2016年4月にオープンした「VINCENT(ヴィンセント)」ギターのラインナップは、ヘッドに製造元の「K.Yairi」ロゴと、ブランド名「VINCENT」が併記されます。「ヤイリ」の名を冠することで「作りの良さ」が保証されるのに加え、どんなリペアも格安で受けられるヤイリの「永久保証」が付きます。ヤイリのクオリティと安心感に、オーナーである小川浩司(おがわこうじ)氏の経験とセンスが注がれているのがVINCENTの特徴です。それでは、VINCENTのラインナップを小川氏に解説してもらいましょう。
小川浩司氏
小川 VINCENTのギターは、ヤイリを知っている人ならなおさら分かる「良さ」があります。ぜひ、ヤイリマニアの方にもそれを感じて欲しい。ヤイリには僕の後輩もたくさんいます。僕の目が光っていると思って、必死で作ってくれるんです(笑)。
ボディトップがスプルース単板になっているのは、全モデル共通です。同じルックスで、サイド&バックが単板のモデルと合板のモデルがあります。単板は鳴りが大きく広がる感じ、合板は3層構造で、キュっと締まって広がらない感じです。
「VNシリーズ」は、小ぶりで抱えやすい「ニューヨーカースタイル」のラインナップです。サイド&バックにバリエーションを設けていますが、モデル名には音楽のジャンル名を添えており、そのイメージを表現するカラーリングになっています。
モデル名 | サイド&バック | カラー |
VN-30 Blues | サペリ単板 | ナチュラル (トップ面特殊加工) |
VN-3 Standard | サペリ合板 | ナチュラル、サンバースト |
VN-5 Pops | メイプル合板 | オレンジ、グリーン (いずれもマッチングヘッド) |
──ラインナップにオレンジやグリーンがあるのも、女性をターゲットにしているからですか?
小川 オレンジやグリーンは確かに目を引く存在ですが、一般的なアコギ好きにとっては選びにくい色です。しかし、そうではない人たちにとっては魅力的に見えるのではないでしょうか。
まず目を引く鮮やかなギターをチェックして、次にナチュラルカラーのギターを弾いて、もし「ナチュラルもいいな」って思ったら、どうしようかな、と考えると思うんです。ギターは長く使うものですし、そういうきっかけの場所を作りたいと思っています。
小川 VINCENTの一番人気は、コレです。
飛騨家具の「うずくり」という技法で、トップの断面をギザギザに加工しています。鉄のブラシでこすって、柔らかい部分をちょっと削り取っているんですが、強度が増すばかりでなく音も丸くて太くて凄くいいです。この加工でちょっと厚みが無くなる分も計算してトップの厚みを出しています。ピックガードはバーズアイメイプルです。
「うずくり」技法によるボディのギザギザも、暖かみある印象を与えてくれる
小川 いわゆる「木の暖かさ」を感じやすいので女の子に人気が出ればと思ったんですが、予約の7割が中高年の方です(笑)。オジサン世代はドレッドノートを抱えると肩がしんどくなるという人が多いんです。けれど太い音は欲しい、ということでこういうモデルが好評です。
サウンドホールのインレイが美しい
小川 僕が家であぐらをかいて弾きたいギターです。ガシャガシャではなく、爪弾きたくなる丸い音。カフェで弾くようなミュージシャンにはソフトなタッチで弾く人が多いのですが、そう言う人にマッチしています。ガンガン弾く感じではなく、キレイに弾く感じ。トップはスプルース。サイド&バックは単板で、柔らかい音です。
小川 こちらのモデルはサイド&バックが合板で、そのぶん鋭さが出ます。サペリサイド&バック、メイプルサイド&バックで印象が全然違います。こちらに用意しているサンプルでは、ピックアップも変えています。
VN-5 Pops;透明なピックガード
小川 「スタンダード」は一般的なピックガードが付いていますが、「ポップス」は塗装の途中に透明なピックガードを貼る、ヤイリ独特の技法を採用しています。
VD-110のヘッド部分
──ピックガードがかっこいいドレッドノートですね。マーチンでいうところの、ローズサイド&バックのD-28、マホガニーサイド&バックのD-18のイメージでしょうか。これはサイズ的には小さめのものですか?
小川 小振りではなく、普通のドレッドです。高音弦にも低音がしっかりあって、ピックでガンガン弾きたいギターになっています。EとAを弾くだけで十分楽しいです。
今はまだ新しい状態ですが、ココから音量も上がり、音は丸くなっていきます。このサンプルには参考としてL.R.バグスの「アンセム」というピックアップシステムが付いていて、ピエゾとコンデンサ2種類のマイクで音を拾います。生音がそのままでかくなった感じの音が、スピーカから出ます。思い切り弾いても耳が痛くない、心地よい音がガンガン出ますよ。
合板モデルの価格は単板モデルの半値以下に抑えています。合板モデルVD-9はD-18タイプでサイド&バックはマホガニーです。単板は太く豪快に鳴りますが、合板は逆に軽快に鳴ります。値段だけでなく、音でこの合板モデルを推す人も多いですよ。
──満を持して登場したギブソンスタイルですが、メイプル合板サイド&バックという仕様はギブソンにはありません。ワイルドであり、かつ上品さもある太い音、という印象です。これは新しい感触ですね!
