アコースティックギター初心者向け入門講座

《移り行く時代、変わらないヤイリ》ヤイリギター訪問取材~レギュラーライン編~

インタビュー《移り行く時代、変わらないヤイリ》

森さん(左)と矢入社長(右) 工場をを案内して下さった森さん(左)と矢入社長(右)。

ここからは(株)ヤイリギター社長の矢入化賀光(やいりよしみつ)さんも加わり、さまざまなことをお聞きしました。

※お二人から話を伺っていますが、区別しなければならないコメント以外は「Yairi」に統一しています。

──工場見学では、木を大切にしながら、昔ながらの手作りとヤイリの独自性の両方を守った生産を続けているのが分かりました。

Yairi それがすべてではないか、ということでこのやり方を続けています。いろんな新しい方法など情報は入ってきますが、それでもやっぱりこの方がいいよね、という判断です。しかしもっと良いやり方が見つかったら、簡単に変更してしまうかもしれません。

自動化された最先端の工場を視察にもいきました。製品の品質は高いレベルで安定するでしょうが、「誰がやっても同じ結果になる」というところはメリットこそあれ、ヤイリの理念とは違いますね。生産体制を確立した人はギター作りに精通していらっしゃるんですが、実際に働く人たちに技術や知識が少なくてもできてしまうような環境では、そのノウハウが次の世代に伝わりにくいと思います。

いっぽうヤイリは「ギターに人が向き合わなければいけない環境」になっていますので、それぞれの職人が製品に対して熱意や情熱を持って作業に臨んでいます。もちろんこのやり方にも良しあしがありますが、結果的に作り手の「気持ち」が強く反映された製品ができているのは間違いのないところです。お客様が5年10年前のギターを調整に持ち込まれて、良く弾きこまれているのがわかって嬉しくなる、というのもこうした「気持ち」を持って作っているからで、そういうことが自然にできるというのが、ヤイリの良さだと思っています。

入荷を待つよりオーダーするという買い方

──オーダーメイドについてお伺いします。通販や店頭に欲しいモデルがない場合、入荷を待つよりそのモデルをヤイリにオーダーする、という人も多いと聞きました。こうしたオーダーメイドで価格が上がるということはないのでしょうか。

Yairi 仕様変更に伴うアップチャージはありますが、基本的にオーダーだから値段が上がるということはありません。ただ、こちらは商品価格を設定している大もとな訳ですから、工場に直接注文にいらしても、工場直販だから値引きするということもせず、定価販売とさせていただいております。また、ヤイリギターの商品は元々大きな値引きができるほどのマージンを持たない値付けでして、ヤイリのポリシーに同調していただいている問屋さんや小売店さんは、お客様に商品の価値をしっかりとご説明して販売をして頂いています。小売りの現場でも過剰な値引き競争などが無いので、お客様にとっては販売価格が高いというイメージがあるかもしれません。しかし値引きが大きい、小さいといった部分だけでギターの評価はできません。価格が守られているおかげで、私どもはヤイリの品質を守ることができます。

──安いものが良く売れるという世の中で、しっかりしたものを作っていくというのはご苦労も多そうですが、夢がありますね。

Yairi 安いギターで挫折していく人もいるようですが、最初からある程度のもので練習する方が長く続けられるようですね。使いにくい楽器を最初から持ってしまうと、上達のハードルになります。飛びぬけて高価なものを買う必要もないとは思いますが、ちゃんと作られたものを選ぶというのは大きなポイントだと思います。楽器というものは、「弾き手の思い入れ」も重要だと思います。自分が弾きたいなと思うとか、ずっと使っていきたいなと思うものを選んでいただけるのが良いことだと思います。

苦労話や、お店に期待すること

──こんなオーダーやリペアが大変だった、というような苦労話などはありますか?

Yairi 作業中の痛かった思い出はたくさんありますね(笑)。仕事の性格上、多少の怪我は付き物です。そういえば、寸法などものすごく細かく製図してきたお客様がいらっしゃいましたね。図面を引くご職業とのことで、性格上こうして持ってこないと気が済まなかったそうです。もちろん手作りの精度の限度はご理解していらっしゃってのことですが、詳細な図面を出されて緊張しましたね。

オーダーでは、「お客様と弊社側との思惑の違いをいかになくすか」に腐心します。当たり前に感じていることって当たり前だとすら感じませんから、いちいち確認をとることがありません。作ったギターがこれでよかったのか、本当のところは納品するまでわからないのでいつもハラハラします。今はカラーリングにこだわるお客様が多くいらっしゃって、ニュアンスの受け止め方ですれ違いが起こることもあります。しかしそれはある程度仕方がないものだと考えていますし、修正などで充分に対処できます。そうした経験から、今では先回りしていろんなことを想定しておいてから打ち合わせをする、という身構えができています。その場では失敗だったかもしれませんが、対処することで経験が積み上がりますから、失敗ではなくなります。

