Maton Guitars オーストラリアを代表するアコギブランド[記事公開日]2021年8月16日
[最終更新日]2026年10月2日

「Maton(メイトン)」は、戦後まもなくオーストラリアで設立されたギターメーカーです。
現在の拠点となっているメルボルンは同国第二の都市で、世界で最も住みやすい都市として知られており、オリンピックが開催されたこともあります(1956年)。
メイトンのギターは弾きやすく音が良く、エレアコとしても優秀で、特にフィンガーピッカーからの厚い支持を受けています。
今回は、このメイトンに注目していきましょう。

Classical Gas [Mason Williams] | Tommy Emmanuel
これは、決して早回しではありません。トミー・エマニュエル氏は、現代の「ギターの神」と呼ばれる達人プレイヤーです。かのチェット・アトキンス氏からは、「間違いなく、この地球上で最高のギタリストの1人」と評されたことがあります。こんなヒトがメインで起用しているギターだ、というだけでこの記事は終わりにしても良いくらいです。

メイトンの歩み

ブランド名「Maton」は、創立者ビル・メイ(Bill May)氏の名と「音(Tone)」を合わせた造語です。
メイ氏はメルボルン出身、ジャズのベーシストであり、木工学校の教員であり、楽器職人でした。
オーストラリア初のギターメーカーとして成功した業績から、同国では「ギター業界創設の父」と呼ばれています。

メーカー不在の国内情勢を打開

1930年代のオーストラリアにギターメーカーは無く、「品質の高いギター」と言えばアメリカからの輸入品でした。
この状況を憂いたメイ氏は、自国で良質なギターを作ることを決意します。
1946年、兄のレグ・メイ氏と共にメルボルン北部のソーンベリーでメイトンを創業し、メーカーとして本格的に起動します。

国内の支持を集め、世界市場へ

1952年、手狭になったソーンベリーのガレージ工房から、メルボルンのカンタベリーへ拠点を移します。
国内産の木材を使用し、かつコストパフォーマンスが良好という点が評価され、1950年代後半には国内のロックシーンで支持を伸ばしていきます。
海外では知る人ぞ知るメーカーだったらしく、1963年にはかのジョージ・ハリスン氏がリヴァプールでメイトンのエレキギター「MS500」を手にした姿が撮影されています。

1990年、もっと大きな工場を求めてメルボルン東郊のベイズウォーターへ引っ越します。
さらに高まっていく国内需要に応えるため、また海外市場の開拓のため、2003年にはメルボルンのボックスヒルにある、もっともっと大きな工場に引っ越しました。

Maton Factory Tour
大きな工場には、70人以上のスタッフが稼働しています。現在の公式ラインナップは、アコースティックギターに絞られています。手作業の多い、昔ながらの作り方を守っているのが分かりますね。メイトンのギター製法は、ボディを作ってからネックを仕込む「ドイツ式」です。同社で10年間CEOを務めたブラッドレー・クラーク氏の「Cole Clark」がスペイン式を採用している元ネタがココではなかった、というのは面白いポイントです。

メイトン・ギターの特徴

では、メイトンのギターの特徴を見ていきましょう。
独特なヘッド形状、外に跳ねる感じのピックガード形状、曲線的に仕上げられた指板エンドなどがルックス的な特徴です。
また、普通のアコギならフレット数が「20」となるところ、メイトンではミニギター以外の全モデルが21フレット仕様となっています(ミニギターは19フレット)。
ほかには、どのような特徴があるのでしょうか。

弦が柔らかく感じる、高い演奏性

メイトン標準のナット幅「44.1ミリ」はアコギとしてはやや幅広で、複雑なコードボイシングやソロギターの演奏に有利です。
弦高を低くセッティングするため、軽いタッチで演奏できます。
加えて、設計の段階で弦張力を抑えており、弦が柔らかく感じられる演奏性を実現しています。

メイトンのギターは1)ヘッド角を抑えることで、ナットからペグへの弦角度を抑え、また2)ネックの仕込み角を抑えることで、サドルからブリッジピンまでの弦角度を抑えています。
これに加え、3)ヘッドは伝統的なアコギのものより横幅を狭めており、ナットからペグに向けて横に広がる弦角度も抑えています。
こうした設計が、弦張力を抑えるわけです。

弦張力が抑えられると、サスティンも控え目になります。
しかしこれについては、「音の分離が良い」「ちょうど良い減衰感」「響きがもっさりしない」など、好意的にとらえられています。

しかし弦長は、しっかり確保

メイトンのギターはミニギター以外、弦長25.5インチ、いわゆる「フェンダーサイズ」に統一されています。これはギブソン「J-45(24.75″)」、マーチン「D-28(25.4″)」より長く、ギブソン「SJ-200(25.5”)」と同じです。弦長が長いと、弦の張りが強くなり、響きはブライトになります。メイトンのギターは、弦長と弦角度の組み合わせによって、目指す演奏性とサウンドを作っているわけです。

分離が良く、フィンガーピッキングに良好な音

サウンドについては、メロディの聴き取りやすい、現代の音楽シーンにフィットする「高音に張りのある、分離の良い明瞭な音」「輝きのある、爽やかな音」と評されます。
低音は適度に引き締まっており、エレアコとしての使用を想定していると言われます。
ローポジションからハイポジションまでムラなくしっかり発音するので、ソロギターの弾き甲斐があります。

ボディ・ヒットにも良好なピックアップシステム

メイトン社オリジナルのピックアップシステム「AP5-Pro」は、サドル下のピエゾピックアップと、ボディ内のコンデンサマイク、双方を操作するプリアンプで構成されています。
2011年に発表されたシステムで、トミー・エマニュエル氏と共同で開発されました。
ピエゾとコンデンサマイクそれぞれの音量を独立して操作でき、3バンドEQで補正します。
中域は周波数帯(600Hz〜2.4kHz)を操作できるので、積極的なサウンドメイキングも可能です。

