YAMAHAアコースティック最高峰「L」シリーズ[記事公開日]2021年4月23日
[最終更新日]2021年08月23日

YAMAHA Lシリーズ

ヤマハ「L」は、1974年に発表されて半世紀にもなる、同社アコースティックギターの高級シリーズです。楽器としては良く響く良い音で、工業製品としては丈夫で安定しており、工芸品のような美しさも兼ねそなえ、ヤマハの積み上げてきた木工技術や設計のノウハウ、また独自の先端技術を感じることができます。今回は、ヤマハ・アコースティックギターのフラッグシップ「L」シリーズに注目していきましょう。


石崎ひゅーい – さよならエレジー
石崎氏がかき鳴らしている「LS26 ARE」は、ヴィンテージ風のドレスアップが特徴。開放的で成熟したサウンドと、抜群のレスポンスを持っています。

「L」とは何か?

1970年代当時の高級手工モデル「FG2000」がFGシリーズから独立する形で、「L」シリーズは誕生しました。シリーズ名の「L」は「ラグジュアリー(Luxury/高級品)」に由来し、厳選した素材を贅沢に使い、また熟練工によって丁寧に作られました。

その名の通りの美しさと音の良さが支持され、「L」は石川鷹彦氏、吉川忠英氏、南こうせつ氏、さだまさし氏ら一流アーティストに愛用されました。また彼ら現場からの声が設計にフィードバックされ、時代に合わせて進化していきました。

現代の「L」シリーズは「ギタリストの要求を満たし、かつ超える」ことを目指して、ギター製造の伝統をふまえつつ現代の技術も注いで作られています。そのため、半世紀もの歴史あるモデルながら現代の感覚で弾きやすく、また倍音豊かで強弱の操作が効く、そしてボディ形状にも価格帯にもバリエーションを持たせた、幅広い製品群を展開しています。


「涙そうそう」夏川りみ ギター吉川忠英
吉川忠英氏は石川鷹彦氏と並び賞されるアコースティックプレイヤーの草分け的存在で、福山雅治氏、中島みゆき女史、松任谷由実女史、加山雄三氏など、数多くのプロジェクトに参加しています。また、最初に覚えたコードが「F」だったという伝説を持っています(本人談)。吉川氏のシグネイチャーモデルはLJをベースにカッタウェイを設け、サイド&バックはマホガニー寄りの個性を持つ「セドロ」に変更、更にエレアコ化するなど大規模なカスタマイズが施されていました。

YAMAHA「L」シリーズの特徴

ではここから「L」シリーズの仕様や機能など、いろいろな特徴を見ていきましょう。高級品を自称するだけのことはあり、全機種でゴールドパーツが採用されています。特徴的な仕様は全機種共通ばかりでなく、どこかで区切られているものもあって、各モデルのグレードやキャラクターの違いを生んでいます。

全機種「ARE処理済」イングルマンスプルース材トップ

Lシリーズのトップ材は全モデル、ヤマハの独自技術「ARE」で成熟させたイングルマンスプルース単板を採用しています。イングルマンスプルースは奥行きを感じさせる雄大な鳴り方が持ち味で、ともすれば鳴りすぎて輪郭がぼやけてしまうことがあります。しかし「L」シリーズでは、接着面を広くとったネックジョイント法や独自のブレーシングといった設計により、迫力ある中低域と明瞭な高音域を共存させています。

全機種「ノンスキャロップXブレイシング」構造

サウンドの要となるブレイシングについては、ヤマハで伝統的に採用されてきたノンスキャロップXブレイシングを、最新の解析&モデリング技術と熟練のクラフトマンシップでブラッシュアップさせています。現在の設計ではミリ単位の細かい修正を施し、低域が豊かに響くよう方向付けされています。

ブレイシング材を必要以上に削らないノンスキャロップは、5年、10年と弾き込んでいくうちに育っていき、木の自然な鳴りが最大限に引き出され、より深く豊潤な中低音が得られるようになります。

スクエア・フレーム構造(26以上)

「26」以上のグレードでは、サウンドホール近くに「スクエア・フレーム構造」が採用されています。サイドにブレイシングを追加してトップとバックのブレイシングを接続、ブレイシングで四角形を作る構造です。これにより弦振動はより確実に裏板に伝わり、レスポンスと力強い響き、そして低音の鳴りが強化されます。

全機種「5層強化ネック」

「L」シリーズでは1ピースの高級感よりも環境変化や弦の張力に負けない安定感を重視し、全モデルで木材を5層重ねた強化ネックを採用しています。反りやねじれが発生しにくく、弾きやすい調整が長期的に維持できるのがメリットです。トラスロッドは順ぞり&逆ぞり両方に効くので、シビアな調整もしっかりできます。