最近は随分と減りましたが、ヤイリのギターは頑丈に作るので、納品したばかりの状態では「鳴り」がおとなしいんです。ですからお客さまから「鳴らないじゃないか」とご指摘されることもありました。「5年10年弾いていくうちに育っていきます」とご説明していますが、その時はあまりピンと来ないものです。でも5年10年後に、そういったお客様からも「長く使っていて良かった」というお声を頂くことがあり、ありがたく思っています。

お客様の知識の偏りで、ご希望された内容が現実的でないこともあります。雑誌やネットで得られる情報って、断片的で、しかも膨大じゃないですか。これからギターを始める人には整理しきれないと思うんです。そこを楽器店の店員さんがクッションとなって、ある程度整理された情報をお客様にお伝えしていただけると、こちらも助かりますしお店にとっても良いと思うんです。

例えば弦高調整について、「エレキギターみたいに1.2mmでお願いします」という要望で送られることがありました。どこかにそこまで下げられるという情報があったようですが、アコギの常識としては下げ過ぎです。数値的に下げるだけならできますが、よほどソフトに弾かないと弦がビビる、弾き方を選ぶセッティングになりますね。弾きにくいからとにかく下げたいという要望なのか、奏法上この数値が必要なのか、数値と一緒に理由があるはずなんですが、依頼される時に店頭などで聞き取ってくれるとスムーズに対処できます。

楽器店さんでは大変多くの品目が扱われますから、どの店舗にもアコギの専門家がいる、というわけにはなかなかいきません。このブランドはこう、このモデルはこう、といった専門的な説明ができる店員さんは貴重な存在になっています。そういう状況ですから、工場見学やリペアクリニックなどを通して、メーカー側から情報を発信していくというのも大事なんだなと感じています。店員さん向けのリペア研修を開催することもありますよ。

──昔のギターは適正なセッティングでも弦高がかなり高いですよね。現代の感覚では弾きにくく感じます。

Yairi 昔は奏法上オープンコードが主体で、バレーコードはあまり使わないのが普通でした。高いポジションはカポタストを使うためにあるようなものですし、フレーズ弾きもそこまで求められていませんでしたから、弦高にそこまでシビアではなかったんです。弦高は高い方が音はいいですし。80年代くらいまではヤイリでも標準的な弦高を3.5mmにしていて、今より1mmほど高い数値でした。弦はミディアムゲージも普通に使用されましたし、フレットも現在のものより低いものも使われていましたね。

当時のギターを愛用している人の中には、そのセッティングの音が染み込んでいるためか、現代のギターに耐えられないという方もみえます。現在では標準弦高2.5mmで出荷していますが、高いとも低いとも言われます(笑)。撫でるようなピッキングの方ならもっと下げたいでしょうけど、ガンガン弾く人ならもっと高い方がいいかもしれません。

ギターの視点から、経済のお話

Yairi 日本の現状を見ますと、市場に出回っている在庫数が比較的多い状態にあります。ものが良く動いているうちはそれでいいんですが、そもそも全体から見れば楽器人口は少ないですし、「楽器離れ」とまで言われるほどの減少傾向にあります。ギターは生活必需品でもありませんから、しっかり在庫を持って安定的にどんどん売っていく、という商売は過去のものとなっていくのではないでしょうか。

それであれば、ちゃんとしたものを作って、ちゃんとしたものを買いたいというお客様に買っていただくという従来の姿勢のままで大丈夫だと判断しています。もともと弊社は量産したくてもできませんから、限られた生産数でどうやって運営していくかがポイントになります。あまりたくさんばらまいてしまうと、メンテナンスもできなくなってしまいます。お客様の顔を見て、やりとりができて、というサイクルは維持していきたいと思っていますから、今より会社を大きくしてしまうわけにもいきません。

ヤイリの生産体制のお話

Yairi 会社を大きくしすぎてしまうと、お客様の顔が見えなくなってしまいます。それは先代が目指すところではありませんでした。先代は「会社をまだまだ小さくする」と言っていたくらいです。

──俺の代になったんだから、会社を大きくしていくんだ、といった野望はありませんか?

(株)ヤイリギター矢入賀光(以下、矢入) (笑)ないです(即答)。

Yairi 先代は「一人ひとりがそれぞれ一台ずつ作っていく職人集団」、「ヤイリという運動場があって、それぞれの職人が自由に走り回ればいい」と言っていました。今は通常のレギュラーラインがあって、カスタムショップがあるという体制です。カスタムショップの輪がもっと広がっていくのが先代の理想だったんですが、それだけでは会社の維持は難しいでしょうね。

──未来のカスタムショップを背負って立つような職人さんはいるんでしょうか。

Yairi 立候補は何人かいますが、こちらから手とり足とり育てるという動きはせず、育ってくるのを見守っています。部署を一任しても問題ないところまで育っている職人もいますし、それぞれやりたいことがあって切磋琢磨しますから、将来的もっと伸びるだろうと期待される職人もいっぱいいます。特に必要性がなければ各職人の配置換えなども行いませんから、気概のある職人は手すきのときに他の部署を廻って、総合的な技術を学んでいます。

矢入 イベントをやると、「え、こいつこんなことができるの?」と驚かされることもありますよ。

グッズ 端材を利用したグッズ、オリジナルTシャツ、みんな社員さんの発案です。

Yairi イベントでは社員が一丸となりますから、良い意味で文化祭的なノリがあります。

ヤイリくん

端材で作られたヤイリくん。時節ごとにさまざまなデコられ方をするそうです。

──マスコットキャラクターになっているヤイリくんも、そうした中から生まれたんですね!

