
ヤマハでは、フォークギターのラインナップ(Lシリーズ&FG/FSシリーズ)とは独立したエレアコのラインナップを展開しています。
ざっくりと「アコースティックギター」でくくられますが、エレアコはフォークギターと違った構造が求められます。
生楽器は本体が豊かに響くよう設計しますが、本体があまりに豊かに鳴ると、ステージで盛大にハウリングを起こしてしまうことがあるからです。
そのためエレアコでは、楽器本体の生鳴りがコントロールされる独自の設計が必要になってきます。
この記事ではヤマハのエレアコ各シリーズの設計思想・ピックアップの違いなど解説します。「次の1本」の選択肢を絞り込む手がかりとして活用してください。
ハウリングを起こしにくくするためには、ブレーシングを太くしたりボディシェイプを見直したりといった工夫が求められます。
これにより「鳴り」が抑制されますから生の「音量」が比較的小さくなってしまいますが、それでも生音の「音質」が保たれているところがヤマハのすごいところです。

ヤマハのエレアコに搭載されるピックアップシステムには、アコースティックなトーンを追求した「SRT(System 63)」、楽器の振動までピックアップする「ART(System 64,68)」、一般的なエレアコサウンド「System 66」の3つがあります。
システムの番号は歴代ピックアップシステムの通し番号ですから、グレードとイコールにはなりません。
この中での最新はSystem 68ですが、最もグレードが高いのはSystem 63です。
それぞれ好みでサウンドメイキングができるようになっている他、便利なクロマチックチューナーが搭載されています。
また一般に入手しやすい単三乾電池で作動します。

「SRT(=Studio Response Technology)」は、レコーディングスタジオでマイク録音(=エアー録り)したアコギの音を、エレアコ(=ライン録り)で再現するシステムです。
生の音とエレアコの音では振動伝達の経路が異なるため、エレアコ本来のサウンドは生音と全く違う印象になります。
それゆえエレアコは「エレアコのサウンド」として、「生のサウンド」とは別物として扱われてきました。
| 項目 | 信号経路 |
|---|---|
| 生の音 | 弦振動 → ボディが振動 → 空気が振動 → マイク録音 → レコーダやPA |
| エレアコの音 | 弦振動 → ピックアップで電気信号に変換 → プリアンプで増幅 → レコーダやPA |
生の音が欲しければライブでもマイク録りを行ないますが、これではバンドの音量を上げることができず、またマイクを向けた位置から身動きが取れず、不便を強いられます。
「エレアコで生の音を出したい」とは、プレイヤーの懸案でした。
ヤマハのSRTは、
この二つを比較解析してマイク録り特有の「空気感」を突き止め、生のサウンドを再現しています。
使用するマイクを3種類から選択でき、オフマイク(=遠くに設置したマイク)の音も追加できます。
またピエゾピックアップ本来の硬質なサウンドも別で持っており、どちらかのみ出力、また二つをブレンドして出力することができます。
ヤマハはSRTについて「生の音がする」という説明に終始しており、「モデリング」「シミュレータ」というワードを公式には使っていません。
「他社のモデリング技術とは異なる」という論調で独自性を印象づけようとしているものと考えられますが、かえってイメージが掴みにくく判りにくくなっていますね。
SRTは実質的には、「ヤマハ独自開発のモデリング技術」という理解で大丈夫です。

通常エレアコのピエゾピックアップはサドルの真下に設置され、サドルが受けた弦の振動を拾うようになっています。
ARTはこのピエゾをブリッジ裏に設置することで、楽器の持つボディ鳴りも拾うシステムです。
ピックアップをちょうどいい位置に設置することで、弦鳴りのアタック感とボディ鳴りのバランスが取られたサウンドが得られます。

System 66は、サドル下に配置したピエゾピックアップのサウンドを、そのままプリアンプに送るシステムです。
硬質でアタックの立つ「本来のエレアコサウンド」が得られ、プリアンプはSystem 64と共通になっています。
Atmosfeel(SYSTEM 74)は、ヤマハが新開発した3系統ハイブリッドピックアップです。
の3つをブレンドする設計で、従来のエレアコでは再現しきれなかった「サウンドホールから出る空気感」「弦一本ごとの余韻」「フィンガリングのタッチ感」を高い精度で再現します。
コントローラーはBass EQ・Master Volume・Mic Blendの3つのみというシンプルな構成で、Mic Blendを上げると生音に近いナチュラルなサウンドに、下げるとアンプライクなタイトなサウンドに調整可能です。
A.R.E.は、木材に温度・湿度・気圧変化を与えて繊維構造を変化させるヤマハ独自の技術です。
長年弾き込まれた枯れたサウンドを新品から実現します。
Aシリーズ上位モデル(A3系)、Red Labelシリーズ、Lシリーズ(LL/LJ/LS6 ARE以上)に採用されています。
ヤマハのエレアコは「エレキギターから持ち替えても違和感が無い」ことが共通のコンセプトで、ネックは「フェンダー系よりちょっと太く、ギブソン系よりちょっと細い」グリップ、全モデルカッタウェイが設けられており、リードプレイにおいて特に有利になります。
カッタウェイのぶんボディ鳴りが抑えられるので、ハウリング予防の効果もあります。