小川 VINCENT立ち上げ時には、敢えてギブソンタイプはラインナップに入れませんでした。人気のあるタイプではあるんですけど、だからこそVINCENTらしいギブソンタイプを出したくて、開発に時間がかかっていたんです。それを考え抜いた結果としてたどり着いたのが、「ラミネイトメイプルのサイド&バック」と「弦長635mm」の組み合わせです。この弦長だと、思い切り演奏したときにちょっと弦がたわんで、ワイルドな音になります。
ヤイリでこれまで作ってきた経験もありましたから、サンプルの一台目で思っていた通りのギターに仕上がりました。中央にナチュラルを残した淡いサンバーストカラーも、VINCENTのオリジナルです。塗装の作業には僕も立ちあいました。外形寸法はヤイリ製品(Standard Series JY-45)と同じなんですが、ブレーシングの位置はこのモデルに合わせて微調整しています。
ピックガードの形状は、全モデル共通。VINCENTオリジナルの淡いサンバーストトップ、バックはつややかな飴色です。
小川 弦長と材をドレッドノートと同じに設定している「000(トリプルオー)」タイプです。ちょっと音は軽いので低音はドレッドノートに負けるものの、そのかわりに繊細さがあり、リード向けにカッタウェイがついています。音が速いですから、ソロやアルペジオなど繊細なプレイに大変良好です。エレキギターからの持ち替えもスムーズですから、現在エレアコ業界ではかなり強い「コンパス(ヤマハ)」に対抗できる逸品です。
──木の暖かみをしっかり味わえるギターですね。丸さも張りもあって、軽やかに鳴って、個性もあるけどとても聞きやすく、耳にスっと馴染んでくる音です。トップに刻まれたギザギザ、ヘッドやピックガードの木材などは、「VN-30 Blues」と同様の特徴ですね。
小川 トップに「うずくり加工」を施した一番人気、「VN-30 Blues」の000サイズです。サペリ単板サイド&バック、ピックガードとヘッドの化粧板にバーズアイメイプルを使用しているところなど、木材は共通です。「VN-30 Blues」は弦長635mmでしたが、000サイズのボディに合わせるため、こちらは弦長を10mm延ばした645mmになっています。これにより、「うずくり加工」トップ特有の丸みを帯びた鳴りに、ちょうどよい張り感が加わっています。
ボディ幅はVF-30、ボディの長さはVN-30の方が大きいという関係。ボディ幅だけで単純にボディの大小を語ることはできません。
小川 このモデルは、お客様からのオーダーメイドから生まれました。ぜんぜん別のお客様三名から、全く同じオーダーを頂いたんです。音の丸み、太さと張り感のバランスがひじょうに良かったので、ブレーシングも専用に検討して、ニューモデルとしてレギュラー入りさせることにしました。オーダーではドレッドノート(VDシリーズ)でも同じことができます。しかし、こちらはものすごく太い音がしますから、人によって好みが分かれると思います。
ガットギターでは異例のヘッドロゴ
小川 クラシックギター業界にはヘッドにブランドロゴを書く習慣が無いので、ミュージシャンの動画や写真を見ても、何を使っているかわかりにくいですよね。VINCENTはヘッドにもロゴがありますが、最近の若い方やアコギユーザーは、そういう所をあまり気にしていないように感じています。
ヤイリにはガット(クラシックギター)のイメージって薄いと思うんですけど、実はヤイリのエレガットはすごく使われていて、知る人ぞ知る定番機になっています。カフェでやる系のアーティスト御用達なんです。そういうアーティストさんを観た人が「ギターを始めたい」って考えることもあると思うんですよ。
通常のクラシックギターのネックは存在感のある太いものですが、こちらはエレキやアコギから持ち替えやすいスリムなネックを採用しています。ネックが太い方が低音は出るんですが、エレガットはソロ演奏よりもアンサンブルで使用されることがほとんどですから、そこまで低音を重視せず、弾きやすさが優先されます。
サウンドホール内のラベル:KAZUO YAIRIの刻印が
便利なのはバッテリーボックスです。最近はボディ内部に電池を配置するモデルが多いんですが、バッテリーチェックをしようと思ったら弦をゆるめなければなりません。クラシックギターやベースはいちど弦をゆるめると、もとのチューニングに戻すのに時間がかかってしまいます。そんなことライブ前には絶対やりたくないですね。
VINCENTのエレガットは、バッテリーボックスをボディエンド付近に埋め込んでいます。バッテリーチェックのためにいちいち弦をゆるめなくてもいいようになっていて、便利です。エンドジャックの横は頑丈で分厚くなっており、バッテリーボックスを受け止める十分な強さがありますし、ボディの鳴りにほとんど影響がありません。
小川 ヤイリでもラインナップされているアコースティックベースです。アコベはサウンドホールがある関係で、フレット数が限られるんです。でもヴィンセントのベースは1フレット追加することで、プレベと同じにしています。
VB-7cのサウンドホール付近:1フレットだけ追加されている
