ヤマハのエレアコについて[記事公開日]2015年7月3日
[最終更新日]2022年03月31日

YAMAHA(ヤマハ)のアコースティックギター

ざっくりと「アコースティックギター」でくくられますが、エレアコはフォークギターと違った構造が求められます。生楽器は本体が豊かに響くよう設計しますが、本体があまりに豊かに鳴ると、ステージで盛大にハウリングを起こしてしまうことがあるからです。そのためエレアコでは、楽器本体の生鳴りがコントロールされる独自の設計が必要になってきます。

ヤマハでは、フォークギターのラインナップ(Lシリーズ&FG/FSシリーズ)とは独立したエレアコのラインナップを展開しています。ハウリングを起こしにくくするためには、ブレーシングを太くしたりボディシェイプを見直したりといった工夫が求められます。これにより「鳴り」が抑制されますから生の「音量」が比較的小さくなってしまいますが、それでも生音の「音質」が保たれているところがヤマハのすごいところです。

ヤマハのエレアコの特徴

ピックアップシステム

引用元:YAMAHA.com

ヤマハのエレアコに搭載されるピックアップシステムには、

  • アコースティックなトーンを追求した「SRT(System 63)」
  • 楽器の振動までピックアップする「ART(System 64,68)」
  • 一般的なエレアコサウンド(System 66)

以上の3つがあります。システムの番号は歴代ピックアップシステムの通し番号ですから、グレードとイコールにはなりません。この中での最新はSystem 68ですが、最もグレードが高いのはSystem 63です。それぞれ好みでサウンドメイキングができるようになっている他、便利なクロマチックチューナーが搭載されています。また一般に入手しやすい単三乾電池で作動します。

SRT(System 63)

SRTプリアンプ部分

「SRT(=Studio Response Technology)」は、レコーディングスタジオでマイク録音(=エアー録り)したアコギの音を、エレアコ(=ライン録り)で再現するシステムです。

生の音:弦振動→ボディが振動→空気が振動→マイク録音→レコーダやPA
エレアコの音:弦振動→ピックアップで電気信号に変換→プリアンプで増幅→レコーダやPA

このように振動伝達の経路が異なるため、エレアコ本来のサウンドは生音と全く違う印象になります。それゆえエレアコは「エレアコのサウンド」として、「生のサウンド」とは別物として扱われてきました。生の音が欲しければライブでもマイク録りを行ないますが、これではバンドの音量を上げることができず、またマイクを向けた位置から身動きが取れず、不便を強いられます。「エレアコで生の音を出したい」とは、プレイヤーの懸案でした。

ヤマハのSRTは、
・レコーディングスタジオでアコギをマイク録音した音の波形
・ピックアップからのダイレクト音の波形
この二つを比較解析してマイク録り特有の「空気感」を突き止め、生のサウンドを再現しています。使用するマイクを3種類から選択でき、オフマイク(=遠くに設置したマイク)の音も追加できます。またピエゾピックアップ本来の硬質なサウンドも別で持っており、どちらかのみ出力、また二つをブレンドして出力することができます。

ヤマハはSRTについて「生の音がする」という説明に終始しており、「モデリング」「シミュレータ」というワードを公式には使っていません。「他社のモデリング技術とは異なる」という論調で独自性を印象づけようとしているものと考えられますが、かえってイメージが掴みにくく判りにくくなっていますね。SRTは実質的には、「ヤマハ独自開発のモデリング技術」という理解で大丈夫です。

ART(System 64,68)

ART(System 64,68) YAMAHA APXT2 のARTシステム

通常エレアコのピエゾピックアップはサドルの真下に設置され、サドルが受けた弦の振動を拾うようになっています。ARTはこのピエゾをブリッジ裏に設置することで、楽器の持つボディ鳴りも拾うシステムです。ピックアップをちょうどいい位置に設置することで、弦鳴りのアタック感とボディ鳴りのバランスが取られたサウンドが得られます。

System 66

System 66 APX500III

サドル下に配置したピエゾピックアップのサウンドを、そのままプリアンプに送るシステムです。硬質でアタックの立つ「本来のエレアコサウンド」が得られ、プリアンプはSystem 64と共通になっています。

ヤマハエレアコのラインナップ

現在のヤマハは、3タイプのエレアコを展開しています。「エレキギターから持ち替えても違和感が無い」ことが共通のコンセプトで、そのためネックは「フェンダー系よりちょっと太く、ギブソン系よりちょっと細い」グリップで、また全モデルカッタウェイが設けられており、リードプレイにおいて特に有利になります。カッタウェイのぶんボディ鳴りが抑えられるので、ハウリング予防の効果もあります。ただし対策はとられていますがハウリングしない訳ではありませんので、ステージでは

1)低音を上げすぎない
2)モニタースピーカに近づきすぎない

といった注意は必要です。

APX/CPX

コンセプトと概要

YAMAHA APXシリーズのサウンドホールAPXシリーズのサウンドホール

楕円形のサウンドホールがトレードマークの「APX」は、ヤマハのエレアコでは最も長い歴史を持つシリーズです。「後からピックアップを装着したギターとは一線を画す」エレアコとして新たに開発されたモデルで、「エレアコの音」を追求したボディ形状/ブレイシング設計が採用され、バンドに埋もれない、中高域に押し出し感のあるサウンドを持っています。
エレキギターからの持ち替えを想定したコンパクトなボディ、リードプレイに有利な23フレットは、バンドマンのステージパフォーマンスを協力にサポートします。

