、ヘリンボーンを意味する「H」を冠したHD-28やHD-28V、HD-28 RETROなどにはヘリンボーンのバインディングが施されます。その他のボディシェイプでは、OM-28Vやエリック・クラプトン氏シグネイチャーの000-28ECなど高級仕様モデルで、それとなく採用されています。

D-28のラインナップ

ドレッドノート、ローズウッドサイド&バック、エボニー指板&ブリッジという仕様、低域が充実した迫力あるサウンドが得られるD-28は、定番気として非常に人気がありマーチンギターの中で大変幅広いラインナップを誇っています。ここではその中から「D-28」の名を冠しているものをピックアップして紹介します。

D-28 / D12-28

Martin D28

マーチンの定番D-28は現在の高級アコースティックギターの手本となっており、12弦モデルのD12-28も作られています。さらにグレードの高いモデルに、戦前のスペックを再現させた「D-28 Marquis」、マーチンミュージアムに展示されている1941年製D-28を、マテリアルからブレイシングからヘッドの接ぎなど工法まで完全に再現することで100万円以上の価格になっている「D-28 Authentic 1941」があり、ヘリンボーン、ロングサドル、スキャロップドブレーシング採用などのスペックでファン垂涎の逸品となっています。

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HD-28 / HD-28V

Martin HD-28 Martin HD-28

D-28のバインディングにヘリンボーンを施したHD-28は、スキャロップドブレーシングによりアップグレードされており、通常のD-28より音量が豊かに得られます。ネックグリップをVシェイプにしているHD-28Vは、さらにブレーシングの交差するポイントをサウンドホールに寄せた「フォアードシフト」と伝統的なロングサドルにより、1930年代以前のレトロな雰囲気をかもし出しています。

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HD-28VS / D-28 Authentic 1931

d28-authentic1931 D-28 Authentic 1931

14フレット接続が採用される以前に作られていた12フレット接続仕様を復刻させたHD-28VSは、生音を重視する多くのプレイヤーに支持されています。100万円を越える高級機「D-28 Authentic 1931」はデビュー当時のD-28をマテリアルから工法まで、可能な限り余すところなく再現しています。

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HD-28E Retro

hd28e-retro

スキャロップドブレーシングとフォアードシフトでアップグレードしたD-28に、マイクシミュレータを搭載させた最強のエレアコ。電気系にはパフォーミング・アーティストシリーズの開発で培った技術が惜しみなく注がれており、1940年代から1960年代にレコーディングされた「時代を作ったサウンド」をアウトプットすることができます。

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