Taylor(テイラー)ギターの構造的特徴[記事公開日]2015年9月15日
[最終更新日]2022年03月31日

Taylor(テイラー)のアコースティックギター

ギターメーカーの売り文句に「熟練した職人による手作業」というものがありますが、テイラーの売りはその逆、「コンピュータ制御による高い加工精度」にあり、この点で高く評価されています。もちろん製造には人の手が多く介在しますが、高い精度が求められる加工は最先端のマシンで自動化しています。テイラーが製造にマシンを利用するのは生産性を高めるためではなく精度を上げるためで、中には人間の手では実現が不可能だと思われる加工まであります。ここではそんな高精度の作業で作られるテイラーギターの特徴をチェックしていきましょう。


Jason Mraz – “Love Someone” (Live @ Mraz Organics’ Avocado Ranch)

Taylorギターのネック構造

「弾きにくいギターは弾けないから音も良くならない。
演奏しやすいネックがなければ、望ましい音にはできない。」
マスタービルダーのアンディ・パワーズ氏はこう語ります。弾きやすいネック、弾きやすい調整にどう持っていくのか、テイラーのネックには多くの工夫が施されています。

NT Neck(ニューテクノロジー・ネック)

NT Neck ネックポケットを加工しているところ。二つの丸い穴があけられていますが、ココをネジが通ってネックを固定するわけです。

テイラー社は全モデルに対し「NTネック・ジョイント」を採用しています。これは新品の段階からボディとネックの間に木製(サペリ製)のスペーサーを挟み、ボディ内部からネジで固定するジョイント法です。ギター製作ではあまり良く思われていませんが、工業生産の世界ではスペーサーはポジティブなイメージで積極的に使われます。スペーサーを正確に使うことで、微妙な調整を更に追い込んでいくことが可能になるからです。このスペーサーを精密に加工する事で、プレイスタイルやプレイアビリティに応じてネックの仕込み角度を僅かずつ調整することができるのがNTネックの最大の特徴です。

ギターの構造上非常に高い精度が求められる箇所であり、また形状が複雑になりますので、ジョイント部とスペーサーはCNCルータによって正確に削り出されます。

ネック本体

Taylor Guitar NT Neck2

一般的なギターのネック本体は14フレットまでの長さですが、テイラーは指板の先までネック本体が伸びています。サウンドホールからネックの根元を覗き込むと、NTネックのジョイント部分に加えて指板の端までネックが伸びていることが確認できますから、テイラーの構造が如何に独特かが理解できます。

一般のギターの場合は、ネック材の端である14フレットあたりからネックが起き上がってくることが珍しくありません。テイラーのネックはこの部分をネックの延長で補強しているので、状態が安定しやすく安心ができます。またネック本体が指板と一体化しているため、低く均一な弦高にする精密なセッティングがしやすくなっています。

ネックグリップも、コンピューター制御で成形されます。木材は刃物との摩擦で熱を帯びて変形するので、いかに正確に加工できるマシンでも急いで削ると木材の発熱で精度を損なってしまいます。発熱を抑えるため、木材の加工はのんびりとしたペースで行ないます。この作業は全ラインナップ共通で、どのギターも精度を上げるためにゆっくり削られます。

ヘッドの接合

314ce:スカーフジョイント 314ceのスカーフジョイント。接着面が平面ではない、緩やかな曲面を描いているのが分かりますか?接着面を広く確保して見た目の美しさも獲得した、テイラーだけのジョイント法です。(撮影協力:松栄堂楽器県庁前店

フィンガージョイントギザギザ同士を咬み合わせる「フィンガージョイント」。現在のスカーフジョイント採用以前は、このような斬新なジョイント法でした。接着面を広く確保できるのが最大のメリットです。

「スカーフジョイント」は他のメーカーでも採用されているヘッドのジョイント法で、一般的にはネック先端を斜めにカットした部分でヘッドを接合します。テイラーのスカーフジョイントは接合部分をスカーフが風でたなびくかのような立体的な曲面にしていますが、曲面同士が隙間無く接合できるという人間離れした加工精度は、やはりコンピュータ制御のマシンがあったればこそです。

