《ヤマハギターの元祖》YAMAHA「FG」「FS」シリーズ[記事公開日]2021年4月22日
[最終更新日]2022年04月3日

YAMAHA FGシリーズ

ヤマハの定番機種「FG」と「FS」両シリーズは、同社初のアコギ「FG-180」と「FG-150」の末裔です。特にFGは「日本で最も普及したフォークギター」との呼び声が高く、今なお多くのミュージシャンに愛されるほか、これから始める人の最初の1本としても存在感を発揮しています。両親や親戚の古いFGを譲り受けた、という人も多いことでしょう。今回は、そんなヤマハ「FG」「FS」両シリーズに注目していきましょう。

井上苑子 meets Yamaha FG&FS series
FG/FSを次々と弾いていく井上苑子女史。モデルごとにキャラクターがあるのが分かりますね。

「FG」半世紀の歩み

ヤマハは戦後、1940年代からクラシックギターを作っていました。ビートルズらの登場によってギターの需要が世界的に高まってきた60年代、日本でアコギといえば高価な輸入品しかありませんでした。これを好機と見たヤマハは1966年、「FGシリーズ(アコギ)」のみならず、「SGシリーズ(エレキギター)」、「SBシリーズ(ベース)」そしてギターアンプまで、一挙に発表します。

戦前からの木工技術があり、クラギですでに20年ほどの実績があり、また当時の代表的な楽器を調達して分析し尽くしたこともあってこれら新製品はクオリティが高く、内外の市場を獲得していきます。

1966年、2本のFGが爆誕

このとき発表されたアコギは、「FG-180(ドレッドノートタイプ)」と「FG-150(フォークタイプ)」の2機種です。日本人にマッチさせたサイズと合板ボディだからこそのハッキリしたサウンドが持ち味で、求めやすい価格も達成し、「いいギターは高い」という価値観をくつがえしました。FGはたちまちミュージシャン必携のアイテムとなり、多くのヒット曲で使用されました。

時代に合わせ、柔軟にモデルチェンジしていく

FGは技術の向上や音楽シーンの変遷に合わせてマイナーチェンジを繰り返し、そのたびにラベルの色を変えていきました。そのためラベルの色を見れば、古いFGのおおよその年代がわかります。このうち、1968年から1972年まで作られていた「赤ラベル」が名機と謳われました。

  • 1966年~1968年:ライトグリーン
  • 1968年~1972年:レッド(赤ラベル)
  • 1972年~1974年:グリーン
  • 1974年~1975年:ブラック
  • 1975年~1980年:オレンジ

FGは今なお、その時代のシーンや感性にフィットすべくモデルチェンジを重ねています。やがてフォークタイプは「FS」に改称し、FGはFG/FSの2面で展開する現在の布陣となりました。これまで発表されたFG/FSは、通算200モデル以上にもなります。

「L」シリーズとはどう違うの?

ヤマハの最高峰「L」シリーズは1974年、高級モデル「FG2000」が改称する形で誕生しました。「L」もFGの末裔だったわけです。現在の「L」は総じて木材や装飾のグレードが高く、シリーズ自体がFG/FSの上位という扱いです。装飾や塗装、ジョイント法など細かな違いはありますが、最大の違いはブレイシングにあります。「L」はノンスキャロップ、FG/FSはスキャロップド・ブレイシングです。

YAMAHAアコースティック最高峰「L」シリーズ

FG/FSのスキャロップド・ブレイシング

ノンスキャロップ・ブレイシングが馴染んできて良い音に育つまでに5年や10年という年月を要するのに対し、スキャロップド・ブレイシングは新品の状態からかなり良好な響きが得られるのがメリットです。
FG/FSのスキャロップド・ブレイシングは、鬼のような開発力で定評あるヤマハ開発陣が、音の実験と解析を重ねた結果に基づいて設計しています。トップの耐久性をじゅうぶん残しつつ、中低音域の豊かなパワフルなサウンドが得られます。

FG/FSシリーズのラインナップ

FG/FSシリーズは、トラッドウェスタン(マーチンでいうドレッドノート)のFGシリーズ、マーチンで言う000タイプのFSシリーズで展開されています。ざっくり「大型のFG、小型のFS」という感じですが、この2タイプから木材構成に違いを設けたグレード分け、また多彩なカラーバリエーションが用意されており、気に入った1台をきっと見つけることができます。

ガツンとアタックの立つ明瞭なサウンドに求めやすい価格帯もあり、これからギターを始める人に強烈にお勧めできるギターです。

合板で出来た安いギター?

