アコースティックギター初心者向け入門講座

マーチンギターに使用されるマテリアル

高級アコースティックギターの草分けであるマーチンのラインナップは、税込価格40万円台を標準として、10万円でお釣りが来るものから1,000万円以上するものまで、大変幅広く揃えられています。ここでは特にマテリアル(材料・材質)の違いと価格の関係に着目して、マーチンが使用しているマテリアルの紹介をしていきましょう。

トップ材

シトカ・スプルース

シトカ・スプルースシトカ・スプルース:D-28

ボディトップに使われるのは、主に「シトカ・スプルース」です。これはアラスカ南部からカリフォルニア北部に多く分布している木目の細かい針葉樹で、アラスカ檜(=ヒノキ)とも呼ばれます。スプルースは柔らかく音響性能に優れており、クラシックギターに最適なトップ材として使用されてきました。もともとクラシックギター製造から始まったマーチンは創業以来ずっと使用しており、そのため現代ではアコギのトップ材のスタンダードになっています。

アディロンダック・スプルース

アディロンダック・スプルースアディロンダック・スプルース
Custom Shop D-28

グレードの高いモデルや特別なこだわりのあるモデルには、「アディロンダック・スプルース」が使用されます。ヴィンテージマーチンのマテリアルとして有名で、弾き込む程に倍音が豊かに響く、音量のある明瞭なサウンドが得られます。ヴィンテージギターを再現する「Authentic(=オーセンティック)モデル」など高級機のトップ材には、「VTS(=ヴィンテージ・トーンシステム)」という処理が施されていて、ヴィンテージギターの振動の仕方を年代ごとに再現しています。

VTSは高温と高圧で木材を熟成させ、木材の内部組織に変化をもたらす技術で、「古材化処理」とも言われています。木材を古材化すると剛性が高まることから建築資材として研究が進められてきましたが、近年楽器開発においても少しずつ応用されてきています。木材が長い年月を経て物質的に変化することで、倍音が豊かで抜けの良いヴィンテージサウンドが作られます。マーチンでは、高温高圧処理の結果を実物のヴィンテージギターと比較し、年代ごとの内部構造を模倣することに成功しました。新品のギターなのに何十年も経過したかのような抜けのあるサウンドが得られることから、海外サイトではこの処理を「タイムマシン」と表現しています。日本では「玉手箱」と言った方がイメージしやすいかもしれません。

ハイプレッシャーラミネイト

ハイプレッシャーラミネイトハイプレッシャーラミネイトのサイド材
DX-1 RAE(Xシリーズ)

いっぽう価格を抑えたモデルには「HPL(=ハイプレッシャーラミネイト)」という合板が使用されることがありますが、この素材はトップ材としてよりもサイド&バック材として多く使われます。

HPLは木の薄板を何層も高圧で圧着した新素材で、木材として加工することができる上に剛性が高く、ギターのマテリアルとしては「温度や湿度の影響を受けにくく調整が崩れにくい」という大きなメリットがあります。マーチンギターに使用される時には、スプルースやマホガニーなどの木目がプリントされます。

サイド/バック材

マホガニー

Solid Genuine MahoganyD-18のバック材

標準的な現行モデルで使用されるサイド/バック材は、D-18や000-18などの「スタイル18」では「Solid Genuine Mahogany(=代替材ではなく正真正銘の、マホガニー単板)」が使用されます。「Solid」は「硬質な」という意味もありますが、「無垢材(=Solid Wood、単板)」の意味で使用されています。良質なマホガニーは慢性的に入手困難で、マーチンは世界各地から手配に腐心しています。

生産ロットごとにマホガニーの産地が異なるため産地を表示することができず、余計な混乱を防ぐためにこのような表示になっています。

ローズウッド

ブラジリアン・ローズウッドブラジリアン・ローズウッドのバック材

一方D-28、D-45、000-28など「スタイル28」以上のグレードでは「インドローズ」が使用されます。インドローズは日本では「紫檀」の名で親しまれている銘木で、中世のヨーロッパでは貴族や王室の家具に使われていました。さらにグレードが上がり、100万円を超えるモデルになると「マダガスカル・ローズウッド」が使用されます。ローズの中では最も重く硬質で、そのため音圧と音量が上がり、立ち上がりのよさときらびやかさがトーンに加わります。

最高グレードになると「ブラジリアン・ローズウッド(=ハカランダ)」が使用され、暖かく甘い響きを堪能することができます。

サペリ、モラド、シリス

サペリのバック材Road Series:DRSGTのバック材

30万円前後のモデルでは、マホガニーの代替材として認知されている「サペリ」、ローズウッドの代替材「モラド(=ボリビア産)」や「シリス(=東南アジア産)」が使用され、20万円を下回るモデルでは上述の「HPL」が使用されます。

これらは代替材ではありますが、サウンドの判断がなかなか付けられないくらいに本物そっくりのトーンを持っています。

ネック材

マホガニー

ヴィンテージマーチンのネック材と言えばマホガニーであり、最高品質のものはホンジュラス産であるといわれています。ところが現在、良質のマホガニーは全世界に供給するに十分な量を揃えることが大変困難で、マーチンの泣き所になっています。主要モデルのネック材は「Selected Hardwood(=厳選された堅い木)」と表示されていて、どういった品種の木材かまでは分かりません。しかしながらマーチンのギターに採用する上で、十分な品質を持っているマテリアルであるとされています。100万円を超える高級機でも、現行モデルでは同様のネック材が使用されます。

マホガニーのネックはヴィンテージギターを再現した高級機などに限定的に使われますが、ここでもボディ材同様「Solid Genuine Mahogany(=代替材ではなく正真正銘の、マホガニーの無垢材)」が使用されます。1,000万円を超える超高級モデルですらこの表示がされるところから、安定的に良質なマホガニーを揃えることが、いかに難しいのかが分かりますね。

ストラタボンド

ストラタボンドのネックストラタボンドのネック:DRS2

30万円近辺のモデルからは、「Stratabond(=ストラタボンド)」という集積材が使用されます。

これは1mm厚ほどの板を何層にも重ねて貼り合わせたもので、廃材を利用しているため安価で、また多層ラミネートであるため強度に優れており、温度や湿度の影響を受けにくく調整が安定するという利点があり、特にライブでの使用を想定したエレアコなどに積極的に採用されています。

指板/ブリッジ材

D100 Deluxe の指板D100 Deluxe の指板

標準機種から最高グレードまで、指板とブリッジには「エボニー(=黒檀)」が使用されます。エボニーはローズウッドより硬く、サウンドも硬質になりメリハリが出ます。30万円近辺のモデルから、エボニーの代わりに「リッチライト」という人工素材が使用されます。

・リッチライトは再生紙を圧縮して樹脂を加えた人工の木材で、ギブソンなど他のメーカーでもエボニーの代替材として採用されています。聞き分けることができないほどサウンド特性が酷似しており、強度があってフレットやブリッジピンの圧力に余裕で耐え、なおかつ工業製品なので個体差(当たり外れ)がなく、環境変化に強いため調整が狂いにくく、オイルメンテを必要としない大変便利な素材です。「銘木」のプレミアム感がない所に目をつぶれば、楽器用のマテリアルとして大変優れていると言えます。

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