上から D-28 Modern Deluxe、000-28 Modern Deluxe、012-28 Modern Deluxe
2019年1月、アナハイムで開かれたWinter NAMMで、マーチンは新しいシリーズ「Modern Deluxe」を発表しました。
D-18、D-28、000-28、OM-28に、マーチンで人気の高いヴィンテージ仕様を盛り込み、そこへ最新の素材と技術を組み合わせる。
発表時の4機種はそんなコンセプトで、伝統の音と見た目をそのままに、音量と弾き心地を一段引き上げることを狙っていました。
今回は、このModern Deluxeシリーズに注目していきましょう。
Martin Modern Deluxe Series Guitars
マーチンのバイスプレジデント、Fred Greeneが、Modern Deluxeシリーズの誕生について話しています。
Modern Deluxeは、長年受け継いできた製法を守りながら、今のプレイヤーのために楽器の可能性を広げる、という位置づけのシリーズです。
製造は、マーチンの本拠地であるペンシルベニア州ナザレスです。
上質なトーンウッドに先進的な素材を組み合わせ、音量、音の伝達性、弾きやすさを高めています。
それでいて、ダブテイル・ネックジョイントやXブレイシングといったマーチン伝統の作りはそのままです。
Modern Deluxeの全モデルに、次の仕様が共通しています。
全モデルにPLEKによるフレット処理が施され、プライ構造のハードシェルケースが付属します。
トップ材はVTS処理のヨーロピアン・レッドスプルースを採用、左利き用も用意されています。
Standardシリーズは、マーチンの屋台骨と言えるシリーズです。
ナザレス製、オールソリッド、ダブテイル・ネックジョイント、Xブレイシングという、マーチンの基本形を受け継いでいます。
Modern Deluxeも、この基本形は同じです。
ネックジョイントはどちらもダブテイル。
ブレイシングのパターンも共通で、ドレッドノートはForward-Shifted X、000/OM/00はX、ブレイスの形はどちらもGolden Era Scallopedです。
牛骨ナットと牛骨の補正サドル、サドルRの16インチ、工場出荷時の弦も変わりません。
違いは、木材の処理と、ネック、そして細かなパーツに集中しています。
| Modern Deluxe | Standard | |
|---|---|---|
| トップ材 | ヨーロピアン・レッドスプルース(VTS) | シトカスプルース |
| トップの色 | Clear | Aging Toner |
| ブレイス材 | アディロンダック・スプルース(VTS) | シトカスプルース |
| ネック形状 | Vintage Deluxe | GE Modified Low Oval |
| ネック材 | Select Mahogany | Select Hardwood |
| ブリッジピン | Liquidmetal | 牛骨(D-18・000-18はエボニー) |
| ペグ | Waverlyゴールド・オープンギア | ニッケル・オープンギア(42・45はゴールド) |
| バインディング | フレイムドメイプル(18系はローズウッド) | Antique White(D-28) |
Modern Deluxe のVintage Deluxeネックは、わずかに非対称な形をしています。
指板の上から下まで、どのポジションでも手に馴染むように作られた形状です。
Modern Deluxeのほうが全体に薄く、特にエッジ側がすっきりしています。
トラスロッドはチタン製の2ウェイで、従来のものより64%軽くなっています。
ブリッジの裏側で弦の張力を受け止めるブリッジプレートは、カーボンファイバー製です。
ブリッジピンには、マーチン専用のLiquidmetalを採用しています。
フレットはEVOゴールドフレットです。
トップとブレイスの接着には、ニカワを使っています。
VTSは「Vintage Tone System」の略で、マーチン独自の木材エイジング処理です。
新しい木材を、100年近く経った楽器のような音と見た目に近づけます。
木材は年月とともに水分が抜けて軽くなり、よく共鳴するようになります。
ただし自然にこの状態になるまでには、40年以上かかることもあります。
この熟成を短期間で再現するのが、トレファクションと呼ばれる手法です。
真空密閉した窯で木材を焼く工程で、VTSはこのトレファクションをもとにマーチンが独自に作り上げた処理です。
