Epiphone(エピフォン)のアコースティックギター徹底分析![記事公開日]2017年7月30日
[最終更新日]2017年11月30日

上位機種「マスタービルト」コレクション

「Masterbuilt(マスタービルト)」コレクションは、1931年からスタートした、エピフォンが誇る上位機種のラインナップです。エピフォンはこの「マスタービルト」コレクションを皮切りにギブソンに喧嘩を売って激しく競争し、ついには両社ともギターのトップブランドと認知されるまでに至りました。

現在の「マスタービルト」コレクションは、ギブソンに喧嘩こそ売っていませんが、1930年代当時の雰囲気を大切にしたフラットトップとアーチトップの2タイプをリリースしています。これらのラインナップは、「良い楽器を限りなく探求するエピフォン」の象徴として、品質とサウンド、高い演奏性と圧倒的なコストパフォーマンス、そして他にはないエピフォンの個性を主張しています。


Dave Rawlings Machine – Ruby (Live on KEXP)
デヴィッド・ローリングス氏は、1935年製エピフォン・オリンピックの愛用者として知られています。この動画でも使用しているはずですが、大変もどかしいことに、氏が使用するギターのヘッドに決してピントが合いません。手前の女性が演奏するギブソンのヘッドロゴが何度もバッチリ映っているあたり、大人の事情を感じますね。

「マスタービルト」の特徴

それではまず、「マスタービルト」コレクション全体に共通する特徴を見ていきましょう。「マスタービルト」コレクションには、長い歴史を誇るエピフォンにおいて、「上位機種」を名乗るに足る数々のポイントがあります。

1) 新旧織り交ぜた製法と、グレードの高いマテリアル

「マスタービルト」コレクションでは昔ながらの製法に従って、すべて手作業で作られます。内部のブレーシングも手作業で成形し、ボディとネックは伝統的な「ダヴテール・ジョイント」で接合されます。ヘッドや指板には美しいインレイがちりばめられ、ボディトップは5層にもなる多層バインディングが施されます。昔ながらの手作業で作られたギター本体は、出荷前に最新機器「PLEK(プレック)」にかけられ、バッチリ調整されます。

フラットトップ/アーチトップ 左:フラットトップ「2015 AJ-45ME」、右:アーチトップ「Zenith Classic」

ボディに使われる木材は、

  • フラットトップ:総単板
  • アーチトップ:トップ単板

となっています。丈夫さや安定性では合板に軍配が上がりますが、軽量で鳴りが良いというメリット、またそのプレミアム感から、「高級機であるならば単板であるべき」という考え方が現代の主流です。一本の木がギターのトップやバックに使用できる幅に成長するのには、100年をはるかに超える年月を必要とします。楽器に使用できる単板を手に入れるのは年々難しくなってきており、その価値はますます上がっています。

ネックの仕様については二種類あり、

  • フラットトップ:マホガニー1ピース
  • アーチトップ:メイプル&マホガニー5ピース

となっており、それぞれのギターにおける伝統的な仕様が受け継がれています。また、ナットには自然の骨が使用されます。

ペグにもこだわりがあり、

  • フラットトップ:グローヴァー社製「Sta-tite」
  • アーチトップ:エピフォン・リイシュー・チューナー

この二つはエピフォンラインナップにおいて、「マスタービルト」コレクションのみの採用となっています。いずれもトラッドなスタイルを演出する外観を持っていますが、ギア比は共通して「18:1」となっており、高精度なストロボチューナーでも比較的ラクに、ビシっとチューニングを決められる性能を持っています。


Jasmine Cain Visits Epiphone Headquarters
シンプルなストロークによる弾き語り。かなりデカい声で歌っているようですが、ギターの生音がしっかり支えていますね。総単板のギターは、豊かな生鳴りが大きなアドバンテージです。

2) 個性を主張する意匠

「マスタービルト」コレクションは、フラットトップ/アーチトップそれぞれに古きよきエピフォンのスタイルを受け継いだヘッド形状が採用されており、他のギターとは一味違った雰囲気を帯びています。フラットトップには左右非対称のヘッドに30年代当時を思わせる書体のブランドロゴが埋め込まれ、中央には「スティックピン・インレイ」が配置されます。

Century Olmpic:ヘッド部分 アーチトップ「Century Olmpic」のヘッド部分

アーチトップでは、ほんのり非対称のヘッドにブランド名、モデル名、そして「Masterbuilt」の3つが埋め込まれ、古風なエレガンスを演出しています。ペグにもその時代のスタイルが復刻されており、アール・デコ時代の雰囲気をしっかり味わうことができます。

ヘッド、ネック、ボディにはそれぞれのモデルを演出する多層バインディングが巻かれ、高級感が演出されています。バインディングで外周が縁取られているギターは、ステージでの存在感もアップします。