また頑丈なネックは振動を吸収しにくいため音はタイトに引き締まり、サスティンは豊かに伸びます。ヘッドの先からネックの根元までが一体の構造で、ジョイント部は接合する面積が大きく取る独自工法をとっており、振動伝達も大変に良好です。

弾きやすいネック形状

ネックグリップについては安心して演奏に集中できる握り具合を目指し、エッジ部分は丸く、厚みは若干抑えた太すぎず細すぎない形状になっています。弦間ピッチ、弦高、バインディングなど細部の改良を重ねており、現在のネックではポジションを問わず、安定したグリップ感と滑らかな演奏性が得られます。

上位モデルではもう一工夫(26以上)

「26」以上のグレードでは、ネックボリュートが加えられ、ヘッド裏に化粧板が張り付けられます。この二つはいずれも、各部の剛性をアップさせる設計です。長期的にねじ曲がりにくいことに加え、ヘッドの余計な共振を抑えることで、より明瞭な響きが得られます。

石粉目止めラッカー塗装(36以上)

「36」以上のグレードでは、「石粉目止めラッカー塗装」が施されます。塗装において木材の導管を埋めて平らにする処理を「目止め」と言い、通常は砥の粉(とのこ。細かい土)や胡粉(こふん。白い顔料)が使われます。ここに石の粉を使用することで、音の立ち上がりとダイナミックスレンジが格段に向上します。

パッシブタイプのピエゾピックアップ搭載(6と16)

「6」と「16」のグレードでは、サドル下の各弦ごとにピエゾ素子を埋設しています。ピックアップのみでプリアンプを備えていないため、電源は不要です。「26」以上のグレードをエレアコとして使いたい場合は、好きなメカを後付けするか、最初から強力なメカを備えている「LX」シリーズがお勧めです。


福山雅治 – あの夏も 海も 空も(福山☆夏の大創業祭 2015)
福山氏が弾くのは、装飾がビッシリと入った「LL」の特別仕様機です。

Lシリーズのラインナップ

「L」シリーズのラインナップは、3タイプを基本としたボディ形状と、86、56、36、26、16、6という6段階のグレードで構成されます。グレードはもとよりボディ形状やボディ容積でサウンドは異なりますが、体格や好み、また演奏スタイルに合わせて選んでも大丈夫です。

3種類を基本としたボディ形状

LL36、LS36、LJ36 左から:LL36、LS36、LJ36

「LL」(オリジナルジャンボ)

「LL」は、ヤマハ伝統のスタイルを継承したボディ形状です。くびれの少ないドレッドノート型ですが、寸法でいえば一般的なドレッドノートよりちょっと大きめです。低音の強い押し出しや高音の透明感がバランスよく豊かに響くため、特にコードストロークに好まれます。

「LS」(スモール)

「LS」は、身近なところではヤマハ「FS」シリーズに近いボディ形状です。ちょっと小さめでボディ厚はちょっと控え目、くびれが深いのが特徴です。中音域が豊かに際立つ繊細なトーンを持ち、指弾きやリードプレイに好まれます。

「LJ」(ミディアムジャンボ)

「LJ」はLSをサイズアップさせた、特に座って演奏する時のフィット感が良い形状です。存在感のある低音とクリスピーな高音域をもち、ストロークもアルペジオもリードも良好です。色々なスタイルの演奏を使い分ける多彩なプレイヤーに好まれます。

6段階のグレード

86/56シリーズ(受注生産)

YAMAHA LL86 Custom ARE LL86 Custom ARE

最高グレード「86」は、ヤマハ伝統ボディシェイプ「LL」だけのリリースです。「LL86 Custom ARE」は198万円という価格を誇る貴重なフラッグシップモデルです。サイド&バックに貴重なハカランダを単板で使用、接合部分やネックのエッジを彩るウッドバインディング、ヘッドやロゼッタに配置されたアバロン貝のインレイなど、工芸品としても大変美しい逸品です。
3つのボディシェイプで展開している「56」シリーズはこの86をベースに、装飾を若干押さえてサイド&バックをインドローズ単板に仕様変更したモデルです。これも受注生産品ですが、価格は55万円にまで抑えられています。


田中彬博 TANAKA AKIHIRO 「Same Time」
最高グレード「LL86 Custom ARE」を奏でる田中氏。ギターに僅かなキズもつけないような衣装を選んでいるあたりもさすがです。