YAMAHA CPXのヘッド部分 CPXのヘッド部分

「深胴の豊かな響きをありのままにラインアウト」することをコンセプトに1998年にデビューした「CPX」は、画期的なピックアップシステムで生鳴りをアウトプットできるエレアコの先駆者でした。羅針盤(=コンパス)をイメージしたヘッドインレイは、デビュー当時のモデル名「コンパス」の名残です。
ハウリング対策で生鳴りの量を制御する構造を取りながら、深いボディでアコギ本来の生のトーンを持っています。またくびれが深いボディデザインは、座って弾く時の弾きやすさを考慮しています。

ラインナップ

現座のAPX/CPXは、グレードごとに共通のウッドマテリアルとピックアップシステム、そして価格を持っており、デザインとボディ形状に由来するサウンドキャラクターで選べるようになっています。

1200/1000(APX1200II/1000、CPX1200II/1000)
APX1200II/1000、CPX1200II/1000

このグレードは、ボディ鳴りを活かすSRTシステムを搭載した上位機種になっています。スプルース単板トップが共通で、1200はローズウッド単板サイド&バック/マホガニーネック/エボニー指板、1000はフレイムメイプルサイド&バック/ナトーネック/ローズ指板というスペックです。落ち着いた色調ばかりでなくAPX1000にはパールホワイトや深いレッド(=クリムゾンレッドバースト)、CPX1000には鮮やかな青(=ウルトラマリン)があり、ロック系プレイヤーへのアピールポイントになっています。

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CPX1000を…
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700/500(APX700II/700II-12/500III、CPX700II/700II-12/500III)
yamaha-700-500

700はスプルース単板トップ/ナトーサイド&バック&ネック/ローズ指板で、12弦や左用もあります。電気系はART(System 64)が搭載されており、ボディ鳴りまでアウトプットします。
500はトップがスプルース合板/ナトーまたはオクメサイド&バック/ナトーネック/ローズ指板で、電気系はSystem 66が搭載されており、ピエゾ本来のサウンドを持っています。

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CPX700を…
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ミニギターAPX-T2
YAMAHA APX-T2

APX-T2は、APXの全長を15%ほど短くしたミニギターです。弦長580mmはベースのAPX(650mm)より7cm短く、ミニフォークギターJR2(540mm)より4cm長くなっており、子どもの習い事としてギターを始める際、APX-T2とJR2のうちから体格に合わせて選べるようになっています。
また電気系はART(System 68)で、操作系こそ簡略化されていますがボディ鳴りを出力でき、大人のガチの趣味に耐える性能を持っています。

APX-T2 を…
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Aシリーズ

コンセプトと概要

上述のAPX/CPXは高性能なエレアコとして開発されましたが、AシリーズはフォークギターのFG/FSシリーズをエレアコにアレンジしたモデルとしてデビューしました。スタンダードかつ握りやすいFGのネックを継承し、「A」ではFGの、「AC」ではFSのボディにカッタウェイを付けています。内部のブレーシングも共通しており音響性能的に共通点が多くありますが、マテリアルに違いが設けてあり、楽器としての個性はきちんと分けられています。また名器「N1000」のピックガードを受け継ぐことで、特徴ある攻めたルックスになっています。

YAMAHA Aシリーズのピックガード 特徴的なピックガード

Aシリーズは、エレアコでありながらもフォークギターとしての生の音にもこだわっています。迫力あるサウンドのFGタイプ、繊細なニュアンスの出るFSタイプというボディ形状に加え、トップ材にマーチンの使用で知られる「シトカスプルース単板」が全モデル共通スペックになっている他、サイド&バック材はローズ(型番”R”)とマホガニー(型番”M”)の2種類があります。

ラインナップ

A3シリーズ(A3R/AC3R/A3M/AC3M)
YAMAHA A3シリーズ

このグレードは10万円近辺という価格帯ながら、ボディが「オール単板」かつエボニー指板/マホガニーネックとなっており、APX/CPXで近い価格帯の1000シリーズより高級な仕様になっています。ベースとなっているFG/FSよりもギター本体のスペックが上がっており、今後このモデルをプッシュしていきたいというヤマハのモチベーションを感じさせます。電気系はSRTで、空気感のある柔らかいサウンドをアウトプットできます。

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A1シリーズ(A1R/AC1R/A1M/AC1M)
yamaha-a1-series

マホガニーネックは維持しつつ、サイド&バックを合板にすることで価格を抑えたモデルです。合板は頑丈なのでライブでガンガン演奏するのに向いています。電気系はARTが採用され、ボディ鳴りまでライブ会場に響き渡らせることができます。

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サイレントギター

YAMAHA サイレントギター

環境問題が重視される風潮の中、練習につきまとう「音の問題」は、特に都会に暮らすミュージシャンには大問題でした。近隣への迷惑を気にせず「思い切り練習が出来る楽器」として、ヤマハはサイレントピアノやサイレントドラムなどの「サイレントシリーズ」を提唱しています。サイレントギターは共鳴胴を持たず、生の音量は10〜20%ほどにまで下げられます。
サイレントギターでの練習はヘッドホンを使用します。リバーブなど内蔵エフェクトで練習に集中しやすいサウンドを作り、外部入力端子に音楽やメトロノームを送ってミックスするなど、積極的な練習ができるようになっています。またACアダプタ(別売)に対応しており、電池残量を気にせず何時間でも練習ができます。
ボディのフレームは取り外し可能で、運ぶ時の負担を軽くしてくれます。
本来練習用の楽器ではありますが、ハウリングの危険が極めて低い優秀なエレアコとして、プロのステージで頻繁に使用されます。

YAMAHAの「サイレントギター」ってどんなの?