「アイバニーズ」といえば、スティーヴ・ヴァイ氏、ポール・ギルバート氏、ジョー・サトリアーニ氏、ジョージ・ベンソン氏、パット・メセニー氏など名だたる凄腕ギタリストが愛用するエレキギター・ブランドとして有名ですが、そもそものブランド名「Ibanez」は、戦前より取り扱っていたスペインのギターブランド「イバニエズ・サルバドール」を由来としており、もともとアコギのブランドでした。
Ibanez Acoustic / Electric Demo by Remy Hansen
輸出ブランドとして国内に先立ち海外で成功したアイバニーズは、1971年には既に海外向けにアコースティックギターのラインナップを揃えていました。マーチンやギブソン、時にフェンダーのコピーモデルが主体でしたが、1990年代あたりから独自路線のエレアコを発表し始めます。
アイバニーズのエレアコは、
といったところが特徴で、エレキギターをメインで演奏するギタリストがステージで持ち替えても、ネックのグリップやボディの厚みがちょうどよくしっくりと収まり、たいへん弾きやすいのが持ち味です。
日本国内での取扱が始まったのは1994年になってからのようですから、アイバニーズのアコギは日本では比較的歴史の浅いものだと思われがちです。しかし実際には歴史が大変長く、製品はシンプルかつスタイリッシュであり、かつ機能的でありながら高価すぎない、というアイバニーズらしい特徴を持ったアコギになっています。
アイバニーズのエレキギター – エレキギター博士
2017サウンドメッセ:Ibanezブース
アイバニーズのアコギには、楽器としての機能性をしっかり確保しながらもわざわざ王道を外した設計のギターが目立ち、作り手は遊んでいるのか真面目なのか、判断がつかない面白さがあります。
アイバニーズは歴史あるブランドですが、スタンダードなタイプや機能性を重視したタイプばかりでなく、歴史の中に埋もれつつある古いスタイルのもの(Artwood Vintage シリーズ)、また伝統的なスタイルにこだわらない斬新なもの(AFL シリーズ)までリリースしています。
材料となる木材についてはスプルースやマホガニーなどの定番だけでなく、木目に面白みがあったりトーンに個性があったりという、キャラクターの立った木材を採用するモデルをいくつも揃えています。ユニークな木材を使用することをコンセプトにした個性派シリーズ「AEW」では、2種類の木材を複雑にからめた「マルチウッド」を採用したモデル(AEW16LD1)まであります。
アイバニーズのアコギは、弦長こそ普通ですが、ボディ厚やネックの太さといった寸法を気持ち抑えた、若干コンパクトな作りになっています。エレキギターからの持ち替えを想定しているサイズ感ではありますが、ギターをはじめたばかりの初心者や小柄なプレイヤーにもフィットする大きさです。
ちなみにネックやボディの寸法ですが、アイバニーズでは
という分け方をしています。日本のブランドなのでミリサイズで設計するのは当然なのですが、アコギのボディサイズについてはインチ表記の方がイメージしやすいためだと考えられます。
エレアコの電気部分は、
という構成になっています。プリアンプは高/低音域を調整する2バンドイコライザーとクロマチックチューナーをそなえた、シンプルながら必要充分なスペックです。じっくりセッティングを煮詰める訳にもいかないような忙しい現場では、このようなシンプルなプリアンプの方が頼りになります。
また上位機種には「コンボジャック」といって、
のふたつが付けられます。キャノンはノイズに強く、録音などで便利です。
「ライフハック(仕事術)」とは、まさにこのことというべきブリッジピンが装備されます。ブリッジピンの先端を斜めにカットしておくことで、弦交換の際にボールエンド部分をわざわざ曲げておかなくても、スムーズに弦が固定されるシステムです。これによって、弦を交換する時間を若干短縮させることができます。また必要以上にピンが深く刺さらないようにできているため、弦を張った状態でピンの頭が見栄えよく整然と並ぶようになっています。
アイバニーズのエレアコはハウリング対策のために厚みを抑えたボディ構造とシンプルな電気系、エレキギターに近いネックグリップを特徴としており、ロックバンドがステージで使用することを強く意識した設計になっています。収まりのいい弾き心地は、アコギとしての弾きやすさに留まらず、「エレキギターからの持ち替えがいかにスムーズにできるか」まで深く考え抜かれています。
左から:AEG10II、AEG24II、AEG18IIOV、AEG26II
ステージでの取り回しの良さを目指したエレアコで、弦長634mm、ボディ幅15インチというサイズはドレッドノートなどと比べると若干小振りな印象があります。しかしこれはマーチンでいうところの「000(トリプルオー)」と弦長、ボディ幅がほぼ同じで、ボディ厚は抑えられていますが極端に小ささを感じることはない、ちょうどいいサイズ感になります。
指板R400mmという設定はかなり平たい印象ですが、これはアイバニーズのエレキギターと同じ仕様になっており、同社のエレキギターからの持ち替えに違和感を感じにくくなっています。
基本モデルのスプルーストップ(AEG10II)と、高級感のあるフレイムメイプルトップ(AEG24II)をメインとしていますが、いずれも求めやすい価格帯に収まっているため、初めてギターを買うという初心者の方にもお勧めのエレアコです。
AEGシリーズを…
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左から:AEW16LTD1、AEW120BG、AEW22CD、AEW2212CD、AEW23ZW