36シリーズ(レギュラーライン最上位)

YAMAHA LS36 ARE LS36 ARE

レギュラーラインではトップグレードの「36」は上記56シリーズの装飾を抑えたモデルで、サイド&バックはインドローズ単板です。この36まではネックにウッドバインディングがあり、石粉目止めラッカー塗装が施されています。


田中彬博 TANAKA AKIHIRO 「神様のいたずら」

26シリーズ

YAMAHA LL26 ARE LL26 ARE

「26」はボディのウッドバインディングを残しながら、ネックとヘッドには敢えてバインディング無し、ペグはオープンタイプという意匠で、クラシカルな雰囲気を演出しています。ウレタン塗装、ローズウッド単板サイド&バックという仕様で、この「26」までが日本製です。


田中彬博 TANAKA AKIHIRO 「Wednesday Cat」

16シリーズ

YAMAHA LL16 LL16

「16」は「26」同様にAREを施したイングルマンスプルーストップ、ローズウッド単板サイド&バックという仕様で、コストパフォーマンスに挑んだモデルです。3タイプの「16」のほかバリエーションモデルが多くリリースされており、選ぶ楽しさがあります。

  • LL16M ARE / LS16M ARE:マホガニー単板サイド&バック。明るいサウンドで、ストロークに特に良好。
  • LL16D ARE:ボディ外周とロゼッタにアバロンインレイ、ポジションマークにダイヤモンドデザインのインレイを施した、ドレスアップモデル。
  • LL16L ARE:「LL16 ARE」の左仕様。
  • LL16-12 ARE:「LL16 ARE」の12弦仕様。

6シリーズ

YAMAHA LJ6 ARE LJ6 ARE

「6」は、サイド&バックをローズウッド合板にすることで、さらなるコストパフォーマンスを達成させたシリーズです。価格にこそグレードの差は出ますが、合板の頑丈さとタイトな鳴り方は、単板ボディとはまた違った性能とサウンドと好意的にとらえられます。また、ナチュラルカラーのみのLシリーズのラインナップにおいて、このグレードだけナチュラルとブラウンサンバースト、またLL6 AREにはさらにダークティンテッドというカラーバリエーションが用意されています。

LLシリーズを…
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プロ仕様のエレアコ「LX」シリーズ

「LX」シリーズは、「L」のボディにカッタウェイを付け、高性能ピックアップシステムを設置した、プロ仕様のエレアコです。現在では3つのボディシェイプで「26」と「36」がリリースされています。

二つのグレードで展開する「LX」の本体については、カッタウェイ以外はこれまで見てきた「L」と同じ仕様です。「LX」最大の特徴は、シンプルながら抜群の音質を誇るピックアップシステムにあります。

A.R.T 3wayピックアップシステム(System60Ⅱ)

「LX」に搭載される「A.R.T 3wayピックアップシステム」は3つのピエゾピックアップを統合することで、リアルなアコースティックサウンドが得られます。ここにモデリング技術を採用せず、ピエゾだけで勝負する姿勢に、楽器本体の豊かな胴鳴りを重視する「L」の矜持が感じられます。

「A.R.T 3wayピックアップシステム」は、弦振動全体をキャッチする「メイン」、高音弦側を重点的にキャッチする「トレブル」、低音弦側を重点的にキャッチする「ベース」という3つのピエゾピックアップの音量バランスで基本の音を作り、離れたところに設置されたマスターボリュームで全体の音量を操作する仕組みです。

プリアンプは備わっていないので電池不要で、メカによって楽器の鳴りが損なわれるのも最小限に抑えられます。

LLX/LSX/LJX 36C ARE、LLX/LSX/LJX 26C ARE

YAMAHA LLX36C ARE LLX36C ARE

LXの「36」は、インドローズ単板サイド&バックのボディに石粉目止めラッカー塗装を施した豊かな胴鳴りがポイントです。同「26」はローズウッド単板サイド&バックで、オープンギア式ペグなどクラシックな意匠が特徴ですが、ナチュラル、ブラック、タバコブラウンサンバーストという3タイプのカラーバリエーションがあります。


以上、ヤマハの高級機「L」シリーズに注目していきました。ヤマハのギターは楽器としての音の良さだけでなく、道具としての安定度や頑丈さも重視して作られています。開発においてはいろいろな気象条件に置かれた時の状態を見る耐候試験を行なっており、変化の激しい日本の気候においても安定した状態を維持できます。道具としてタフであることが、楽器としての信頼につながっているわけです。ショップで見かけたら、ぜひ手にとってみてください。