オーストラリア代表ブランド「Maton Guitars」のアコギ[記事公開日]2021年8月16日
[最終更新日]2021年08月16日

「Maton(メイトン)」は、戦後まもなくオーストラリアで設立されたギターメーカーです。現在の拠点となっているメルボルンは同国第二の都市で、世界で最も住みやすい都市として知られており、オリンピックが開催されたこともあります(1956年)。メイトンのギターは弾きやすく音が良く、エレアコとしても優秀で、特にフィンガーピッカーからの厚い支持を受けています。今回は、このメイトンに注目していきましょう。


Classical Gas [Mason Williams] | Tommy Emmanuel
これは、決して早回しではありません。トニー・エマニュエル氏は、現代の「ギターの神」と呼ばれる達人プレイヤーです。かのチェット・アトキンス氏からは、「間違いなく、この地球上で最高のギタリストの1人」と評されたことがあります。こんなヒトがメインで起用しているギターだ、というだけでこの記事は終わりにしても良いくらいです。

メイトンの歩み

ブランド名「Maton」は、創立者ビル・メイ(Bill May)氏の名と「音(Tone)」を合わせた造語です。メイ氏はメルボルン出身、ジャズのベーシストであり、木工学校の教員であり、楽器職人でした。オーストラリア初のギターメーカーとして成功した業績から、同国では「ギター業界創設の父」と呼ばれています。

メーカー不在の国内情勢を打開

1930年代のオーストラリアにギターメーカーは無く、「品質の高いギター」と言えばアメリカからの輸入品でした。この状況を憂いたメイ氏は、自国で良質なギターを作ることを決意します。1940年代には兄のレグ・メイ氏と共にショップを開店、1946年に現在の「Maton Musical Instruments Company」へと社名を変更し、メーカーとして本格的に起動します。

国内の支持を集め、世界市場へ

1949年、メルボルンのカンタベリーに大規模な工場を設立します。国内産の木材を使用し、かつコストパフォーマンスが良好という点が評価され、1950年代後半には国内のロックシーンで支持を伸ばしていきます。海外では知る人ぞ知るメーカーだったらしく、かのジョージ・ハリスン氏もメイトンのギターを1台持っていたと伝えられます。

40年後の1989年、もっと大きな工場をベイズウォーターに建立、約7,000キロ離れた大陸の反対側へ引っ越します。さらに高まっていく国内需要に応えるため、また海外市場の開拓のため、2003年にはメルボルンにある、もっともっと大きな工場に引っ越しました。


Maton Factory Tour
大きな工場には、70人ほどのスタッフが稼働しています。日本ではまだ見られませんが、ソリッドギターやセミアコ、ウクレレも生産しています。手作業の多い、昔ながらの作り方を守っているのが分かりますね。メイトンのギター製法は、ボディを作ってからネックを仕込む「ドイツ式」です。同社で10年間CEOを務めたブラッドレー・クラーク氏の「Cole Clark」がスペイン式を採用している元ネタがココではなかった、というのは面白いポイントです。

メイトン・ギターの特徴

では、メイトンのギターの特徴を見ていきましょう。独特なヘッド形状、外に跳ねる感じのピックガード形状、曲線的に仕上げられた指板エンドなどがルックス的な特徴です。また、普通のアコギならフレット数が「20」となるところ、メイトンではミニギターを含む全モデルが21フレット仕様となっています。ほかには、どのような特徴があるのでしょうか。

弦が柔らかく感じる、高い演奏性

メイトン標準のナット幅「44ミリ」はアコギとしてはやや幅広で、複雑なコードボイシングやソロギターの演奏に有利です。弦高を低くセッティングするため、軽いタッチで演奏できます。加えて、設計の段階で弦張力を抑えており、弦が柔らかく感じられる演奏性を実現しています。

メイトンのギターは1)ヘッド角を抑えることで、ナットからペグへの弦角度を抑え、また2)ネックの仕込み角を抑えることで、サドルからブリッジピンまでの弦角度を抑えています。これに加え、3)ヘッドは伝統的なアコギのものより横幅を狭めており、ナットからペグに向けて横に広がる弦角度も抑えています。こうした設計が、弦張力を抑えるわけです。

弦張力が抑えられると、サスティンも控え目になります。しかしこれについては、「音の分離が良い」「ちょうど良い減衰感」「響きがもっさりしない」など、好意的にとらえられています。

しかし弦長は、しっかり確保

メイトンのギターはミニギター以外、弦長25.5インチ、いわゆる「フェンダーサイズ」に統一されています。これはギブソン「J-45(24.75″)」、マーチン「D-28(25.4″)」より長く、ギブソン「SJ-200(25.5”)」と同じです。弦長が長いと、弦の張りが強くなり、響きはブライトになります。メイトンのギターは、弦長と弦角度の組み合わせによって、目指す演奏性とサウンドを作っているわけです。