APX600FM
1987年に発表された「APX」は、ヤマハのエレアコでは最も長い歴史を持つヤマハ・エレアコの原点となるシリーズです。
楕円形のサウンドホールとシングルカッタウェイを持つ独自のシルエットは、登場以来変わることなく受け継がれています。
「エレアコの音」を追求したボディ形状/ブレイシング設計が採用され、ドラムやベースと混ざったバンドサウンドに埋もれない、中高域に押し出し感のあるサウンドを持っています。
エレキギターからの持ち替えを想定したコンパクトなボディ、リードプレイに有利な23フレットは、バンドマンのステージパフォーマンスを強力にサポートします。

「深胴の豊かな響きをありのままにラインアウト」することをコンセプトに1998年にデビューした「CPX」は、画期的なピックアップシステムで生鳴りをアウトプットできるエレアコの先駆者でした。
羅針盤(=コンパス)をイメージしたヘッドインレイは、デビュー当時のモデル名「コンパス」の名残です。
APXの薄胴設計に対し、CPXは通常のアコギに近い深胴設計です。
ハウリング対策で生鳴りの量を制御する構造を取りながら、深いボディでアコギ本来の生のトーンを持っています。
くびれが深いボディデザインは、座って弾く時の弾きやすさを考慮しています。
上述のAPX/CPXは高性能なエレアコとして開発されましたが、AシリーズはフォークギターのFG/FSシリーズをエレアコにアレンジしたモデルとしてデビューしました。
スタンダードかつ握りやすいFGのネックを継承し、「A」ではFGの、「AC」ではFSのボディにカッタウェイを付けています。
内部のブレーシングも共通しており音響性能的に共通点が多くありますが、マテリアルに違いが設けてあり、楽器としての個性はきちんと分けられています。
また名器「N1000」のピックガードを受け継ぐことで、特徴ある攻めたルックスになっています。

特徴的なピックガード
Aシリーズは、エレアコでありながらもフォークギターとしての生の音にもこだわっています。
迫力あるサウンドのFGタイプ、繊細なニュアンスの出るFSタイプというボディ形状に加え、トップ材にマーチンの使用で知られる「シトカスプルース単板」が全モデル共通スペックになっている他、サイド&バック材はローズ(型番”R”)とマホガニー(型番”M”)の2種類があります。
2019年に登場したFG/FS Red Labelシリーズは、1966年の初代FGシリーズ(通称「赤ラベル」)の精神を現代に復活させたモデルです。
FSX3(フォークボディ)とFGX3(ドレッドノートボディ)がエレアコ仕様で、どちらもオール単板・ARE加工・Atmosfeelピックアップという最新スペックを備えています。
ARE加工により、新品の時から長年弾き込まれたような熟成されたサウンドを実現しています。
海外生産によるコスパ重視の「3シリーズ(FSX3 / FGX3)」、日本国内の職人によるハンドメイドモデル「5シリーズ(FSX5 / FGX5)」と2つのグレードに分類されます。

Lシリーズはヤマハのフォークギターの中で最も歴史あるプロ仕様のラインナップ。
エレアコ仕様(LX系)はボディ裏面にコンタクトピックアップをメインとした3系統のピックアップを内蔵しています。
Lシリーズのピックアップは電池不要のパッシブタイプで、プリアンプ内蔵のアクティブ系(APX/CPX/Aシリーズ)と異なり、ギター本体での音量・トーン調整機能を持ちません。
その代わりアンプやDI、プリアンプ側で音を作る設計になっており、音の素直さと加工のしやすさが特徴です。

環境問題が重視される風潮の中、練習につきまとう「音の問題」は、特に都会に暮らすミュージシャンには大問題でした。
近隣への迷惑を気にせず「思い切り練習が出来る楽器」として、ヤマハはサイレントピアノやサイレントドラムなどの「サイレントシリーズ」を提唱しています。
サイレントギターは共鳴胴を持たず、生の音量は10〜20%ほどにまで下げられます。
サイレントギターでの練習はヘッドホンを使用します。
リバーブなど内蔵エフェクトで練習に集中しやすいサウンドを作り、外部入力端子に音楽やメトロノームを送ってミックスするなど、積極的な練習ができるようになっています。
またACアダプタ(別売)に対応しており、電池残量を気にせず何時間でも練習ができます。
ボディのフレームは取り外し可能で、運ぶ時の負担を軽くしてくれます。
本来練習用の楽器ではありますが、ハウリングの危険が極めて低い優秀なエレアコとして、プロのステージで頻繁に使用されます。
ヤマハのエレアコは、ライブステージでの実用性と楽器本来の鳴りをいかに両立させるかという、長年の研究成果が詰まったラインナップとなっています。
それぞれの個性を理解した上で、ぜひ楽器店でその「音の空気感」を体感してみてください。
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