サウンドを考慮したシンプルなトラスロッド

メンテナンス性を重視しているテイラーらしくないように思えますが、テイラーのギターに仕込まれるトラスロッドは伝統的なスタイルのもので、機能は起き上がってきたネックを真っすぐに直す「順ぞり矯正」のみです。テイラーではしっかりとシーズニングさせた動きの少ない木材が使われているので、弦の引っぱりに逆らってまで逆ぞりするようなことはほぼありません。両効きのトラスロッドはロッド本体の体積と重量が増し、サウンドに影響があるためテイラーでは採用されていません。

機械打ちのフレット

テイラーではフレット打ちもマシンの仕事で、一定の圧力をかけて押し込まれます。ハンマーで打ち込むと、その衝撃でネックの状態が変化してしまう懸念があるという考えからです。マシンがフレットを押し込む圧力に負けないために、非常に硬いことで知られるエボニーが指板にセレクトされます。

ボディの構造

テイラーのネック材や指板材はほぼ固定ですが、ボディに使われる木材のバリエーションは大変に豊かです。シリーズごとに異なる木材構成が設定されていて、ここを掘り下げていくと際限がなくなってしまうほどです。ここでは構造的な特徴として、ブレーシングとアームレストに注目してみましょう。

特徴的なブレーシング

アンディ・パワーズ氏が考案した新しいブレーシング「V-Class」。

現代のギターは、スチール弦ならXブレーシング、ナイロン弦ならファンブレーシングが常識的に採用されます。テイラーでもこの二つは大いに活用されていますが、このほか際立った個性を持つブレーシングもあります。

Xブレーシングを逸脱する音量とサスティン「V-Class」

V-Classブレーシング

Xブレーシングは強度を確保しながらトップの鳴りも損なわない、天才的な発明でした。それゆえ1850年にマーチンが初めて採用して以来170年以上、アコギのブレーシングとして常識的な設計と目されています。しかし頑丈に組むと音は伸びるけど音量が落ち、柔らかめに組むと音量は上がっても音の伸びを損なってしまう、という悩みどころを内包していました。この課題に対してテイラーの出した答えが「V-Class」ブレーシングです。
V-Classは、トップ材が自然にたわむように仕向けることで音量を増大させつつ、弦の方向に剛性を維持することでサスティーンの向上も達成しました。またトップ材からのレスポンスが従来より整然とすることから、安定した調和のとれた音が得られます。
V-Class搭載機には「Builder’s Edition 614ce V-Class」のようにモデル名にその旨の記載が添えられるほか、グラフテック社製の黒いナットが付けられます。

小型ギターの常識を覆す低音「C-Class」

C-Classブレーシング

「GT」シリーズのために開発された「C-Class」ブレーシングは、V-Classのコンセプトを継承し、小型ギターの音量とサスティーンを向上させます。縦方向のブレーシングを低音側にのみ貼り付ける非対称の配置が特徴で、小さなボディから驚くほどパワフルな低域を生み出します。


“SOUND CHECK” Aoi Yamazaki Plays Taylor GTe Urban Ash
小さめギターのかわいらしさがありながら、しっかりと迫力のあるサウンドが得られます。標準サイズのギターより小さめではありますが、ミニギターほどではありません。

斜めに配置されたバックのブレーシング

Taylor 512ce

12フレット仕様の512ce。サウンドホールからうかがえるバックのブレーシングが、ナナメになっているのが確認できます。
バック材のブレーシングも特徴的で、一般的なギターでは弦に対して直角に並べるところをテイラーでは角度をつけて斜めに並べています。これもマスタービルダーのアンディ・パワーズ氏の発案だったようで、やってみたら非常に良かったので採用された、ということのようです。