FG/FSのボディトップにはすべて「単板」と表示されていますが、サイド&バックは「単板」と言われていません。ヤマハに限らず現代のギターでは、スペックに「単板」もしくは「Solid」と表記されていないもののほとんどが、薄板を貼り合わせた「合板」を意味します。高価な単板に対して、合板は価格を抑えられることもあって安いイメージがどうしてもつきまといます。

しかし、合板は強度のため木材の繊維方向を交差させて貼り合わせて作ること、また振動は繊維方向に速く伝わること、以上のことから合板のギターは振動伝達の効率がよく、アタックの立ち上がりに優れる傾向があります。ガツンとアタックが立つキャラクターは、こういう所にも由来しているのです。また合板は板材として強度に優れてもおり、合板のギターを愛用するプロミュージシャンも多くいます。

YAMAHA「FG」シリーズ

現代のFGは、ヤマハ伝統のトラッドウェスタン・ボディ形状を現代に伝える、しかし最初の一本として手に取りやすい、親しみ深さのある定番機種です。「412ミリ」というFGのボディ幅は、このタイプで代表的なマーチン「D-28」(397ミリ)やギブソン「J-45(406ミリ)」より大きめです。「650ミリ」という弦長もマーチン「D-28(645ミリ)」より長いことから、FGはでっかいギターだと言えるでしょう。なお、今のところエレアコ仕様のラインナップはありません。

FG850(全面マホガニー)

「FG850」は、トップにマホガニー単板、サイド&バックにマホガニー、ボディバインディングにもマホガニーを使用した、木のぬくもりを全方向から感じられる全面マホガニーボディです。濃い色合いのかわいらしさと豊かな中音域が際立つ明るいサウンドが持ち味で、カラーバリエーションはナチュラル一本です。

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FG840(フレイムメイプル)

「FG840」は、サイド&バックに杢の美しいフレイムメイプルを使用したモデルです。ナチュラルカラーの明るい色調に象徴される、メイプル特有のクリアで歯切れのいいサウンドが持ち味です。

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FG830(ローズウッド)

「FG830」は、サイド&バックにローズウッドを使用しています。芯のあるクリアなサウンドに豊かなサスティンが加わる、深みのある音が持ち味です。カラーバリエーションはナチュラル、タバコブラウンサンバースト(上写真)、オータムバーストの3択です。

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FG820(マホガニー)

「FG820」は、サイド&バックにマホガニーを使用しています。暖かみのあるパワフルなサウンドが持ち味で、カラーバリエーションはナチュラル、ブラック、ブラウンサンバースト、 サンセットブルー、オータムバースト(上写真)と豊富です。「FG820-12」は12弦仕様、「FG820L」はレフトハンド仕様で、いずれもカラーはナチュラル一択です。

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FG800(ナトー/オクメ)

「FG800」は、サイド&バックにナトーもしくはオクメを使用した、エントリーモデルの代表格です。レスポンスとの良さと力強いサウンドが持ち味で、カラーはナチュラルのみです。

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YAMAHA「FS」シリーズ

左から、ナチュラル(マホガニー)、タバコブラウンサンバースト、ダスクサンレッド、ターコイズ、ルビーレッド、ブラック、オータムバースト、ナチュラル(スプルース)

FGと並ぶ定番機種「FS」は、「ボディ幅380ミリ/弦長634ミリ」というサイズ感がマーチン「000(ボディ幅381ミリ/弦長632ミリ)」に近い感じの、比較的コンパクトなモデルです。特に座って構えた時の圧迫感のなさ、1フレットにラクに手が届く距離感で厚く支持されています。またこのプレイアビリティの高さから、ドレスアップモデルYAMAHA「STORIA」のベースにもなっています。

FSのバリエーションはFGにならう形で展開していますが、FGとは違うカラーバリエーションもあり、独立したモデルとして個性を発揮しています。

  • FS850:全面マホガニー。色はナチュラル一択。
  • FS830:ローズウッド。色はナチュラル、ダスクサンレッド、タバコブラウンサンバーストの三択。
  • FS820:マホガニー。ナチュラル、ブラック、ルビーレッド、ターコイズ、オータムバーストの5タイプ。
  • FS800:ナトーかオクメ。色はナチュラルのみ。