3)高性能なエレクトロニクス

「マスタービルト」コレクションで採用されているピックアップシステムは、ドイツの「シャドウ(Shadow)」社製で統一されています。シャドウは1971年創業、この分野における老舗中の老舗で、今では各方面で当たり前に使用されている「アンダーサドル・ピックアップ」を世界で初めて開発しました。さまざまなピックアップ/プリアンプの開発が有名ですが、

  • 足踏みをピックアップする新しい楽器「Stompin Bass」
  • キルスイッチが仕込まれた可変抵抗器「Kill Pot」

など、斬新な製品を世に送り出しています。

■ただのピエゾではない、アンダーサドル・ピックアップ「NanoFlex」
「ナノフレックス(NanoFlex)」は、「マスタービルト」コレクションに共通して採用されているアンダーサドル・ピックアップです。ピックアップ自体がアクティブ化されているため非常にノイズが少なく、また表裏両面の振動をキャッチすることができるため、弦の振動もボディの振動も検出することで、買ったその日からボディをたたく「スラム奏法」にチャレンジできます。

■幅5mmの高性能マグネット・ピックアップ「NanoMag」
「ナノマグ(NanoMag)」は最小のスペースにエアーコイルとサマリウム・コバルト合金マグネット、そしてアクティブ回路を組み合わせたマグネット・ピックアップで、ハムノイズに悩まなくてもよいクリアな信号を生み出します。エアー感のあるクリアなサウンドが特徴で、サウンドホールを塞がないことから楽器の鳴り方にもそれほど影響を与えません。

■3種の高性能プリアンプ
「マスタービルト」コレクションでは、3種類のプリアンプがモデルごとに採用されています。エピフォン専用に開発されたものもあり、このシリーズにかけるエピフォンのやる気がビシビシと伝わってきます。

モデル名 Sonic eSonic-2 eSonic HD
取り付け位置 サウンドホール内 ボディサイド Fホール内
使用する電池 本体に取り付けるボタン電池2個(3V) 本体に取り付けるボタン電池2個(3V) 四角い電池(9V)アウトプットジャックに電池ボックスあり
ピックアップ NanoFlex NanoFlex & NanoMag NanoFlex HD
機能 ボリューム、トレブル、ベース、アンチフィードバック、低バッテリーインジケータ ボリューム、ブレンド、Mag/EQ、Flex/EQ、クロマチックチューナー、アンチフィードバック、低バッテリーインジケータ ボリューム、トーン
特記事項 ボタン電池を使用する分だけ軽量になり、楽器の鳴りへの影響が軽減できる アウトプットジャックが二つあり、それぞれのピックアップをばらばらにも、一か所からブレンドしてもアウトプットできる シンプルな設計だが、高電圧仕様
採用モデル AJ-500RCE
AJ-45ME
EF-500RCCE
DR-500MCE
全てのアーチトップ

表:マスタービルトコレクションのプリアンプ

シャドウ社の「Sonic」および「eSonic HD」は、サウンドホールの内側に取り付けることで楽器への加工を最小限にとどめることのできるプリアンプです。このタイプのプリアンプは「メカが埋め込まれているっぽくない」という外観上の大きなメリットも持っています。

「低バッテリーインジケータ」は、点灯によって電池残量の低下を知らせてくれます。それでも光ってから30分ほどは使用できますから、演奏中に光り出しても曲が終わるまではじゅうぶん使用できます。

「eSonic-2」は、二つのピックアップをブレンドして使用できる高性能モデルです。異なるピックアップから取り入れた音をうまくミックスすることで、生の音に近づいたサウンドが得られます。ピックアップの音を個別にアウトプットできるのは、音質にこだわったレコーディングをするのに重宝される設計です。


The Epiphone eSonic2 Preamp System for Acoustic Guitar
ブレンドを使用してサウンドキャラクターを変化させる、NanoMagアウトプットにディストージョンをかける、ジャズギターそっくりのサウンドを作るなど、アイディア次第でさまざまな使い方ができます。

「eSonic HD」は、この3モデル中では最もシンプルな作りですが、アーチトップでは狭いFホールに指を突っ込んで操作することになるので、これくらいがベストだと考えられます。Fホールの狭さを考慮して、このモデルのみ電池ボックスがボディエンド側に付けられています。この位置だと電池交換がすぐできるため、「低バッテリーインジケータ」がなくても心配ありません。別途「バッテリーチェッカー」を持っていれば、更に安心です。

フラットトップのラインナップ

ドレッドノートタイプ(AJ/DR)

AJ-500RCE、AJ-45ME、DR-500MCE 上から:AJ-500RCE、AJ-45ME、DR-500MCE

ドレッドノートタイプでは、ラウンド・ショルダー、スクエア・ショルダー両方がリリースされています。全てシトカスプルース単板トップ、単板マホガニーサイド&バック、1Pマホガニーネック、といった大まかな共通点はありますが、ちょっとこだわりたいところにはしっかりと違いが付けられています。