開発にあたってマーチンは、戦前のマーチン数本と、1919年製のDitsonのドレッドノートを高精細でスキャンし、木材の細胞構造を顕微鏡レベルまで調べています。
何十年もかけて自然に熟成した木材の見た目、手触り、音、さらには匂いにまで近づけることをVTS処理によって目指しています。
Modern Deluxeでは、トップのヨーロピアン・レッドスプルースと、ブレイスのアディロンダック・スプルースの両方にVTSを施しています。
ゴールデンエラ・スタイルのアディロンダック・ブレイシングと合わせて、100年近く前のマーチンの深く、バランスの取れた響きを再現しています。
マーチンのフラッグシップであるD-28と、そのModern Deluxe版を並べてみます。
| D-28 Modern Deluxe | D-28(Standard) | |
|---|---|---|
| トップ | ヨーロピアン・レッドスプルース(VTS)、Clear | スプルース、Aging Toner |
| ブレイシング | Forward-Shifted X、アディロンダック(VTS) | Forward-Shifted X、スプルース |
| ネック | Select Mahogany、Vintage Deluxe | Select Hardwood、GE Modified Low Oval |
| 指板インレイ | Diamonds and Squares Long Pattern(アバロン) | Style 28(マザー・オブ・パール) |
| ブリッジピン | Liquidmetal(赤いドット) | 牛骨 |
| ペグ | Waverlyゴールド・オープンギア | ニッケル・オープンギア |
| バインディング/縁飾り | フレイムドメイプル/Bold Herringbone | Antique White/Multi-Stripe |
| エレアコ版 | Fishman Aura VT Blend搭載版あり | なし |
ボディ形状、サイド&バックの木材、スケール、ナット幅、12フレット幅、ブリッジの弦間、ブレイシングのパターンと形状は、どちらも同じです。
指板とブリッジはエボニー、ナットとサドルは牛骨で、ロゼッタもどちらもStyle 28 Multi-Stripe。
D-28の骨格は、そのまま受け継がれています。
違いは大きく三つあります。
ひとつはトップとブレイスの木材と、そこに施されたVTS。
もうひとつは、Vintage Deluxeネック、Liquidmetalピンといった、弾き心地と音量に関わるパーツ。
そしてもうひとつが見た目で、ヘリンボーンの縁飾り、フレイムドメイプルのバインディング、アバロンのインレイ、ヘッドの1933 CFM Scriptが、Standardとは違うヴィンテージ寄りの顔つきを作っています。
StandardのD-28は、力強い低音、澄んだ高音、豊かな倍音を持ち、遠くまでよく鳴るドレッドノートです。
D-28 Modern Deluxeはこの音をベースに、VTSによる熟成した響きと、新しい素材による音量とサスティーンを上乗せしています。
では、Modern Deluxeのラインナップをチェックしていきましょう。
現在のModern Deluxeは、D-18、000-18、D-28、OM-28、00-28、000-28、0012-28、012-28、D-42、000-42、D-45の11機種です。
全機種で、VTS処理のヨーロピアン・レッドスプルース単板トップ、VTS処理のアディロンダック・スプルースのGE Scallopedブレイシング、Vintage Deluxeネック、エボニーの指板とブリッジ、牛骨のナットと補正サドル、Liquidmetalのブリッジピン、ダブテイル・ネックジョイント、Ply Hardshellケースが共通しています。
ボディサイズとサイド&バックの木材、装飾のグレードで、各モデルの個性が分かれます。
Martin D-18 Modern Deluxe
マホガニーのドレッドノートを、Modern Deluxeの仕様で仕上げたモデルです。
トップはVTS処理のヨーロピアン・レッドスプルース、サイド&バックはジェニュイン・マホガニー。
ネックはSelect MahoganyのVintage Deluxe/High-Performance Taperで、スケールは25.4インチ、ナット幅は1 3/4インチです。
シリーズで唯一のマホガニー・ドレッドノートで、バインディング、エンドピース、ヒールキャップには、メイプルではなくイーストインディアン・ローズウッドを使っています。
指板インレイはOld Style 18、ヘッドはダイヤモンドのないスクエアテーパーと、28系より装飾を抑えた素朴な外観です。