分離が良く、フィンガーピッキングに良好な音

サウンドについては、メロディの聴き取りやすい、現代の音楽シーンにフィットする「高音に張りのある、分離の良い明瞭な音」「輝きのある、爽やかな音」と評されます。低音は適度に引き締まっており、エレアコとしての使用を想定していると言われます。ローポジションからハイポジションまでムラなくしっかり発音するので、ソロギターの弾き甲斐があります。

ボディ・ヒットにも良好なピックアップシステム

メイトン社オリジナルのピックアップシステム「AP5-Pro」は、サドル下のピエゾピックアップと、ボディ内のコンデンサマイク、双方を操作するプリアンプで構成されています。ピエゾとコンデンサマイクそれぞれの音量を独立して操作でき、3バンドEQで補正します。中域は周波数帯を操作できるので、積極的なサウンドメイキングも可能です。

ピエゾピックアップは硬質かつ明瞭なトーンが持ち味で、音には前に飛んでいく突破力があります。サドルが受けた振動をキャッチする仕組みなので、ボディを叩く音は拾いこそすれ、得意分野ではありません。なお、サドル両端に配置されたネジは、ピエゾの効き具合を操作するものです。ここを操作するのには専門的な知識が必要ですから、いじらないようにしましょう。

いっぽうコンデンサマイクは、ボディ内に響く音をそのままキャッチします。音に生々しい柔らかさや繊細さがあり、ボディを叩く音をしっかりキャッチできるのが強みです。アーム式になっているので、好きな位置にセッティングできます。ふつうコンデンサマイクはハウリングを起こしやすいと考えられていますが、こちらは独自設計で抗ハウリング性能を確保しています。

オーストラリア産の木材を積極的に使用

Maton Guitars

メイトンは立ち上げ当初から、オーストラリア産の木材でギターを作る実験を重ねていました。現在のラインナップでは、タスマニアン・ブラックウッドやクイーンズランド・メイプルなどがギターに適した木材だと認められており、積極的に投入されています。なお、クイーンズランド・メイプルはその名前とは裏腹に、マホガニーに近い性質を持っています。

オーストラリア産の木材については、「Cole Clark(コール・クラーク)」の記事で詳細に紹介しています。コール・クラーク創設者ブラッドレー・クラーク氏は、メイトンで最高経営責任者(CEO)を10年務めていました。

Cole Clark(コール・クラーク)のギターについて

ただしメイトンは、オーストラリア産の木材しか使わない、というわけではありません。シトカスプルース(北アメリカ)、ホンジュラスマホガニー(南アメリカ)、インディアン・ローズウッド(インド)、ウェンジ(アフリカ)など、木材のセレクトには柔軟性があります。


Layla (Unplugged) • Joe Robinson • Eric Clapton Cover
メイトンの愛用者として知られるジョー・ロビンソン氏。動画の投稿にも積極的で、いつも視聴者を驚かせてくれます。

「Maton Guitars」のラインナップ

では、メイトンのラインナップを見ていきましょう。同社のラインナップは10種ほどにシリーズ分けされる膨大なものですが、ボディシェイプは4種で、ピックアップシステムは「AP5-Pro」の1機種です。ボディシェイプ、木材構成、そしてお値段から、比較的ラクに欲しいモデルを絞り込める感じです。

定番機種は小さめ「808」

メイトンの定番は「808」と名付けられた、やや小さめボディのモデルです。マーチンで言うところの「00(ダブルオー)」と「000(トリプルオー)」の中間くらいのボディ幅で、胴厚はやや深めです。ブランド創設者ビル・メイ氏が70年代初頭に設計、1978年に発表されたと伝えられ、今やメイトンの代名詞とも呼ばれています。「808」だけでもラインナップはかなりの数で、「808」のみをリリースするシリーズ(EBG Series)があるほどです。ここではその「808」を、2機種ピックアップしてみましょう。

定番機種のベーシックモデル「EBG808」

Maton EBG808 EBG808 Nashville

「EBG808」は、ラインナップが「808」のみで構成される「EBGシリーズ」の基本モデルです。基本モデルとはいえクオリティは高く、ボディはAAグレード・シトカスプルース単板トップ、ブラックウッド単板サイド&バックという「総単板」です。ネックにはクイーンズランド・メイプルを使用、独特の意匠「キーホール」の刻まれたヘッドにはブラックウッドが貼られ、オーストラリア感じゅうぶんです。カッタウェイモデルもリリースされています(EBG808C)。

指板とブリッジに使用される「ストリーク・エボニー」は、真っ黒ではないエボニーのことです。「ストリーク」とは自然が作る木目や模様のことで、木材としては真っ黒なエボニーと同じ種類です。やはり模様が見えないくらいに真っ黒なエボニーは、上位グレードのギターに使用されます。

薄胴&カッタウェイ「The Maton PEROFROMER」

The Maton PEROFROMER

「パフォーマー(Performer)」は、「808」の胴厚を抑えて抱えやすくし、またカッタウェイを施したライブ向けモデルです。「808」の人気は深胴による迫力あるサウンドだったのですが、トップ材にブンヤを採用することで、薄くなった胴厚をカバーできるパンチ力を付加しています。