「AJ」は「アドバンスド・ジャンボ」を意味したラウンド・ショルダーで、ヘッド側に向けて凸の形をしたブリッジ、「DR」はスクエア・ショルダーで、ボディエンドに向けて凸の形をしたブリッジが使われます。

モデル名 AJ-500RCE AJ-45ME DR-500MCE
肩の形状 ラウンド ラウンド スクエア
カッタウェイ あり なし あり
弦長(インチ) 25.5 24.75 25.5
プリアンプ Sonic Sonic eSonic-2

表:「マスタービルト」コレクションのフラットトップ比較

ドレッドノートは迫力のあるサウンドが持ち味で、特に中音域の押し出しが強く、「コードストロークにはこれ以上ない」とまで言われています。AJ/DRもこれにならい、ロックやカントリー、ブルーグラスなどさまざまなジャンルで使用できるサウンドを持っています。

「AJ-500RCE」はエピフォンの「テキサン」を、「AJ-45MFE」はギブソンの「J-45」を模しています。いずれもラウンド・ショルダーですが弦長に違いがあり、

  • 「500」は標準的な25.5インチ
  • 「45」はギブソン標準と言える24.75インチ

に設定されています。ピックガードの意匠にも違いがありますね。

フォークタイプ(EF-500RCCE)

EF-500RCCE

トラッドな「オーケストラ(マーチン000に相当)」ボディシェイプを持つEF-500RCCEは、特にフィンガーピッキングへのプレイアビリティを意識したギターで、弦長は標準的な25.5インチですが、ナット幅は1.75インチ(約44.5mm)と広めで、ネックグリップは「V」シェイプとなっています。

本機は「マスタービルト」コレクション中で唯一、ボディトップに「シダー」が使われています。シダーは鉄弦のアコギでは珍しいトップ材ですが、クラシックギターでは「スプルースかシダーか?」という二択になるほど多用されます。シダーはやや赤みがかかった濃い色調と、柔らかく丸みのある音色を特徴としており、アルペジオやリードプレイ(メロディ弾き)、ソロ演奏などに向いています。

電機系には多機能な「eSonic-2」が採用されており、生音をそのまま大きくしたようなサウンドから趣向を凝らしたマニアックなサウンドまで、幅広いサウンドメイキングが可能です。

アーチトップのラインナップ

左から:Olympic、Zenith、Zenith Classic、Deluxe、Deluxe Classic

アーチトップのアコースティックギターは、アコギ市場ではフラットトップに敗北し、自身はマグネット・ピックアップを取り付けた「フルアコ」へと変貌していきました。ほぼ半世紀にわたって、アーチトップと言えばフルアコセミアコのことであり、アコースティックギターは大変マニアックな存在でした。

そのため現在では、多くのギタリストがアーチトップに触れたことがなく、アーチトップを演奏するのはまったく新しい体験になります。独特のトップ形状の裏には縦方向にブレーシングが走っており、普段弾いているフラットトップ、Xブレーシングのギターとは構造が異なっています。アーチトップには独特の温かみとパンチ力がある、と言われますから、ぜひ体験してみてくださいね。

アーチトップのアコースティックギターは「センチュリー・コレクション」として、ボディサイズに違いを持たせたラインナップになっています。

モデル名 ボディ幅 サウンドホール
Century Olympic 14.62インチ Fホール
Century Zenith 16インチ 丸型
Century Zenith Classic 16インチ Fホール
Century Deluxe 17インチ 丸型
Century Deluxe Classic 17インチ Fホール

表:エピフォン・アーチトップの違い

ボディサイズは抱えやすさだけでなくサウンドにも寄与し、16インチのゼニスを標準として17インチのデラックスは低音の押し出しが強く、14.62インチのオリンピックは煌びやかな高音が引き立ちます。サウンドホールの形状も生音に大きく関係しており、Fホールはジャキっとした音が広がる感じ、丸型のサウンドホールではドンっと前に出る感じになります。
アコギのボディタイプとサイズについて

Century Olympic:ボディ サウンドホールが施された「Century Olympic」

全機種スプルース単板トップで、「オリンピック」のみ積層マホガニーサイド&バック、他は全て積層フレイムメイプルサイド&バックとなっています。

ネックについては全機種共通で、

  • メイプルとマホガニーを5枚重ねたネック本体、エボニー指板
  • 弦長25.5インチ、ナット幅1.69インチ(約42.9mm)
  • ラウンド「C」ネックグリップ

となっています。


The Epiphone Masterbilt Century Acoustic Archtops
マスタービルトのセンチュリー・デラックスをいろいろなプレイヤーさんに触っていただいた模様です。ギターの音はフィッシュマン社製のアンプに送り、アンプの設定はフラットにしています。音も感触もよいらしく、皆さんごきげんですね。