Fishman Aura VT Blend搭載のエレアコ版も選べます。
Martin 000-18 Modern Deluxe
マホガニーの000ボディを、Modern Deluxeの仕様で仕上げたモデルです。
トップはVTS処理のヨーロピアン・レッドスプルース、サイド&バックはジェニュイン・マホガニー。
ネックはSelect MahoganyのVintage Deluxe/High-Performance Taperで、ナット幅は1 3/4インチです。
装飾はD-18 Modern Deluxeと同じ系統で、イーストインディアン・ローズウッドのバインディングとOld Style 18の指板インレイを採用しています。
D-18よりひと回り小さいボディに、短めの24.9インチ・スケールを組み合わせています。
一音一音の輪郭と温かみを求める、フィンガースタイルのプレイヤーに最適なモデルです。
Martin D-28 Modern Deluxe
マーチンのフラッグシップ・ドレッドノートであるD-28を、Modern Deluxeの仕様で仕上げたモデルです。
トップはVTS処理のヨーロピアン・レッドスプルース、サイド&バックはイーストインディアン・ローズウッド。
ネックはSelect MahoganyのVintage Deluxe/High-Performance Taperで、スケールは25.4インチ、ナット幅は1 3/4インチ、ブレイシングはForward-Shifted Xです。
フレイムドメイプルのバインディング、Bold Herringboneの縁飾り、アバロンのDiamonds and Squares Long Patternインレイと、28系の華やかな装飾をまとっています。
D-18 Modern Deluxeとはサイド&バックの木材と装飾が異なります。
Fishman Aura VT Blend搭載のエレアコ版も選べます。
轟くような低音ときらめく高音で、全帯域にわたって力強く鳴ります。
Martin OM-28 Modern Deluxe
000ボディに25.4インチのロングスケールを組み合わせた、OMのModern Deluxe版です。
トップはVTS処理のヨーロピアン・レッドスプルース、サイド&バックはイーストインディアン・ローズウッド。
ネックはSelect MahoganyのVintage Deluxeで、ナット幅は1 3/4インチです。
シリーズで唯一、ネックのテーパーがStandard Taperで、12フレットでの幅は2 1/4インチあります。
ブリッジでの弦間も2 1/4インチと、D-28 Modern Deluxeの2 5/32インチより広くとられています。
000-28 Modern Deluxeとはボディが同じで、スケールとネックの幅が異なります。
装飾はD-28 Modern Deluxeと同じで、Fishman Aura VT Blend搭載のエレアコ版も選べます。
Martin 00-28 Modern Deluxe
グランドコンサートと呼ばれる00ボディを、Modern Deluxeの仕様で仕上げたモデルです。
トップはVTS処理のヨーロピアン・レッドスプルース、サイド&バックはイーストインディアン・ローズウッド。
ネックはSelect MahoganyのVintage Deluxe/High-Performance Taperで、スケールは24.9インチ、ナット幅は1 3/4インチです。
装飾はD-28 Modern Deluxeと同じ系統です。
000-28 Modern Deluxeよりひと回り小さい14フレット接続のボディで、エレアコ版は用意されていません。
フィンガースタイルと軽めのストロークに向けたモデルです。
Martin 000-28 Modern Deluxe
オーディトリアムと呼ばれる000ボディを、Modern Deluxeの仕様で仕上げたモデルです。
トップはVTS処理のヨーロピアン・レッドスプルース、サイド&バックはイーストインディアン・ローズウッド。
ネックはSelect MahoganyのVintage Deluxe/High-Performance Taperで、スケールは24.9インチ、ナット幅は1 3/4インチです。
装飾はD-28 Modern Deluxeと同じです。
OM-28 Modern Deluxeとはボディが同じで、こちらは24.9インチ・スケールとHigh-Performance Taperの組み合わせになります。
Fishman Aura VT Blend搭載版のエレアコも選べます。
