VINCENT VN-5 Pops(Green)ヘッド部分
ここからは、職人として20年というキャリアを持つギター専門家の小川氏に、この際いっぱい質問をぶつけてみた、のコーナーです。ラッカー塗装のことやピックアップの選び方など、目から鱗が何枚も落ちるお話をしていただきました。
──塗装にこだわるギタリストは多いですよね。ラッカー塗装に人気があると思うのですが、最近ではウレタン塗装のものも増えているようです。
小川 塗装に関しては様々な意見があると思いますが、あくまでもある程度の本数を製作している、メーカー側の思っていることを話したいと思います。
今のウレタンは柔軟性があり、とても薄く塗れます。最新の塗装技術では、テイラーのUV塗装が有名ですが、依然としてラッカー信者は多く、経年変化で音が良くなっていくと言われていますが、耐久性が乏しく、扱いが難しい為、メーカー側としては現代の塗料のことも知ってほしいと思っています。
しかしラッカー塗装の昔の楽器をウレタンに塗りなおしてしまうのはかわいそうな気がするので、そういうときはラッカーで塗り直してあげたいですね。
──サンプルを試奏して、気に入ってオーダーするにしても、これから作られるものと今触っているサンプルとは、全く同じギターになるのでしょうか?
小川 全く同じモノを求めるのは難しいと思います。しかし同じ所を狙って作るので、それほどの差はありません。むしろもっといい物ができる可能性もあります。サンプルを触っているお客さんが気に入ったポイントをフォーカスするんです。またその人のギターとの関わりをお聞きして、読み取ります。
これは例えば料理と一緒ではないでしょうか。塩加減や水加減などありますから、厳密には全く同じ味にはなりませんよね。しかし腕のいい料理人ならば、「いつもの味」をちゃんと出すし、お客さんが欲しい味を出すこともできます。ヤイリの工房も同じで、そのクオリティを保つことができるんです。なので、あまり心配はありません。
VINCENTの自社工房
──調整はどんなスパンで出すのがいいんでしょうか?
小川 ヤイリでアーティスト担当だった時には、アーティストさんによって様々でしたね。神経質な人はライブやツアー、録音などその都度です。ギターに変調を感じたらリペアに出してほしいですが、梅雨の前はお勧めしません。この時期は木部が大きく動きますから、梅雨明けからの調整がベストです。一般の方なら梅雨明けに年一回で、新品で買った最初の一年はちょこちょこ調整をチェックするのがいいでしょう。新品から3年経てば落ち着きますが、逆に3年以内は結構動きます。
──当サイトでは「アコギのボディタイプとサイズについて」という記事を掲載しています。ヤイリのラインナップはちょっと小さめにアレンジしたボディが多いようですね。やはり体格でギターを選ぶべきでしょうか?小振りだと音に違いは出ますか?
小川 サイズは気にしなくていいと思います。どんなアーティストが好きかとかで決めていいと思いますよ。でっかいギターも持ってみていいと思います。しかしドレッドノート以上のサイズだと、ある程度のパワーがないと、ちゃんと鳴りません。
「自分に合ったギター」を検討するなら、タッチにあったサイズ感を探すのがいいでしょう。元気な小学生が力一杯ドレッドノートを弾くのもアリです。長渕剛さんが好きな人はタッチが強いとか、好きなアーティストによって傾向はありますね。
タッチの強さで出る音は、ボディ厚による影響が大きいですよ。ヤイリはボディ幅を抑えていても、厚みをそこまで落としていません。マーチン000は結構薄いんですが、ヤイリの000版であるWY-1はそれより1センチ厚いので、そのぶん低音が出ます。また、トップとバックは平行ではありませんので、そういった構造で作られるボディ厚の変化も重要です。アコギは話が深くて面白いですが難しいですね。どれもアコギだけど、全部違います。
──ギターは調整すれば永久に使えるものなんでしょうか?
小川 ギターにも寿命はあります。木材に張りがある状態を「生(しょう)」といい、これが失われた状態を「生が抜けた」なんていいますが、そうなるのがだいたい50年です。ガンガン弾かれたギターでは20年くらいでしょうか。それを経ると、音にコシが無くなります。
エレキならヴィンテージですが、アコギは木が薄いので、経年変化で木材の柔軟性が失われてしまうと、新品のように本来の性能を引き出すことはできません。
「生」が抜けたギターを復活させたいのなら全バラシをしなければなりませんが、そこまではできませんよね。ガシャガシャ弾くのには適しませんが、やさしく弾くのは味があっていいですよ。老後の音です。細い弦が張られ、自宅で軽く弾くという余生を過ごします。戦前なんていう大昔のアコギになると、相当ガタが来ているはずです。ニカワが劣化していてどんどん剥がれていくことでしょう。ガーンと弾くとブレーシングが外れることもありますし、レギュラーチューニングにするとトップが割れてしまうかもしれません。古いギターは、新品のギターとは違う付き合い方が必要です。
──楽器店の中には、陳列しているギターの弦をダルダルにゆるめている所があります。弦をゆるめておく意味はあるんでしょうか?