ボディはブンヤ単板トップにクイーンズランド・メイプル単板サイド&バック、ネックにクイーンズランド・メイプル、指板とブリッジにはオバンコールが使われます。

4つのボディシェイプを、さまざまなシリーズで展開

メイトンのラインナップは、ちょっと小さめの定番「808」に、ドレッドノートとジャンボ、そしてミニギターの4タイプで構成されています。これら4タイプがさまざまなシリーズのコンセプトに従い、いろいろなモデルとなってリリースされています。メイトンの各シリーズについて、その特徴を見ていきましょう。

Custom Shop series

「カスタムショップ」シリーズは、マスタールシアーのアンディ・アレン氏が全行程を担当する、特別なモデルです。トニー・エマニュエル氏はじめ世界中のアーティストが使用するモデルが、この人の手によって作られています。

Signature series

シグネイチャー・シリーズとしては、今のところトニー・エマニュエル氏とジョー・ロビンソン氏のモデルがリリースされています。「T.E.Personal」はカスタムショップにて最高級の木材を駆使した、トニー・エマニュエル氏ご愛用モデルのパーフェクトなレプリカです。


Halfway Home | Tommy Emmanuel
くどいようだが、決して早回しではありません。トニー・エマニュエル氏のシグネイチャーモデルは、ヘッドに可愛らしいカンガルーのインレイが施されます。

Messiah series(EM100)

Maton EM100

「EM100」の型番で始まる「メサイア」シリーズは、ファクトリーラインの最高峰グレードです。AAAシトカスプルース単板トップ、インディアンローズウッド単板サイド&バック、マホガニーネックという木材構成に、ヘリンボーンのバインディングやパールのインレイが高級感を演出します。

「メサイア」シリーズからは、カッタウェイの有無を選べる「808」及びドレッドノート、カッタウェイ付き12弦ドレッドノートの5タイプがリリースされています。

Australian series(EA)

「EA」で型番が始まる「オーストラリアン」シリーズは、オーストラリア産の木材をふんだんに使って製作されます。「EA808」および「EA80C(ドレッドノート)」は、トップにブンヤ、サイド&バックにAAグレードのブラックウッド、ネックにブラックウッド、指板とブリッジにデザートアカシア、ヘッドとボディバインディングにブラックウッドという、オーストラリア感でいっぱいの木材構成です。

EBG series(EBG)

「EBG」シリーズは、代表機種「808」をさまざまな形でリリースしています。トップにAAシトカスプルース単板、サイド&バックにブラックウッドの基本モデル「EBG808」を中心に、サイド&バックをクイーンズランド・メイプルに変更したり(EBG808-NASHVILLEなど)、トップのグレードをAAAにしたり(EBG808 ARTIST)というバリエーションがあります。

Solid Road series(SRS)

「SRS」を頭文字とする「ソリッドロード」シリーズは、マスタールシアーのアンディ・アレン氏が開発したという、新しいメイトンの姿です。ブレーシングの工夫により、「SRS808」では高域から低域まで反応が向上しています。このほかドレッドノート「SRS60C」は張りのあるトーンで単音の粒立ちが良く、ドレッドノート「SRS70C」およびジャンボ「SRS70J」は、太い低域と豊かな中域を持ち味としています。

Blackwood series(EBW / EMBW)

「ブラックウッド」シリーズは、ボディトップ、サイド&バックすべてにブラックウッドを使用しています。目ッドの化粧板もブラックウッド、ピックガードやバインディングもブラックで、見た目に統一感があります。こちらは2タイプの「808(EBW808 / EBW808C)」、ドレッドノート「EBW70C」、ミニギターの6弦「EMBW6」と同12弦「EMBW12」がリリースされています。

Mini Maton series(EM)

ミニギターのラインナップが充実しているのも、メイトンの面白いところです。弦長「580ミリ」は、普通のギターで2フレットにカポタストを装着した状態とほぼ同じです。トップのグレードやサイド&バックの木材にバリエーションがあるほか、12弦モデルまであります。


Diesel – Dig
定番機種「808」が最も名高いメイトンですが、ミニギターに12弦モデルがあるのも面白いポイントです。

The Heritage series(ECW)

「ヘリテイジ」シリーズは、メイトンのヴィンテージ・スタイルです。3タイプの「ECW80」は、1967年に発表された「CW」シリーズを現代に伝えるモデルで、サイド&バックにサペリ、ネックにマホガニー、指板とブリッジにローズウッドを使っています。


以上、オーストラリアのギターメーカー代表、メイトンについて注目していきました。オーストラリア発のいろいろなメーカーが、このごろ来日を果たしています。そのどれもが、ギターの伝統を受け継ぎながら、それでいて伝統にこだわりすぎない自由さを感じさせます。ショップで見かけたら、ぜひ手にとってみてください。