矢入 はじめはこんなブサイクなんでええんか?と思っちゃいました(笑)。

業務内容について伺いました。

──お二人は、日頃はどんなお仕事をなさっていますか?

 社長は社長なので、会社のまとめ役です。

矢入 雑用もです(笑)。

 大きな仕事から小さな仕事まで、いろいろ動いていただいています。材料で大きな発注がかかる時は社長の出番ですし、人手が足りないから手伝って、という時にも手伝ってくれます。そんなわけで、社長という仕事は一言では表現できません。

──仕事の範囲が広く、会社全体も把握するわけですから、大変なお仕事ですね。

矢入 把握しきれてへんやろなぁ(笑)。

 弊社は個々の自由な動きをかなり認めていて、職人それぞれに持ち場を任せています。それもあって職人たちの責任感やモチベーションは高くなっています。でも逆に、だからこそまとめるのは大変ですね。

矢入 みんなのモチベーションが下がらないようには気を使っています。

 私はもともと現場担当です。バフやブリッジ取り付け、出荷などをずっとやっていました。最近では庶務としても働いていて、オーダーの対応や生産調整、現場内のやり取りなどをします。社長も私も守備範囲の広い業務ですが、逆に職人たちは持ち場が決まっていますから、それ以外のところをやる役職です。だからどうしても雑用が多くなりますね。カスタムショップとレギュラーラインは部署が違うだけ、社長以下は全員同じ地位にいる、という考えでそれぞれの職人を社長が一気にまとめている、というイメージです。

──どうやったらヤイリの社員になれるんでしょうか?いつも募集していませんよね?

 年に何人か、入社希望でこちらにいらっしゃる方はいますね。電話の問い合わせも多く頂きますし、何度もいらっしゃる方もいます。今では無理ですが、ベテラン職人の中には、押し掛け女房みたいに入り込んで居座ってしまったという話も聞いていますね。私は純粋にタイミングと運だけです。隣の多治見市に住んでいて、もともとギター製作の学校に通っていたんですが、ヤイリのことを知って入社希望を出したんです。

どれだけ熱意や技術がある人でも、タイミング的に今はいらない、と会社が判断するなら入社はできません。社員が退職するのが一つのタイミングではありますが、若い職人はなかなか辞めません。弊社に入社するだけでも相当狭い門を通ってきた社員ばかりなので、3年やそこらで辞めてしまう人はいませんね。そういう意味でも社員全員のモチベーションは高く、いい人材がそろっていると思います。

──ヤイリはこれから何を目指すでしょうか?

矢入 自分としては、「現状維持」ですね。これから時代が変わって行っても、ヤイリはヤイリのまま、「変えない努力」を続けていきたいです。先代が積み上げてきたものを守っていくのがてっぺんで、まだ届いていないんだけど、よく3年ももったな、と思っています(笑)。

 私どもを取り巻く環境は、どんどん変わっていきます。ヤイリの会社自体が変わらないとしても、パーツなどで製作協力をしていただいている業者さんが仕事を辞めてしまうことも想定しなければなりません。材料事情は年々悪くなっていきます。今年(2017年)の1月に国際的な取り決めでローズウッドの入手が難しくなりましたが、5年10年先だと他の材も含めもっと厳しくなっていくでしょう。私自身「変わらないな、懐かしいな」というものが好きなんで、そういうもの感じられる部分を残していきたいです。

──ありがとうございました。

矢入 ありがとうございました。
 ありがとうございました。


以上、岐阜県可児市、株式会社ヤイリギターの工場見学とインタビューをお届けしました。なんでも理路整然と解説してくれる森さん、またほのぼのとした矢入社長の人柄が印象的でした。ヤイリでは時代に対処しながらも手作りを守り通した、昔ながらのギター作りが今なお続けられています。

また、森さんは若い方でしたが
・口輪(ロゼッタ)
・力木(ブレーシング)
・木飾り(ウッドバインディング)
・竿削り(ネックのシェイピング)
というように日本語の名詞を多く使っていたのが、ヤイリの伝統が継承されているということを静かに物語っているように感じました。

ヤイリの熱心なファンのことを「ヤイラー」と呼びます。あなたも、ヤイラーの仲間になりませんか?

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