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《上位モデル》FG Red Label/FS Red Labelシリーズ

名機「赤ラベル」の名を冠する「FG Red Label」「FS Red Label」は、総単板ボディ、ヴィンテージ風の意匠と最新技術を傾注した設計で仕上げた上位モデルです。FGとFSの2モデルを基本に、同じ設計の日本製「5」とアジア製「3」という二つのグレード展開、さらにピックアップシステムの有無でラインナップを構成しています。

「Red Label」シリーズの特徴

「Red Label」シリーズは共通して、シトカスプルース単板トップ、マホガニー単板サイド&バック、マホガニーネック、エボニー指板&ブリッジ、というグレードの高い木材構成です。ここにヤマハの家紋を配したVシェイプヘッド、オープンタイプのペグ、セミグロス(半ツヤ)塗装といった意匠でヴィンテージモデルの雰囲気を演出しています。オープンタイプのペグは軽量なため、倍音豊かな響きが得られる傾向にあります。

「赤ラベル」を継承するネック仕様

「Red Label」シリーズのネックは、かの「赤ラベル」の時代を意識した設計です。最も大きな特徴は全機種のナット幅が44ミリと、ちょっとだけ幅広であること、またFGタイプの弦長が634ミリでちょっとだけ短くなっていることです。なお、ナット幅と弦長はFSタイプも同じ仕様です。

上質な音を得る仕様

トップ材はヤマハの独自技術「ARE」で成熟させており、また新開発のスキャロップド・ブレーシングが採用されています。この二つの仕様により、「Red Label」シリーズは新品の状態で、すでに永年弾きこんできたかのような豊かな響きが得られます。

《基本モデル》FG5/FS5/FG3/FS3

FG5(上)、FS5(下)

FG5とFS5は日本製の上位グレード、FG3とFS3は同じ設計で外国製です。カラーバリエーションはヴィンテージナチュラル1本で、FG5とFS5にはハードケースが、FG3とFS3にはライトケースが付属します。

《エレアコモデル》FGX5/FSX5/FGX3/FSX3

FGX5(上)、FSX5(下)

ピックアップシステム搭載機には、品番に「X」が付けられます。採用されているメカはシステム74「Atmosfeel/ アトモスフィール」で、3つのマイクでキャッチした音を3つのノブで方向付けします。

YAMAHAシステム74「Atmosfeel/ アトモスフィール」

3WAYピックアップシステム「アトモスフィール」は、アンダーサドルのピエゾピックアップで中低域を、プリアンプ搭載のマイクで低域を、胴鳴りを拾うコンタクトセンサーが高域を中心にキャッチします。

操作系はマスターボリューム、マイクブレンド、ベースEQという、多用途を意識しながらも絞りに絞ったシンプルさです。「マイクブレンド」はピエゾと他のマイクとの比率を操作するもので、音量を変化させずにブレンド具合を調節することができます。「ベースEQ」は低音域の音量をブースト/カットするもので、演奏スタイルやバンド編成などの目的に合わせた最適なサウンドが得られます。

ミニギター「JR2」「JR2S」

JR2(上)とJR2S(下)。JR2のサイド&バックは艶消し塗装。JR2Sはヘッドにローズウッドの化粧板があり、サイド&バックはツヤッツヤのグロス仕上げ。

FGを5分の4にダウンサイジングした「JR2」と「JR2S」は、小さなお子様が弾いたり、ちょっとしたお出かけ用に使ったりするための理想的なミニギターです。
「JR2」はオール合板ボディの基本モデルで、「JR2S」はトップ材を単板にアップグレードしています。単板のほうが響きは豊かですが、合板ボディは頑丈で、ちょっとやそっとのことではぶっ壊れません。カラーには、ナチュラルとサンバーストの2種類があります。

ヘッドやボディの形状、加工技術を誇示するピックガード、そして明瞭なサウンドといったFGの設計をしっかり継承しています。付属ギグバッグが秀逸で、教材が十分収まる大きなポケットと両肩で背負えるストラップを装備した、便利でしっかりしたものになっています。


以上、YAMAHA「FG/FS」シリーズに注目していきました。手に入れやすい価格で品質は高い、ヤマハの代表機種です。ギターを始めるその日から末永く付き合える、丈夫なギターでもあります。ショップで見かけたら、ぜひ手にとってみてください。