アーティストさんからの要望で「ライブ中に一回しかこんな高い音は使わないんだけど、もう1フレット欲しい」という要望がありました。この1フレット追加によって、いつもプレベを弾いているという人でも、アコースティック曲で持ち替えた時に自然に弾くことができます。
こちらもエレガット同様に、ボディエンド部分にバッテリーボックスを配置し、電池交換・バッテリーチェックが簡単にできるようになっています。
──これはひときわ異彩を放っていますね。
小川 もともとアイルランドの楽器で、ロックバンドの曲でもイントロ前のSEで使われることがありますね。チューニングはGDADで、脚の間に挟んで構えます。4コース複弦の8弦で、複弦はユニゾンです。珍しい楽器ですが、解放弦を巧く使ったアルペジオをピックで弾くのが、もっとも一般的なスタイルです。
ヤイリギターでは12年くらい前にレギュラー化したんですが、僕が開発したんです。日本のアーティストさんが使っているのを見たアイルランドのアーティストさん達が、来日時にわざわざオーダーしに来たことがあります。こないだはアンディさん(Andy Irvine)が工房へ来てくれました。
ANDY IRVINE – NEVER TIRE OF THE ROAD (BalconyTV)
小川 アイリッシュには落ち着いた人気がありますから、ブズーキの反響は大きいですよ。いきなりブズーキから始める、という人もいます。弾いたこと無いけどブズーキの音が好きで、という30代の女性が買っていったこともあります。
長いことギターをやってきた人に、新しい物を提案しようという考えでもあります。ウクレレ、バンジョー、もうひとつみたいな。インスピレーションが沸くとアーティストにも好評です。
VD-9 MARINA custom:メイプル合板サイド&バック
──「MARINA custom」はVINCENT初のアーティストモデルとなりました。記念すべき第一号が若い女性アーティストだったというところに、VINCENTらしさを感じます。ガシャガシャ弾いても荒っぽくならず、柔らかく広がる女性的な鳴り方がしますね。
小川 山根さんはデビュー当時からヤイリを使ってくれていまして、VINCENTで作るなら、ということでこのモデルを企画しました。限定受注生産を受け付けていました山根万理奈モデル「VD-9 MARINA custom(受付終了)」は、今回発表した「VJ-5」とかなり近い仕様のギターです。木材は共通、ボディサイズはほぼ同じ、しかし弦長は645mmです。この二本を比べると、すごく面白いんですよ。「VJ-5」のワイルドさに比べ、「MARINA custom」では繊細さと柔らかさが目立ちます。スクェアショルダーとラウンドショルダーの違いこそあれ、ここまでキャラクターに違いが出る秘密は弦長だけではありません。
材からサイズから全て山根さんのチョイスで、
・ナチュラルを基調としながらサイド&バックは飴色
・ピックガードはVINCENTの標準から「赤べっ甲」に変更
・艶消し塗装を採用
というルックスは女性的な雰囲気を帯びていますね。
このうち「艶消し塗装」が、このモデル特有の「柔らかく広がる鳴り方」に一役買っているんです。いっぽう「VJ-5」には「艶あり塗装」が採用されています。艶ありは押しの強いギラっとした鳴り方になり、また音が引き締まります。
山根万理奈/ええ顔えがお(Music Video)
山根万理奈さんがVINCENTを演奏する公式の動画としては、初めてのものです。今後はこのギターが山根さんの歌を支えます。
「MARINA custom」には指板に「yamanemarina」のインレイが入り、ご本人直筆のサインが入ったオーナーカードが付属しました。このモデルは受付が終了しましたが、インレイのない同じ仕様でのオーダーは可能です。
VINCENT全モデル共通仕様として、ヘッド部の重量が調整されており、絶妙な重量バランスとなっています。
オーダーメイドでは「アーティストモデルそのまんま」や各種の仕様変更など、いろいろなことができます。ヤイリはどんな色も塗れますから、カラーリングも心配ありません。いろいろなものが選べるけれど、ペグのボタン(つまみ)は、ちょっとしたポイントです。VINCENTではプラスチック製に統一していますが、ヘッド重量がちょっと減って、重量のバランスが良くなるんです。ここに金属製も選べますが、ヘッドが重くなって重量バランスに影響が出ます。
以上、VINCENTの全ラインナップを小川氏に紹介して頂きました。
VINCENTは日本各地のカフェをめぐり、展示会を開催しています。展示会ではライブや体験イベントなど、いろいろな企画も予定されています。近くで開催されるときには、ぜひ行ってみてください。また、「美濃加茂市のブランド」として認められ、製品が美濃加茂市の「ふるさと納税」の返礼品に加わりました。「GUITAR & OTHERS(ギターとか、いろいろ)」のキャッチコピーどおり、地元の材料を使ったオリジナルグッズのプロデュースも始まります。いまとても勢いのあるブランド「VINCENT」は、いろいろと要チェックです!
小川氏へのインタビューの模様はこちらから。
【カフェとギター】VINCENT訪問インタビュー
nihon-meisho.com
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