「アコギ(=Acoustic)にエキゾチックな木材(=Exotic Wood)を使ってみた」というシリーズ名のラインナップです。ボディのサイド&バック材にブビンガやウォルナットなどを使用していくことで、独特な外観と個性的なトーンを持たせています。ロゼッタ(サウンドホール周りの装飾)も異なる木材の組み合わせで作られ、このシリーズ独特の個性を演出しています。複雑な接合面で二つの異なる木材を合わせた「マルチウッド」を大胆に使った斬新なモデル(AEW16LTD1など)もあり、アイバニーズが今後力を入れていくことが期待されるシリーズです。
Ibanez AEW51NT
16インチ幅のボディは存在感がありますが、くびれがしっかりつくってあるので抱えやすくなっています。いっぽうハウリング対策のために厚さは最大で4インチで、アコギとしては控えめな設定です。また弦長648mm、指板R250mmというネックは平らな指板が好まれるという昨今の傾向に逆らっているようにも見えますが、コードの押さえに有利であるばかりでなく、フェンダーのエレキギターに近いグリップになっています。このようなグリップに設定することで、こうしたエレキギターからの持ち替えがスムーズにできることを狙っています。
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16インチ幅で5インチ厚を基本とするゆとりのある大きさのボディを利用した、個性的なエレアコのシリーズです。他のブランドではなかなか見られないか、あったとしても高額に設定されている珍しい仕様のモデルですが、生産力のある大企業だからこそできる低価格でリリースされています。これらのモデルの音を普通のアコギで出すのは非常に難しいことですから、AELシリーズはこれまでにない新しい音楽を生み出す可能性を秘めた野心的なシリーズだと言えます。
AELシリーズを…
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Justin Bieber – Love Yourself – acoustic performance
AEシリーズは、ここまで紹介してきたアイバニーズのアコギと一線を画す設計と価格帯の、最新鋭/最高級のシリーズです。
といった特徴を持っており全てのスペックが特別で、エレアコに対するアイバニーズの本気度を察することができます。サイド&バックをインドローズで作っている「AE900」、同じくマホガニーで作っている「AE800」がリリースされています。
アイバニーズのアコギに用いられるブランドロゴは旧式のスタイルを踏襲していますが、フォントの都合でアタマの「Ib」が「H」に、末尾の「z」が「y」に見えることがあり、「Honey」という誤読を誘いやすくなっています。そのため「アイバニーズのアコギは”Honey”というブランド名でモデル展開している」と思い込んでいるユーザーが、今なおかなりの数います。
その状況を察してか、AEシリーズからブランドロゴに若干の変更が施され、「Z」を誤読しにくくなりました。このブランドロゴ修正からも、AEシリーズがこれからのアイバニーズのアコギをリードしていくモデルになることを予感させます。
独自路線を走るエレアコに対し、生ギターのラインナップは伝統的なスタイルに従っています。新品であっても古くて渋い印象を感じさせる仕様であったり、現代ではなかなか使われない前時代の仕様のものであったりして、それぞれに匂いを感じさせます。生ギターはボディの鳴りが生命線なので、カッタウェイを施すことはほぼありません。
Ibanez/Artwood vintage AVN6DTS
「アートウッド・ヴィンテージ」シリーズは、今あるギターの先祖とも言うべき古典的な仕様のギターに注目し、現代に甦らせたシリーズです。ギターとしてそのまま弾ける、もしくはギターが弾ける人なら弾きこなすことができる楽器は、弾き手に新たなイメージを沸き立たせるきっかけになるかもしれません。
Ibanez Artwood Vintage – AVT1 Tenor
テナーギターはギターから派生した楽器ですが、5度チューニングで弦を張る、マンドリンやバンジョーに近い楽器です。
パーラーギターは客間(=パーラールーム)で楽しむために作られた小型のギターですが、弦長は普通サイズです。ボディの小ささから、弾きやすいだけでなく持ち運びに有利です。
ドレッドノートにおける12フレット接続は、1930年代以前の設計です。14フレット接続が当たり前になっている現代の感覚で言うと、音域と引き換えに、ネック本体が短くなるので剛性が上がり、ブリッジはボディ中央に移動するので音響性能が上がるというメリットがあります。
Artwood Vintageシリーズを…
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左から:AW3400、AW54MINIGB、AC3440JP、AC3400jp、AC240
アートウッドシリーズは、マーチン的なスタイルを摂ったアコギのラインナップです。シンプルなドレッドノート「AW3400」とそのミニギター「AW54MINIGB」、「000(トリプルオー)」をイメージした「AC3440JP」、「AC3400jp」、さらに昔の000を模し、指板Rを若干キツくしつつネックの厚みもそこそこある昔スタイルの「AC240」が作られています。
Artwoodシリーズを…
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