Martin 0012-28 Modern Deluxe
12フレット接続の00ボディを、Modern Deluxeの仕様で仕上げたモデルです。
トップはVTS処理のヨーロピアン・レッドスプルース、サイド&バックはイーストインディアン・ローズウッド。
ネックはSelect MahoganyのVintage Deluxeで、スケールは24.9インチ、ナット幅は1 13/16インチ、12フレットでの幅は2 1/4インチ、ブリッジでの弦間は2 1/4インチです。
ヘッドはスロッテッド・ヘッドで、ペグはWaverlyのゴールド・サイドマウント、ブリッジはピラミッド・ブリッジで、ピックガードは付きません。
14フレット接続の00-28 Modern Deluxeと比べると、ネックとボディの接合位置が変わるぶんブリッジの位置もずれ、より深い低音と開放的な鳴りが得られます。
小ぶりなボディで抱えやすく、温かい音を求めるプレイヤーに適したモデルです。
Martin 012-28 Modern Deluxe
12フレット接続の0ボディを、Modern Deluxeの仕様で仕上げたモデルです。
トップはVTS処理のヨーロピアン・レッドスプルース、サイド&バックはイーストインディアン・ローズウッド。
ネックはSelect MahoganyのVintage Deluxeで、スケールは24.9インチ、ナット幅は1 13/16インチです。
スロッテッド・ヘッド、Waverlyのゴールド・サイドマウント・ペグ、ピラミッド・ブリッジ、ピックガードなしという仕様は0012-28 Modern Deluxeと共通で、ボディはシリーズでもっとも小さい0サイズです。
Martin D-42 Modern Deluxe
装飾にアバロンをふんだんに使った、42スタイルのドレッドノートです。
トップはVTS処理のヨーロピアン・レッドスプルース、サイド&バックはイーストインディアン・ローズウッド。
ネックはGenuine Mahoganyのグロス仕上げで、Vintage Deluxe/High Performance Taper、スケールは25.4インチ、ナット幅は1 3/4インチ、ブレイシングはForward Shifted Xです。
トップの縁とロゼッタにアバロンを巡らせ、指板にはGolden Era Style 45 Snowflakeのインレイ。
ボディ、指板、ヘッドにフレイムドメイプルのバインディングを巻き、エボニーのヘッドプレートにはトーチのインレイ、ブリッジピンはアバロン・ドットです。
28系のD-28 Modern Deluxeとは、ネック材と装飾のグレードが異なります。
Martin 000-42 Modern Deluxe
D-42 Modern Deluxeの装飾を、000ボディで仕立てたモデルです。
トップはVTS処理のヨーロピアン・レッドスプルース、サイド&バックはイーストインディアン・ローズウッド。
ネックはGenuine Mahoganyのグロス仕上げで、Vintage Deluxe/High-Performance Taper、スケールは24.9インチ、ナット幅は1 3/4インチ、ブレイシングはXです。
アバロンの縁飾り、Style 45 Snowflakeのインレイ、フレイムドメイプルのバインディングは、D-42 Modern Deluxeと同じです。
000-28 Modern Deluxeとはボディが同じで、ネック材と装飾が異なります。
Martin D-45 Modern Deluxe
スタイル45のドレッドノートを、Modern Deluxeの仕様で仕上げたモデルです。
トップはVTS処理のヨーロピアン・レッドスプルース、サイド&バックはイーストインディアン・ローズウッド。
ネックはGenuine Mahoganyのグロス仕上げで、Vintage Deluxe/High Performance Taper、スケールは25.4インチ、ナット幅は1 3/4インチ、ブレイシングはForward Shifted Xです。
D-42 Modern Deluxeとの違いは、パールの縁飾りがトップだけでなくバックとサイドにも巡らされている点です。
正面から見た姿はD-42 Modern Deluxeと変わりません。
Modern Deluxeは、マーチンの名器の音と佇まいを受け継ぎながら、今の素材と技術で音量と弾きやすさを引き上げたシリーズです。
ヴィンテージのマーチンの響きと佇まいに憧れながらも、毎日手に取る楽器としての扱いやすさも手放したくない。
そんなギタリストが、ステージでも自宅でも気兼ねなく鳴らし込んでいくためのマーチンです。