こちらは600シリーズのバック。一定の角度で傾きながらも4本のブレーシングは平行。

右腕がラクチンになるアームレスト

Academy12eのアームレスト。

「アームレスト」は、ボディを斜めにカットして右腕への圧迫を軽減させる設計です。大胆なストロークが容易になるほか長時間の演奏や練習にも披露しにくいメリットがあります。ただし、いったん完成させたボディに更なる加工を施す手間がかかることから、800シリーズや900シリーズ、またビルダーズエディションなど特別な高級機に採用されます。
高級機にしか採用できないと思われていたアームレストですが、エントリークラス「Academy」シリーズで標準採用されたというニュースはそれを覆しました。10万円近辺の価格帯に正式採用させたのは、世界でもこのAcademyシリーズが初めてです。

Builder’s Edition 652ce V-Classの、ベベルドカッタウェイ。

特別な高級機には、カッタウェイを斜めにカットする「ベベルドカッタウェイ」が採用されることがあります。これにより、ハイポジションの演奏性が飛躍的に向上します。

Taylorギターの塗装

UV フィニッシュ

UVフィニッシュは、紫外線により塗料をすみやかに硬化させる技術です。これにより塗膜をできるだけ薄くすることができ、楽器のトーンを邪魔しにくくなるほか、作業時間や仕上がりまでの時間を短縮することができ、生産性を上げる事ができるようになります。塗膜の厚さは6ミル(=0.006インチ=0.1524mm)が基本で、高級グレードでは800シリーズで4.5ミル(0.1143ミリ)、900シリーズで3.5ミル(0.0889ミリ)と、かなり薄い仕上がりになっています。

また安定性が高く、変色してしまったり溶けてしまったりという変化が起きにくいようになっています。経年変化で色合いが移りゆくのも楽器の楽しみという考えのユーザーは多いのですが、「数年や数十年で退色してしまうような塗装では恥ずかしい」というのが多くのメーカーの考えです。

エクスプレッションシステム・ピックアップ

Taylorエクスプレッションシステム・ピックアップ

「NTネック」が可能にしたもうひとつの特徴的な構造に、テイラー独自の「エクスプレッションシステム(ES)」があります。ESではブリッジ側で弦の振動を直接拾うピエゾピックアップ(テイラーでは「センサー」と言います)に加え、ボディ/ネックのジョイント部分にネックの鳴りを狙うピエゾピックアップが仕込まれます。ジョイント内部にピエゾを仕込むのは一般的なセットネックのギターではほぼ不可能で、ボルトオンジョイントのNYネックだからこそできた事です。弦の鳴りとネックの鳴りをミックスすることで、ライン録りでもエレアコ臭くない、自然でバランスのとれたアコースティックトーンを得ることができます。


Ben Lapps – Phunkdified
イベントの合間の演奏ですが、15歳だという彼のサウンドは会場を魅了しました。

さらに進化した「エクスプレッションシステム2」

Taylor ES2

ブリッジ側のピエゾを改良した「エクスプレッションシステム2(ES2)」のサウンドに対し、テイラー社は「ピエゾ・ピックアップがどのような音だったのか忘れてほしい」とまで言い切りました。ES2ではダイナミックレンジ(強弱の幅)がこれまで以上に広がり、奥行きのあるトーンが得られるようになります。

弦を受け止めるサドルは縦に振動するものと考えられており、一般的にピエゾピックアップはサドルの真下に設置されます。テイラー社は研究により、サドルはむしろ前後に振動しているということを突き止め、サドルに横から接するピエゾピックアップを開発しました。ES2ではブリッジに3つのピエゾが埋め込まれ、サドルの前後の振動をピックアップします。またそれぞれの感度をネジで調節することが出来ます。


以上、革新的な製品開発を続けているテイラーのギターの構造をチェックしていきました。加工技術や塗料の品質などは、時代と共に向上していくものです。そこに加えてテイラーの場合は、柔らかい脳みそでないと決して誕生させられなかったであろう、驚くべき斬新なアイディアがいくつも採用されています。音楽を演奏するための道具としての性能も抜群であり、現代のトップブランドとして君臨するのもじゅうぶん納得できます。ショップで見かけたら、ぜひ手にとってみてください。