クラシックギター(左)とアコギ(右)。見分けられますか?
クラシックギターって何?アコギって、どれも一緒じゃないの?
今回は、そんな疑問について考えていきましょう。「クラシックギター」といわゆる「アコギ」は、同じ「ギター」と呼ばれる楽器でありながら、現在では全くの別物と考えられています。
「しまった!違うの買っちゃった!」
なーんてことにならないよう、この二つをキチンと見分けられるようにしておきましょう。
「クラシックギター(Classical Guitar)」とは何か?
「クラシックギター(クラギ)」は14世紀にはその原型ができており、19世紀に完成したと言われる、歴史ある楽器です。20世紀の名演奏家アンドレス・セゴビア氏の働きにより「クラシック音楽に使う格式高い楽器」と認められるようになりましたが、それまでは庶民的な楽器とみなされていたようです。
弦には動物の腸を乾燥させた「ガット」を使っていたことから「ガットギター」とも呼ばれます。現在ではナイロン弦やフロロカーボン弦が一般的で、「ナイロンギター」とも呼ばれます。ピックを使うこともありますが、指で弾くのが普通です。
Leonora Spangenberger (age 11) – Full Classical Guitar Concert at Siccas Guitars – J.S Bach, Legnani
クラシック音楽では、このようなソロ演奏の楽器として使われます。胸に近い位置に構え、弦を摘むように押さえる奏法が普通です。
「アコギ(Acoustic Guitar)」とは何か?
クラシックギターと異なり鉄製の弦を使用するいわゆる「アコギ」は1922年、アメリカのマーチン社により発表されました。のちに誕生したエレキギター(Electric Guitar)と区別するため「アコースティック(acoustic。電気に頼らない)」と呼ばれるまでは、「スチール弦ギター」と、あるいは「フォークギター」と呼ばれていました。コレを「スチールギター」と言ってしまうと、また別のギターと混同してしまうので注意が必要です。クラギもアコースティックですが、現在「アコギ」と言えば、こちらのスチール弦ギターのことを指すのが一般的です。指で弾くことも多いですが、同じくらいピックも活用されます。
Taylor Swift – betty (Live from the 2020 Academy of Country Music Awards)
アコギは特に、ボーカルの伴奏楽器として盛んに使用されます。腰の位置あたりに構えた、ネックを握るような弾き方が普通です。
え?弦の違いだけ?
ものすごーく乱暴に区別すると、クラギとアコギの違いは「弦だけ」です。しかし6本の弦張力が40kgそこそこのナイロン弦に対し、スチール弦は70kgに達します。楽器の構造には、大きな違いが生まれました。では、ここからはクラギとアコギの構造を見比べてみましょう。目が慣れてきたら、クラギとアコギは一瞬で見分けられるようになります。
ヘッド部
クラシックギターのヘッド。掘られた溝(スロット)を、軸(ストリングポスト)が横切る。ペグのツマミは背面に向かって伸びる。
アコギのヘッド。軸はヘッド面から垂直に伸びる。こちらのほうが頑丈な構造。ペグの耳は左右に伸びる。
ナット幅
クラシックギター(左)のナット幅は、5cmを僅かに上回る。押弦時に隣の弦に触れにくい。いっぽうアコギ(右)は4cmちょっと。親指を出した握り方に有利。
ネックと指板
クラギ(上)は、正面にも側面にもポジションマークが無いのが普通。二つの目印は、持ち主が貼り付けたもの。アコギ(下)には、ポジションマークが付いている。
カポタストにも違いがある
クラギ用カポ(左)とアコギ用カポ(右)。違いは、弦に当てるゴムの部分です。クラギの指板は広くて真っすぐですが、アコギの指板は僅かにカーブしているので、カポタストは使い分ける必要があります。
ボディトップ
普通のクラギには、ピックガードはない。ロゼッタ(サウンドホールの装飾)は寄木細工が基本で、よほどの高級機でもキラキラしない。
アコギには、ピックガードを備えるものが多い。ロゼッタには貝のインレイが使われることがあり、グレードが上がれば上がるほどキラキラする。
ブリッジ
クラギ(上)のブリッジは横に長い長方形が基本。弦は横穴に通し、くくりつけて固定する。アコギ(下)のブリッジはデザインにいろいろあり、弦は縦穴に通し、ブリッジピンで留めるのが主流。
ボディエンド部
クラギ(上)は座って弾くのが前提なので、ストラップ用のピンが最初から付いていることはほとんどない。アコギ(下)は立って弾くことが多いので、最初からピンが付いているのが普通。このアコギはエレアコなので、ケーブルを挿すジャックも備わっている。
基本設計の違い
既存のギター(クラシックギター)に対し、アコギは張力の強い鉄弦に耐えられるようアレンジされました。弦張力の違いは、楽器の基本設計に大きく反映されています。見えないところに、どんな違いがあるのかを見ていきましょう。
重さと強さ→響きやすさに影響
軽い弦張力に耐えれば良いクラギは、アコギよりも軽く、響きやすく作ることができます。名手のコンサートでは、音響設備なしでホールに音を響かせることができます。いっぽう強い弦張力に耐える必要のあるアコギは頑丈に作る必要があり、クラギよりも重たく、また響きにくくなる傾向にあります。音量を稼ぐため、アコギはクラギよりも大型化していきました。
トラスロッド
アコギのネックにはトラスロッド(鉄芯)が仕込まれ、本体重量の増加と引き換えにネック強度が上げられています。このトラスロッドはネック調整にも使われ、ネジを回すことでネックの反りを調整できます。クラギのネックは木材だけでじゅうぶん弦張力に耐えることができるので、トラスロッドを持たないのが普通です。
ブレーシング
「ブレーシング(力木)」は、ギター内部に骨格のように張り巡らされる補強材です。ブレーシングのおかげで、ギターのボディは弦張力を受けてもひん曲がらず状態を維持できます。クラシックギターでは扇形に配置される「ファンブレーシング」が普通で、アコギでは太い2本が交差する「Xブレーシング」が一般的です。Xブレーシングの方が頑丈で、鉄弦の張力にも負けずに踏ん張ってくれます。
クラギとアコギ、使われ方に違いはあるの?
クラギもアコギも弦は6本、チューニングも同じです。しかしサウンドに大きな違いがあることから、似合う音楽は別れます。ざっくりアメリカ系の音楽は鉄弦、ラテン系はナイロン弦なイメージですが、いろいろな動画から、二つのギターの違いを見ていきましょう。
ブルース
Walking Blues (Robert Johnson) feat. Keb’ Mo’ | Playing For Change | Song Around The World
ブルースでは、滑らかな音程変化を生む「スライドバー」が多用されます。
フラメンコ
Candela (Bulerías) | Paco Soto | Playing For Change | Live Outside
フラメンコにおいて「ギターは打楽器」とみなされており、ボディを叩く奏法が発展しています。
ロック
Listen to the Music feat. Tom Johnston (The Doobie Brothers) | Playing For Change
ロックはブルースから派生しているので、やはり鉄弦が似合います。
タンゴ
El Choclo | Playing For Change | Live Outside
「ジャッジャッ」というキレのよいリズムが、タンゴの特徴です。