小川 このような風習は、お客さんに対して親切ではないと思っています。チューニングしてもそこから調整が狂ってくるんですよ。弦を張っている状態が、ギターの安定している状態です。
これはヴィンセントの売りにしているところですが、ヤイリで最終調整されたギターが入荷してから、ウチでさらに一日使って、狂いをチェック、調整してからお客様にお渡ししています。お店でゆるめているのなら、張ってから一日置いて、狂いをチェックしてからお客さんに渡すのが親切です。張力がかかっていなかった物にいきなり張力がかかる、というのはそのギター本来の状態ではありません。
張りっぱなしで不具合が出るなんていうのは、おかしな話です。そんなもん売ってはいけませんよ。弦の老化が早まることもありません。アコギは経年変化でトップが盛り上がってくることがありますが、これを嫌がっているとしたら完全にお店の都合だと思います。
──アコギをエレアコ化させるために搭載するピックアップは、どうやって選ぶのがいいんでしょうか?
小川 アコギの2大ピックアップメーカーといえば、フィッシュマンとL.R.バッグスです。10年ほど前はフィッシュマンが7割というシェアを誇っていましたが、現在では逆転しています。現在一般化している「ピエゾとコンデンサの両方を使うシステム」は、L.R.バッグスがヒットする前にはもうフィッシュマンが商品化していたんです。しかしデジタル指向の硬い音で、いかにもエレアコな音でした。これに対してL.R.バッグスは最初から「生の音に近づける」というコンセプトで開発していました。
VICENTでもL.R.バッグスをお薦めしていますが、10種類ほどのラインナップを把握しているので、使用状況によるおすすめピックアップを提案できます。ホールなのか、ライブハウスなのか、カフェなのか、自宅なのか宅録なのか、またどんなプレイスタイルなのか、ジャカ弾きなのかメロ弾きなのかとか、性能よりは目的に合わせた方向付けです。
小規模な会場で弾き語りならどれを選んでもいいと思いますが、コンデンサ系を使うのなら、使用する会場によって使い分けるのがお勧めです。
アコギのピックアップはサウンドよりも使い勝手で選びます。あらゆるバリエーションがありますが、エレキギターみたいに音色が変わるというものではありません。同じ物でもPAがいるのかいないのかでもぜんぜん違います。お金はある、本番もあるならアンセムが一番です。しかしコンデンサマイクは生音あってのものなので、本体が良くなければもったいないです。
ピックアップの話をいっぱいしましたが、初めてギターを買うというのなら、最初からエレアコは買わないことです。後付けピックアップというものがあるんだから、まずアコギを買って、楽器本来の音を味わって欲しいです。
エレアコとしてできた物は生音が抑えられていて、もったいないです。僕らからすると、エレアコというジャンルはいらないくらいに思っています。基本的にアコギを作って、マイクを追加します。またL.R.バッグスの凄い所は、楽器の加工が最小限なところです。
──職人時代でも、現在でも、何に心がけて仕事をしていますか?
小川 自然に、やれることをやっています。現在では開発者、企画者など、いろんな役割があるので、自分の立場を絞らず、柔軟に動きます。元職人だったのと、アーティスト担当だったのとを含めて、僕にしかできない事をさがして全ての方位を向いています。アーティスト担当と言うキャリアには、かなり助けられていると思っています。
自分でギターを作っていきたい気持ちもあるけど、現実問題としては難しいですね。自分が作った物だけになると、動ける範囲が狭くなってしまうと思うんです。メーカーに作ってもらった物を展開するビジネスだと、自分は広く動けます。
ヤイリには「高品質より、我ら生きる道なし」という標語が掲げられています。40~50年前からのものですが、この時代はどのメーカーも安い物ばかり作っていました。
──長野や岐阜にはギターメーカーが多いようですが、ここでギターを作るメリットは何でしょうか?
小川 60~70年代のフォークブームでギターの需要が上がったんですが、そんなときに木工職人や家具職人が岐阜や長野にたくさんいて、木工機械がたくさんあったんです。木工関係の会社が多く、木工のインフラがあったということですね。
また、名古屋には戦前から「鈴木バイオリン」があって、クラシックギターも作っていました。ヤイリ初代、タカミネ初代など、この地域で身を立てたギターメーカーの多くは、そこ出身です。ヤイリでも最近定年した5人くらいは、もとは家具職人です。マスタークラフトマンの小池さんも、もともとは家具職人。その下の世代は、フォークブームでギターが好きで入ってきた人たちです。
──今までのキャリアで、思い出に残る仕事はありますか?
小川 作ったものでは、オーダーで「クラシックギターのダブルネック」なんかがありました。片方フレットレスですが、どうやって弾くのかわからなかったですが、何度か打ち合わせを重ね、完成しました。
また、ギターとブズーキっていうダブルネックを作りました。しかも左利きで、松崎しげる奏法(右利き用に弦を張ったギターで、左利きで弾く)なんです。右のギターを作る感じでいいわけではなく、ネックのサイドポジションは逆とか、自分の中で整理するのに時間がかかりました。
以上、展示会を目前に控えたVINCENTを訪れ、長時間にわたる深いお話を伺いました。小川さんはとても落ち着いた雰囲気の方でしたが、ギターを作り続けたベテランの職人から、業界のシーンを遠くまで見通す経営者へと華麗に転身しました。しかし「丁寧な作り」で評価されるヤイリ出身らしく、ブランドを展開していくブランド戦略は勢いに任せず、しっかりと練られています。
VINCENTの展示会は、今後日本各地で順番に開催されます。ぜひ一度、展示会に行ってみてください。落ち着いた人柄の小川さんと、そんな小川さんがプロデュースしたVINCENTのギターたちが待っていますよ。
VINCENTギターのラインナップ紹介
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