ピエゾピックアップは硬質かつ明瞭なトーンが持ち味で、音には前に飛んでいく突破力があります。
サドルが受けた振動をキャッチする仕組みなので、ボディを叩く音は拾いこそすれ、得意分野ではありません。
なお、サドル両端に配置されたネジは、ボディ内側からピエゾピックアップを固定するためのものです。
弦高の調整には使えず、締めすぎると破損の恐れもありますから、いじらないようにしましょう。

いっぽうコンデンサマイクは、ボディ内に響く音をそのままキャッチします。
音に生々しい柔らかさや繊細さがあり、ボディを叩く音をしっかりキャッチできるのが強みです。
アーム式になっているので、好きな位置にセッティングできます。
ふつうコンデンサマイクはハウリングを起こしやすいと考えられていますが、こちらは独自設計で抗ハウリング性能を確保しています。

オーストラリア産の木材を積極的に使用

Maton Guitars

メイトンは立ち上げ当初から、オーストラリア産の木材でギターを作る実験を重ねていました。
現在のラインナップでは、タスマニアン・ブラックウッドやクイーンズランド・メイプルなどがギターに適した木材だと認められており、積極的に投入されています。
なお、クイーンズランド・メイプルはその名前とは裏腹に、マホガニーに近い性質を持っています。
1998年には、オーストラリア原産の針葉樹「ブンヤ」をトップ材として先駆的に採用しました。

オーストラリア産の木材については、「Cole Clark(コール・クラーク)」の記事で詳細に紹介しています。
コール・クラーク創設者ブラッドレー・クラーク氏は、メイトンで最高経営責任者(CEO)を10年務めていました。

ただしメイトンは、オーストラリア産の木材しか使わない、というわけではありません。
シトカスプルース(北アメリカ)、ホンジュラスマホガニー(南アメリカ)、インディアン・ローズウッド(インド)、ウェンジ(アフリカ)など、木材のセレクトには柔軟性があります。

Layla (Unplugged) • Joe Robinson • Eric Clapton Cover
メイトンの愛用者として知られるジョー・ロビンソン氏。動画の投稿にも積極的で、いつも視聴者を驚かせてくれます。

「Maton Guitars」のラインナップ

では、メイトンのラインナップを見ていきましょう。
同社のラインナップは10種以上にシリーズ分けされる膨大なものですが、ボディシェイプは「808」・ドレッドノート・ジャンボ・トラディショナル・ミニの5種(ほかに薄胴のパフォーマー)で、ピックアップシステムはほとんどのモデルが「AP5-Pro」です。
ボディシェイプ、木材構成、そしてお値段から、比較的ラクに欲しいモデルを絞り込める感じです。

画像 モデル ボディシェイプ トップ材 サイド&バック材
Maton EBG808 Nashville EBG808 Nashville 808 AAスプルース単板 ブラックウッド単板
Maton The Performer The Performer パフォーマー(薄胴・カッタウェイ) ブンヤ単板 クイーンズランド・メイプル単板
Maton The T.E. Personal The T.E. Personal(Master Built) 808 AAAスプルース フィギュアド・クイーンズランド・メイプル
Maton EBG808TE EBG808TE(Signature) 808 AAAスプルース クイーンズランド・メイプル
Maton EM100-808 EM100-808(Messiah) 808 AAAスプルース インディアン・ローズウッド
Maton EA808 EA808(Australian) 808 ブンヤ AAブラックウッド
Maton ER90 Traditional ER90 Traditional トラディショナル AAスプルース インディアン・ローズウッド
Maton EBG808 Artist EBG808 Artist 808 AAAスプルース AAブラックウッド
Maton Troubadour Dreadnought Troubadour Dreadnought ドレッドノート Aスプルース クイーンズランド・メイプル単板
Maton EBW808 EBW808(Blackwood) 808 ブラックウッド Aブラックウッド
Maton SRS808 SRS808(Solid Road) 808 Aスプルース ブラックウッド
Maton EMD6 EMD6(Mini Maton) ミニ AAスプルース AAブラックウッド

定番機種は小さめ「808」

メイトンの定番は「808」と名付けられた、やや小さめボディのモデルです。
マーチンで言うところの「00(ダブルオー)」と「000(トリプルオー)」の中間くらいのボディ幅で、胴厚はやや深めです。
職人クリス・フィンチ氏がマーチン「00-18」の寸法を参考に設計し、1978年に発表されたモデルで、今やメイトンの代名詞とも呼ばれています。
「808」だけでもラインナップはかなりの数で、「808」のみで構成されるシリーズ(Nashville Series、Artist Series、Signature Series)があるほどです。
ここではその「808」を、2機種ピックアップしてみましょう。

5つのボディシェイプを、さまざまなシリーズで展開

メイトンのラインナップは、ちょっと小さめの定番「808」に、ドレッドノート、ジャンボ、トラディショナル、そしてミニギターの5タイプで構成されています。
これら5タイプがさまざまなシリーズのコンセプトに従い、いろいろなモデルとなってリリースされています。
メイトンの各シリーズについて、その特徴を見ていきましょう。

以上、オーストラリアのギターメーカー代表、メイトンについて注目していきました。
オーストラリア発のいろいろなメーカーが、このごろ来日を果たしています。
そのどれもが、ギターの伝統を受け継ぎながら、それでいて伝統にこだわりすぎない自由さを感じさせます。
ショップで見かけたら、ぜひ手にとってみてください。